第25話 冒険がデートなの??
(えー!!
ちょっと待ってー!!
冒険?
ってことは危険なんだよね?
私、あの熱帯雨林の中で死にかけたんですけどー?)
「ん?」
ヴァルが笑顔で首を傾げた。
「あ、いえ……」
(あー、なんか話の流れで旅行にでも行く気分になっちゃったけど。
これってもしかして、ヴァルからしても新婚旅行のつもり?!
いや、仮にそうじゃなかったとしても、デートか何かだと思ってる?
ん~。普段奥手のヴァルだから、誘ってくれるのはすごく嬉しいけど……。
なんか違うぞー、ヴァルー!!)
「それに……」
ミレイユの混乱をよそに、ヴァルが平然と続けた。
「これは君の事業だ。
君が中心になって、私たちがそれを支えたい」
「ヴァル……」
(いや、ありがたいけどー。
ありがたいよ、その気持ち。
でも熱帯雨林の冒険~!?)
ヴァルが、ミレイユの手を握った。
「一緒に、行こう」
「……」
(温かい手に、優しい目。
嬉しいと思う気持ちもあるの。
……あぁ、押し切られちゃう~)
「はい!」
ミレイユは力強く頷いた。
「一緒に行きましょう!」
二人は笑い合った。
(ヴァルと冒険。トラウマがぁ……。
でも、考えようによっては二人で危険を乗り越える旅って……。
物語みたいで素敵なのかも。
うん!いっくぞー!!)
そこへ、父が割り込んできた。
「もちろん私も同行します。
目的の果実を見つけたとしても、そこまでの開拓ルートは実際に見ておいた方がよいので」
(え?二人きりじゃないの?
もう!父上、いつも邪魔する!
いっつもいっつも!私の夫を盗らないで!)
「さらに護衛は15人用意します。ベテランの探検家を揃えます」
(え?それじゃムードも何もないじゃない!)
「あぁ、手配を頼む。安全第一だ」
(……なんだ。二人きりの冒険を期待してたの私だけか)
「ミレイユ、とても危険な冒険になるが、確実に成功させるぞ!」
ヴァルが軍人らしく凛々しい顔を向けた。
「あ……はい!」
(二人きりじゃない……ま、そんなの当たり前か。
ってことはさ。冒険する意味あるー?)
◇◇◇
その夜、寝室にヴァルがやってきた。
突然だったので驚いたが、ミレイユはヴァルを招き入れ、二人でベッドに並んで座った。
「ミレイユ」
「はい」
「昨日のデート……」
ヴァルが照れくさそうに言った。
「楽しかったか?」
「……」
ミレイユは少し黙った。
正直に答えるべきか迷ったが――。
「ごめんなさい」
そのまま素直に謝った。
「仕事のこと、考えてて」
「……」
「ヴァルとの時間、ちゃんと楽しめなくて」
「いや」
ヴァルが微笑んだ。
「わかってる」
「え?」
「君が頑張ってるのは、よくわかっているんだ」
ヴァルがミレイユの頭を撫でた。
「だから、今度は――」
「今度は?」
「一緒に冒険しよう」
ヴァルが優しく言った。
「仕事も一緒にするんだ。
そうしたら二人で共通の目標に向かって頑張れる。
一緒に楽しむことだってできる」
「……!」
胸が熱くなった。
(ヴァルが理解しようとしてくれてる。
私の気持ちを)
「ありがとう、ヴァル」
「いや」
ヴァルが照れくさそうに笑った。
「夫婦だから」
「……」
「一緒に頑張るんだ」
「はい!」
ミレイユが力強く頷くと、ヴァルがそっと抱き寄せた。
(温かい。優しい。
うん、頑張ろう!
ヴァルと、一緒に)
◇◇◇
翌日から伯爵邸は慌ただしくなった。
冒険のための道具を用意する者。
探検家と打ち合わせて、最適なルートを計画する者。
護衛部隊を編成する者。
ヴァルや父上も、その準備に加わっていた。
「ミレイユ~?」
聞き慣れた声に振り返ると、母上が笑顔で立っていた。
「母上!」
「ねえ、これ何?」
「あ、はい。
ニャルシア・ベリーとニャグネム・サンメロンのサンプル確保と、採取ルートの確認をするため、ヴァルと一緒に冒険してきます。
皆さん、そのための準備に追われています」
母上が怪訝そうな顔をした。
「冒険……?」
「えぇ。
とはいえ、ヴァルと二人きりというわけではないので、旅行気分にもなれませんけど」
「へぇ……?」
「母上?
ヴァルって、もしかしてデートに誘うくらいの気持ちで冒険を持ちかけてきたんですかね?」
母上が盛大に噴き出した。
「ぷふっ!
あーそうかも!ヴァル様らしいね。
うんうん。それならきっと楽しくなるよ!」
「母上、他人事みたいに言ってー!
冒険って危険なんですよ!」
「ははは、頑張ってね、ミレイユ。
そういうことなら冒険してもいいんじゃない?
いってらっしゃーい!
お土産、期待してるぞー?」
「あー、はい」
そう言うと、母上は辺りを見回し、時折笑みをこぼしながら男爵邸へ帰っていった。
「何しに来たんだろう?」
少しだけ考え込んでいたミレイユが、突然目を見開いた。
「そういうことなら??」
(待って待って!
それって本来なら冒険なんてする必要ないってことの裏返し?
デートだったら行ってらっしゃい。そうじゃなきゃ、そんな馬鹿なことやめなさい。
母上が言いたかったのは、そういう意味??)
「あ!!」
ミレイユが思わず大声を上げると、辺りの使用人たちが驚いて振り向いた。
「あ、驚かせてごめんね、何でもない」
(私は農家のおじさんが栽培してないから、現地で調達するしかないって思い込んだ。
でも、ホテルにはちゃんと商品が揃ってた。
これって、現地から仕入れる物流ルートが、すでに平民ネットワークにはあるってことよね!!)
「市場の人たちに聞かなきゃ!!」




