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父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

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第2話 ロマンス、死す

新婚三日目の朝。

ミレイユは気合を入れて早起きした。


(よし!今日こそ絶対、新婚らしいことするんだから!)


昨日までは何となく流されるままだった。

でも今日は違う。

ちゃんと新妻らしいことをするのだ。


(まずは朝食!

 夫婦で朝食を共にするんだ!)


これこそ新婚の基本中の基本ではないか。

侍女たちも協力してくれて、テーブルには豪華な朝食が並んだ。

焼きたてのパン、フルーツ、スープ、そして紅茶。


(これは完璧!今日は絶対、いい一日になるやつ!)


ミレイユは満足げに頷いて、ヴァルミールを待った。

しばらくして扉が開く。


軍服姿のヴァルミールが現れた。


「おはよう、ミレイユ」


「おはようございます!」


ミレイユは急いでヴァルミールの席に駆け寄り、笑顔で椅子を引く。

ヴァルミールは少し驚いたような顔をした。


「朝食を用意してくれたのか?」


「はい。一緒に食べましょう」


「ありがとう」


彼は優しく微笑んで、席に座った。


(よし、いい感じ!)


紅茶を注ぎながらミレイユは話題を探す。


「昨日はお仕事お疲れさまでした」


「ああ、父君と遅くまで話し込んでしまった」


(また、父の話。

 でも、まあ仕方ない)


「どんなお話を?」


「灌漑計画だ。父君の提案が素晴らしくてね」


ヴァルミールの目が輝いた。


「この星、ニャグネムIIIは熱帯惑星だ。

 熱帯雨林が多くて、水資源は豊富なんだが、農業に適した土地が少ない。

 だが、父君は地形を活かした灌漑システムを提案してくれた」


「そう……なんですね」


「ああ。本当に君の父君は優秀だ」


彼は心から嬉しそうに語る。

ミレイユは紅茶を啜った。


(あ、さっきから話題が全部父上だ……。


 いや、でも。

 夫が父を評価してくれるのは嬉しいことだ。


 うん、そうだ。

 私も父上が大好きだし)


ミレイユも心からの笑顔を作ってそれに応じた。


「父もお役に立てて嬉しいと思います!」


「ああ、本当に助かっている」


ヴァルミールはそう言って書類に目を落とした。


(え、書類?)


いつの間にかテーブルの端に書類の束が置かれている。


「すまない、朝のうちに目を通しておきたい事案があって」


「あ、はい……」


ヴァルミールはパンを食べながら書類を読み始めた。

ミレイユは黙々と自分の朝食を食べた。


(でもまぁ、新任のご領主様だし忙しいわよね!)


そう自分に言い聞かせた。


◇◇◇


午後。

ミレイユは思い切って提案してみた。


「あの、ヴァルミール様」


「ミレイユ、ヴァルと呼んでくれ」


「え……では、ヴァル様」


「様もいらない」


「ヴァル……」


名前を呼ぶだけで、少しドキドキする。

彼は優しく微笑んだ。


「どうした?」


「あの……午後にお茶でもいかがですか?」


「いいね」


(やった!)


ミレイユは内心でガッツポーズ。

これで二人きりでゆっくり話せる。


「では、父君も呼ぼう」


「……え?」


「父君もちょうど休憩時間だ。三人でお茶を飲もう」


(え、二人きりじゃないの?)


でも断れなかった。

結果――。

テラスのテーブルにはミレイユとヴァルと父の三人が笑顔で座る


「ミレイユ、紅茶を淹れてくれてありがとう」


「いえ……」


ミレイユは三人分のカップに紅茶を注ぐ。

ヴァルと父はすぐに話し始めた。


「アレクシオン、例の熱帯雨林の伐採計画だが」


「はい。環境への影響を最小限にするため、段階的に進めるのがいいかと」


「なるほど。具体的には?」


「まず、この地域から……」


父は持参した地図を広げた。

二人は完全に仕事モード。

ミレイユはお茶を注ぎ足す。

そして、黙って相槌を打つ。


(あ、私、給仕係だ、これ)


会話に入る隙もない。

というか、内容が専門的すぎてついていけない。


「ミレイユ、おかわりをもらえるか?」


「はい」


ミレイユはヴァルのカップにお茶を注ぐ。


「ありがとう。ところでアレクシオン、この工法は――」


話は延々と続いた。

父は楽しそうだ。

ヴァルも目を輝かせている。


(まぁ、父上も楽しそうだし……いいか)


ミレイユはそう自分を納得させた。


◇◇◇


夕暮れ時、ミレイユは最後の作戦に出た。


「ヴァル、庭を散歩しませんか?」


「いいね」


ヴァルは快く承諾してくれた。


(やった!今度こそ二人きり!)


屋敷の庭は熱帯の植物が生い茂っていた。

見たこともない花が咲いていた。

ふわっと甘い香りが漂ってきた。


(……いい匂い)


異国情緒あふれる美しい庭。

そして、隣にはイケメンの夫。


(うん、これぞロマンス!)


ミレイユは少し胸が高鳴った。


「綺麗な庭ですね」


「ああ、前の領主が整備した庭園らしい。

 だが、まだ手入れが行き届いていない部分もある」


「そうなんですか?」


「ああ。ここも開発の一環として整備が必要だ」


ヴァルは真剣な顔で庭を見回した。

そして――。


「そういえば、明日父君と視察に行くんだ」


「視察、ですか?」


「ああ。熱帯雨林の奥地にある、未開発の地域を見て回る」


ヴァルの表情が明るくなった。


「父君の発想は本当に柔軟でね。

 現地を見れば、きっと新しいアイデアが出てくると思う」


「そう、ですね」


「それに父君は地形を読むのが上手い。

 地図だけでは分からないことも、現地で見れば一目瞭然だと言っていた」


「父はそういうのが得意ですから」


「本当に素晴らしい人だ」


ヴァルは心から嬉しそうに語る。


ミレイユは夕日を見上げた。

赤く染まる空はとても綺麗で――それなのに。


(ロマンス、死す)


隣の夫は延々と父の話をしている。

ミレイユの返事もほとんど聞いていない。

ただ、話したいだけなのだ。

父のことを。


「……そうなんですね」


ミレイユは相槌を打ち続けた。


◇◇◇


夜。


寝室でミレイユは再び待っていた。


(今日こそ!今日こそはちゃんと!)


でも、時計の針は深夜を指している。

そして――扉が開いた。


「すまない、父君と打ち合わせが長引いて」


(はい、知ってたー!)


ミレイユは深夜の妙なハイテンション。

そしてヴァルが疲れた顔で部屋に入ってくる。


「大丈夫ですか?」


「ああ、ありがとう」


彼はミレイユの隣に座った。

そして優しく額にキスをする。


「疲れただろう。もう寝よう」


「……はい」


その後は昨日と同じ。

優しくて、丁寧で。

でもどこか形式的。


(あれ?これで終わり?)


ヴァルはすぐに眠りについた。

規則正しい寝息がした。

ミレイユは天井を見つめた。


(お疲れさま、って労われてる感じ……?


 妻、というより――同居人?

 ……違う。

 それとも、ただ“優しく扱われている人”なだけ?)


うまく言葉にはできない。

でも、胸の奥が少しだけ冷える。

何かがきっと違う。


◇◇◇


翌朝。


またも隣には誰もいなかった。

ミレイユはベッドから起き上がって窓辺に立つ。


庭を見下ろすと――ヴァルと父が、並んで歩いていた。


二人とも、笑顔で話している。

父が何か言うと、ヴァルが大きく頷く。

そして、二人で地図を広げて何かを指差している。

とても楽しそうだった。


「……あれ?」


ミレイユは小さく呟いた。


「ねぇ、私って……要る?」


朝食も、お茶会も、散歩も。

全部、ヴァルは優しく付き合ってくれた。


(でも、本当に楽しそうなのは――父と一緒の時だけ)


庭の向こうで父が何か言った。

ヴァルが声を上げて笑う。

ミレイユと話している時に、そんな笑い声を聞いたことがなかった。


(ああ。そうか)


「父上……私の夫を盗らないで!」


(いや違う。

 盗られたんじゃない。

 最初から夫が欲しかったのは――父上だったんだ!


 私はただの……父上を手に入れるためのオマケ)


窓の外の二人を見つめながら、ミレイユは小さくため息をついた。


(でも――うん、まだ諦めるのは早い!)


ミレイユは拳を握った。


(父上ができることなら、私だってできるはず!)


父から受け継いだ、その血がうずく。


(そうだ!

 私だって、父上の血を引いた娘だ!

 能力がないわけじゃない。

 ただ、父上が優秀すぎて目立たなかっただけ。


 ならば――私も役に立ってやる!


 そうだよ、気づくのおそいよ、私。

 もう!もう!馬鹿!馬鹿!


 父上と同じように私も活躍すればいい。

 ヴァルに私の価値を認めてもらう。


 そして、ちゃんと――。

 妻として見てもらう)


「よし」


ミレイユは窓を開けた。

朝の熱帯の風が、部屋に吹き込んでくる。

落ち込んでいる暇はない。


「よし、作戦を練らなくちゃ!」


ミレイユの反撃は――ここからだ。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第2話をお読みいただきありがとうございました!


「ロマンス、死す」


――あまりにも早すぎる死でしたね(笑)。

完璧なイケメン夫の攻略対象が、まさかのお父さんだったとは……。

負けるなミレイユ! 開発計画に負けるな新妻!


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。


【おまけ設定集】

ミレイユ達は銀河星間帝国の一つに所属しています。

その国はこれです。


『ニャニャーン神聖帝国』

銀河の5%を支配する銀河星間帝国に中でも列強の一つが猫耳の神聖帝国。

精神主義国家なので、国民全員が敬虔なニャーン教信者である。

そして、強力な宇宙艦隊を持つ軍国主義で排他主義な側面も持つ。


貴族制度を敷いていて政治家は存在しない。

神聖皇帝(女帝)の下の貴族が政治を行う。

上級貴族は広大な領地を持っていて世襲も行われる。


一部の提督など軍功著しい者には爵位が与えられ世襲が許される。

軍の発言力が強く、艦隊提督は大抵公爵、侯爵位を兼任しており、政治的な発言力も高い。


平民と貴族の格差は大きく、平民は専門職に就かない場合は肉体労働者扱いされる。

逆に貴族は無能でも、要職に就ける。

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