第21話 Win-Win
母上が一度、微笑んだ後、はっきりとした口調でセラフィナに向けて答えた。
「ルミナス・キャトレールの未公表の新作だけど。
キャトルーナ・ミャルティカの次にニャグネムIII産の果実で他にも香水を検討中なの」
(え?そんな話知らない……。
母上が裏で動いてくれてた?)
「へぇ、ミャルティカがこれなら、本当に期待できそう?
どんなの?」
「ニャルシア・ベリーが候補の一つ。
夜光ベリー × 蜂蜜 × 花香の透明感。
トップはマスカット、青リンゴ。
ミドルが蜂蜜、夜光ベリーの微光アコード。
ラストは白花、透明ムスク」
「正直、最近の新作って“似たような甘さ”ばっかりで飽きてたの。
夜光ベリーをミドルに置くなんて、攻めてるじゃない。
……いいね、期待していい?」
セラフィナの反応を見て、手ごたえを感じた母上がニコニコしながら続けた。
「ニャグネム・サンメロンも捨てがたいわ。
太陽 × メロン × パッションの明るい香り。
トップはメロン、パッションフルーツ。
ミドルが太陽光アコード(シトラス+ミネラル)。
ラストはゴールデンアンバー、バニラ」
(すごいすごい!そこまで話が進んでるの!?)
「ミャルティカがあれだけ透明感のある香りなら、サンメロンはもっと“外に出たくなる香り”になる。
ゴールデンアンバーとバニラのラスト……
それ、絶対に余韻が綺麗じゃない」
「このサンプルを発売日前日に渡すわ。
発売日にすぐに配信したらいい」
セラフィナの目が輝いた。
「独占的に?」
「ええ」
母上が微笑んだ。
「あなただけに先行提供」
「……!」
母上はセラフィナの興奮が冷めやらぬ内に次々と説明を重ねていった。
「他のインフルエンサーより先に、セラフィナが一番最初にその香りを体験できる。
そして本当に良い物だったら、誰よりも早く紹介できる」
「すごい……」
セラフィナが興奮した様子で言った。
「それって――」
母上が頷いた。
「そう、あなたの特別感が出るわ」
「フォロワーも喜ぶ……!」
「その通り」
母上が力強く言った。
「『セラフィナだけが知ってる』感」
「……!」
「それがあなたの価値を高めるし、私たちの香水にも跳ね返ってくるわ」
母上が微笑んだ。
「グッド!これはやるしかないわね!」
セラフィナが力強く頷いた。
「キャトルーナ・ミャルティカを一押しする」
「本当!?」
ミレイユは喜びで立ち上がった。
「ええ」
セラフィナが微笑んだ。
「私はやっぱり本物の香水を――
広めたい!!」
「ありがとうございます!」
ミレイユは深々と頭を下げた。
母上もそれに続いた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
セラフィナが微笑んだ。
そして三人で握手した。
温かい手、信頼の証。
ミレイユは心の中で叫んだ。
(やった!これで、完全勝利できる!)
拳を握りしめた。
母上がミレイユの肩に優しく手を置くと、そのままセラフィムに顔を向けた。
「では、具体的に」
セラフィナと母上が契約に関して詰めていき、各々がメモを取り始めた。
「1ヶ月後のアロマティークの契約終了してすぐ」
「ええ」
母上が頷いた。
「まず、第一弾をお願いします」
セラフィナが構想をメモに書いていった。
「《キャトルーナ・ミャルティカ × ピュアスキンオイル》
香水が主役」
「そう!」
母上が強調した。
「オイルはサポート」
セラフィナが頷いた。
「わかったわ。
そして、反応を見て――」
「ええ」
母上がそれに応じる形で続けた。
「2週間後くらいに、第二弾ね」
「他のバリエーションってことね」
セラフィナが目を輝かせた。
「そう!
……私たちの新作は実現に少し時間がかかるけど。
ミャルティカ以外にも香りは組み合わせることが出来るわ。
ミャルティカに限らない方が宣伝味が薄れてちょうどいいしね。
そして定期的にミャルティカを混ぜてくれさえしたら」
「そうね。
くどくない程度にミャルティカは必ず紹介させてもらうわ。
ミャルティカだったら、他のインフルエンサーも追従するかもしれないし」
母上がにっこりと笑って再びセラフィナと握手を交わした。
「ありがとう。
そして極めつけ。
新作の良さをセラフィナが発見したことにする。
セラフィナの――特権」
「素晴らしいわ……。
これならフォロワーも増えそうね」
セラフィナが興奮した様子で言った。
「ええ」
母上が頷きつつ、自信を込めて続けた。
「そして、エンゲージメントも上がる!」
「Win-Win ね」
セラフィナが笑った。
「その通り」
母上も微笑んだ。
それから数時間、ミレイユたち三人は細かい戦略を練った。
投稿のタイミング。
画像の構成。
キャッチコピー。
全部、丁寧に話し合った。
「第一弾の投稿は――」
セラフィナがメモを見た。
「『本物の香水、見つけました』」
「そうね、それでよろしく」
母上が頷いた。
「そして、ミャルティカのボトルを全面に」
「ええ」
「ピュアオイルはさりげなく背景に」
セラフィナが確認した。
「そう」
「第二弾は――」
「バリエーション紹介」
母上が説明した。
「『シーン別の香りの使い分け』」
「素敵……」
セラフィナが目を輝かせた。
「これならフォロワーも実践しやすい」
「そう」
母上が頷くと指を立てながら、一つ一つをしっかりと伝えていった。
「ハードルを下げる。でも質は高く。
それが、大事!」
母上が力強く言った。
「わかったわ」
母上の言葉を、セラフィナが大事にメモを取っていった。
最後にセラフィナが契約書にサインをした。
「ミレイユ、あなたもサインしなきゃ」
ミレイユは急に話を振られて、少し驚いた顔をしたが、
母上が笑いながら続けた。
「ごめんね、ちょっと出しゃばっちゃった。
でもコツは分かったわよね?
次からは貴女がやらないとダメだからね!」
「あ、はい!」
ミレイユも契約書にサインをして、改めてミレイユとセラフィナが堅い握手をした。
こうしてセラフィナとの協力は、無事形となった。




