↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第二章 ブランド戦争編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/29

第28話 ニャリューシャ地方

数日後。

ニャリューシャ地方へ向かう準備が整った。


ニャジへの報酬も現地へ送った。

調査に必要な道具も揃えた。

着替えなどの荷物も準備してある。


そして父は一足先に、十五人の冒険家を連れて西ルーニャシア地方へ旅立っていった。


「それでは行ってまいります!」


「気をつけてね、父上!」


ミレイユが見送る中、父はかなり上機嫌だった。

当初は娘についていくつもりだったのに、今ではすっかり西ルーニャシアの生態調査に夢中になっている。


(ふふふ……これで本当に二人きり!)


そして今日、今度はミレイユたちが出発する番だった。


伯爵邸の前には、二人を空港まで送るエアビークルが待っている。


「忘れ物はないか?」


「大丈夫です!」


ミレイユは元気よく答えた。

ヴァルと二人きりの調査旅行。


もちろん仕事である。

ニャルシア・ベリーとニャグネム・サンメロンの入手ルートを確認するという、れっきとした仕事だ。


(でも、二人きりの旅行には違いないもんね!)


前回のお菓子選びも楽しかった。


あの時と同じように二人で色々なものを見て、話して、食事をして。

仕事の合間くらいは旅行気分を楽しんでもいいだろう。


「ミレイユ」


声をかけられて振り返る。

そこには母がいた。


「母上!」


「いよいよ出発ね」


「はい!」


母はミレイユとヴァルを交互に見ると、ニコニコしながら手を振った。


「それじゃ、いってらっしゃーい!」


「え、それだけですか?」


「それだけよ?」


「もっとこう……気をつけなさいとか、危険な場所には近づかないようにとか……」


「ヴァル様が一緒なんでしょ?」


「そうですけど」


「だったら大丈夫、大丈夫!」


母はまるで近所へ遊びに行く娘でも見送るような軽さだった。


「二人で楽しんできなさい!」


「母上、調査ですからね!?」


「はいはい。調査ね」


母が楽しそうに笑っている。


(絶対デートだと思ってる!)


「では、行ってまいります」


ヴァルが頭を下げた。


「ヴァル様、娘をよろしくお願いしますね」


「もちろんです。必ず無事に連れて帰ります」


「はい。お願いします」


今度は母も、少しだけ母親らしい顔を見せた。


しかし最後には、やはり笑顔で大きく手を振る。


「いってらっしゃーい!

 楽しんできてねー!」


「行ってきます!」


ミレイユも手を振り返した。


二人を乗せたエアビークルが伯爵邸を離れていく。


いよいよ二人きりの調査旅行が始まった。


◇◇◇


空港ではヴァルの専用機が待っていた。


辺境伯家の紋章が描かれた小型機である。


機内はミレイユが思っていたより広かった。

向かい合わせの座席だけでなく、ゆったりと寛げるソファまで備えられている。


乗り込んで間もなく機体が浮上した。

ニャリンダルの街並みが眼下に広がり、少しずつ小さくなっていく。


「わぁ……!」


ミレイユは窓に顔を近づけた。


「すごい!」


「専用機に乗るのは初めてだったか?」


「はい。こんなにゆったりしてるんですね」


「長距離を移動することもあるからな」


ヴァルはそう答えながら、ミレイユの隣に座った。

肩が触れそうなくらい近い。


(……ふふ)


ミレイユは少しだけヴァルの方へ寄った。


「どうした?」


「いえ。せっかく二人きりなので」


「そうか」


ヴァルも少し照れたように笑った。

しばらく二人で窓の外を眺める。


「この前のお菓子選び、楽しかったですね」


「ああ。私も楽しかった」


「ヴァルも?」


「もちろんだ」


即答だった。

ミレイユは嬉しくなった。


「じゃあ、また行きましょうね」


「帰ったら行こう」


「約束ですよ?

 私、リビングのソファをもうちょっと可愛いのにしたいです」


「ああ、見に行こう」


ヴァルが手を差し出した。

ミレイユはその手を握る。


(いいなぁ、こういうの……)


誰にも邪魔されない。

父もいない。


ヴァルと話して、一緒に景色を眺める。

それだけなのに楽しかった。


(これだよ!

 私が求めてた夫婦の時間って、こういうの!)


ニャリューシャまでどのくらいかかるのだろう。


二時間。

いや、三時間くらいあってもいい。


そのくらいなら、ヴァルとゆっくり話せる。


食事もできるかもしれない。


そんなことを考えていると、機内にアナウンスが流れた。


『まもなくニャリューシャ郡都へ到着いたします』


「え?」


ミレイユは窓の外からヴァルへ顔を向けた。


「もう着くんですか?」


「ああ。四十分くらいだからな」


「四十分!?」


「この専用機は、将官向けの軍用機で高性能なんだ」


「……そ、そうです……か」


(んー!

 時間たりなーい!!)


せっかく二人きりでいい雰囲気だったのに。

ミレイユの不満などお構いなしに、専用機は高度を下げていく。


「ミレイユ、見えてきたぞ」


「はい!」


気を取り直して窓の外を見る。


これから数日間を過ごす場所だ。


どんな街だろう。


ニャリンダルほど大きくなくても、綺麗なホテルくらいはあるだろうか。

現地の美味しい料理も食べてみたい。

二人で街を歩くのも楽しそうだ。


(調査が終わったら、少しくらい観光できるかな?)


やがて雲を抜けた。

そして――。


「……あれ?」


ミレイユの笑顔が止まった。

眼下に広がっていたのは、街というより密林だった。


見渡す限りの熱帯雨林。

その中にぽつんと、城壁で囲まれた小さな一画がある。


「あそこがニャリューシャ郡都だ」


「……あれが?」


「ああ」


都市を囲む城壁の外にも少しばかり平地がある。

しかし、その先にはすぐに鬱蒼とした密林が迫っていた。


専用機は、その小さな城塞都市へ向かって降下していく。


「随分と厳重ですね」


「原生生物がいるからな。城壁の外は危険だ」


「……そうでした」


忘れていた。

ここは辺境である。

しかも以前、ミレイユ自身が熱帯雨林で死にかけた惑星なのだ。


専用機が着陸した。

ハッチが開き、二人は外へ出る。


「……」


ミレイユは周囲を見回した。


家はある。

店らしき建物も一応ある。

少し離れた場所には、周囲より立派な屋敷も見えた。

あれがニャリューシャ郡長を務めるテロン男爵の屋敷だろう。


だが――。

それだけだった。


華やかな商店街はない。

デパートもない。

洒落たレストランも見当たらない。


街のすぐ向こうには高い城壁。

さらにその外には、どこまでも熱帯雨林が広がっている。


ヴァルは満足そうに周囲を見渡した。


「いいところだな!」


「えっ?」


「ここなら調査拠点として申し分ない。

 ニャジ殿から話を聞いたら、早速現地を見に行こう!」


「そ、そうですね!

 いえ、まずは男爵邸に向かいませんか?」


ミレイユは笑顔で答えた。


「そうだな」


(ホテルなんてなさそう。たぶん男爵邸に泊めてもらうんだろうけど……)


そして、もう一度周囲を見る。

何もない。


(……はれ?)


昨日までの期待を思い返す。

ヴァルと二人きりの旅行。


二人で食事。

二人で街を歩く。

ちょっとくらい観光もして――。


もう一度、目の前の光景を見る。


(ロマンチックじゃない!!)


少し歩くと男爵が護衛の兵士と共に出迎えた。


「伯爵様、ようこそおいで下さいました」


「出迎えありがとうございます。

 まずは貴邸へご案内していただけますか?」


「はい。

 ただ、ここは狭い都市である上に人口も多く、道が常に混雑しております。

 タクシーもございませんし、公用車もこの混雑では使えません。

 徒歩でのご案内となります」


「はい、大丈夫です。ミレイユ行こう」


「はい」


(えー?徒歩?結構歩くには遠そうに見えたけど!?)


通りに沿って市場が並び、大勢の人が行き交っている。

確かに、これでは車は使いにくい。


結局、男爵邸まで延々と歩くことになった。

次第に疲れて、ヴァルと話す余裕もなくなっていく。


(な、なんか……思ってたのと違う)


こうして二人きりの調査旅行は、ムードもへったくれもない辺境の城塞都市から始まった。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

二人きりの旅行!

専用機!

観光! 美味しい料理! 素敵なホテル!


……そんなものはありませんでした。


頑張れ、ミレイユ(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。