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父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第二章 ブランド戦争編

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20/29

第20話 本当に良いもの

翌日。

母と二人で、帝都行きの宇宙船に乗り込んだ。


「緊張する?」


横並びで座った宇宙船の客席で、母が心配そうに聞いた。


「はい……」


「ふふ、大丈夫よ」


母は笑顔を作って、ミレイユの手を握ってくれた。


「あなたはもう十分やれてる」


「母上……」


「香水だって素晴らしいよ。

 だって愛用して使ってくれてる人がたくさんいるんだから。

 

 人に愛用してもらえるって、言葉以上に難しいことなの。

 リピートするかどうか……あなただって相当厳しい目で判断するでしょ?」


「うん……確かに」


「でしょ!

 良い物に着目して、ちゃんと良いものに仕上げる。

 相当難しいことを、あなたはやってきたの」


母が微笑んだ。


「だから、自信を持ちなさい。

 その自信をセラフィナにぶつけるだけ」


「はい」


窓の外に星々が流れる。

美しい。


「ミレイユ」


「はい」


「これが、アロマティークとの最後の戦いよ」


母が真剣な顔で言った。


「最後……」


「ええ」


母が頷いた。


「セラフィナを味方につければ――」


「完全勝利……」


「そう」


母が力強く言った。


「香水でアロマティークに完全勝利!」


「……!」


胸が熱くなった。


(やってやる!)


拳を握りしめた。


◇◇◇


帝都。

高層ビルが空を切り裂くように立ち並び、帝国の中心らしい熱気がある。

賑やかで、華やかで――目が追いつかない。


「久しぶりね」


母が街を見渡した。


「母上、帝都は久しぶりなんですか?」


「ええ。もう、何年ぶりかしら」


母が懐かしそうに言った。


「ビジネスをしてた頃は、よく来たんだけど」


「……」


「でも、今回は娘と一緒。仕事だけど仕事じゃない感じ」


母がミレイユを見て微笑んだ。


「嬉しいわ」


「私も嬉しいです」


二人で笑い合った。

人々が行き交う街を歩いた。

みんな忙しそうだけど、本当に活気がある。


(これが、帝都……)


ミレイユは見とれていた。


「ミレイユ、よく見ておきなさい。見とれるだけじゃダメよ。

 あの人たちが、流行の“起点”なの」


「……ビジネスのヒントって、こういう所にあるってこと?」


「さすが私の娘、察しがいいわね!

 ニャグネムIIIは果物だけじゃない。

 例えば皮革みたいに“伸ばせる資源”もあるのよ」


「はい!」


(母上は凄いなぁ……

 私が上京した田舎者みたいな顔してたのお見通し)


◇◇◇


高層ビルの最上階にあるセラフィナのオフィス。

豪華なインテリアのロビーにある受付で、名前を告げた。


「レイシア=ミャルフォード様、ミレイユ様、お待ちしておりました」


広い部屋に案内されて、窓からは帝都の街並みが一望できた。


そして――。


「いらっしゃい」


美しい女性が微笑んだ。


セラフィナ・ヴォーグ。


(画面で見るより本当に綺麗な人……。

 洗練された雰囲気がすごい。まるでオーラかも。

 立ち居振る舞いが優雅で、芸能人ってこんな感じなんだ?)


「レイシア様、お久しぶりです」


「セラフィナ、元気そうね」


母が笑った。


「ご無沙汰しております」


(知り合い!?)


ミレイユは驚いた。


「紹介するわ。娘のミレイユ」


「初めまして」


ミレイユは丁寧に頭を下げた。


「噂は聞いてるわ」


セラフィナが微笑んだ。


「ミャルティカの香水、素敵ね」


「ありがとうございます」


胸が高鳴った。

セラフィナが知ってくれている。


「さて」


セラフィナが優雅な手つきでお茶を淹れた。


「本題は?」


「単刀直入に言うわ」


母がサンプルを出した。


「まず、これを試してほしいの」


キャトルーナ・ミャルティカ。

美しいボトル。

トロピカルをイメージしたデザイン。


「……」


セラフィナが手に取った。


「試してもいい?」


「どうぞ」


セラフィナが手首にシュッと一振りして、香りが優しく広がった。


「……!」


セラフィナが目を閉じた。

深く、香りを嗅いで、しばらく沈黙した。


そして――。


「これ……」


目を開けて笑顔を見せた。


「トロピカルだけど、上品」


少しだけ視線を落として考えこんだ。


「甘すぎない。華やかだけど、しつこくない……」


もう一度手首に顔を近づける。


「――本物ね」


「……!」


ミレイユは胸が熱くなった。


「ありがとうございます!」


「いえ」


セラフィナが微笑んだ。


「私たち、利益だけで動いてるように見えるでしょ。

 でも“良いもの”には、案外敏感なの。

 キャトルーナ・ミャルティカ……これは良いものだと思うわ」


「そうなんですね!」


(え?サラッと聞き流しちゃったけど……。

 えぇぇぇ!!良いもの?ミャルティカが?!)


セラフィナが立ち上がった。

そしてそのまま窓の外を見た。


「最近の香水は、どれも似たり寄ったり」


「……」


「マーケティング重視で香りは二の次」


セラフィナが振り向いた。


「でも、これは違う」


「違う……?」


「香りが主役ね。

 原価だって結構しそう。


 売りたい……よりも、本当に良い物を届けたい、って気持ちが何となく伝わってくるの」


セラフィナが力強く言った。


「本物の香水」


「ありがとうございます!!」


ミレイユは深々と頭を下げた。


「正直に言うわ」


セラフィナがソファに座った。


「アロマティークから、大金をもらってる」


「……」


「ブルームオイルの推薦料」


セラフィナがため息をついた。


「でもね――」


「でも?」


「飽きたのよ」


「……!」


セラフィナが立ち上がった。


「ブルームオイルの香り」


少し黙って窓の外を見た。

そして、落ち着いた声で続けた。


「最初は良かった」


「……」


「でも、ずっと同じ香り」


セラフィナが続けた。


「どんな場所でも、どんなシーンでも」


「……」


「朝も、昼も、夜も」


セラフィナが振り向いた。


「飽きるわよ、そりゃ。

 香りって、シーンで変えたいじゃない?」


セラフィナが情熱的に言った。


「朝は爽やかに!

 昼は華やかに!

 夜は落ち着いて!」


「……」


「でも、ブルームは一つの香りしかない」


セラフィナがため息をついた。

ミレイユは彼女の言葉を復唱するしかできなかった。


「選べない」


「選べない……」


「そう」


セラフィナがSNSを見せた。


「フォロワーからも、声が上がってる」


『セラフィナ、またブルーム?』

『他の香りも試したい』

『選択肢が欲しい』


「見て」


セラフィナがデータを見せた。


「エンゲージメントが落ちてる」


グラフが下降している。


「……」


「同じものばかり推薦してるから」


セラフィナがため息をついた。


「でも、契約があるから……」


「契約はいつまで?」


母が唐突に聞いた。


「あと、1ヶ月……」


「ならその後の話がしたいわ」


母が微笑んだ。


「そうね」


セラフィナも微笑み返した。


「それまでに準備しましょう」


母は迷いなく言葉を重ね、いつの間にかセラフィナの視線は“こちら側”に寄っていた。


「ところで」


母がもう一つサンプルを出した。


「これも」


ピュアスキンオイル。


「オイル?」


「ええ」


母が説明した。


「無香の美容オイル」


「……」


「香水の前にこれを塗る」


母が実演した。

オイルを手に取り、肌に馴染ませた。

そして――ミャルティカを、シュッ。


「……!」


セラフィナの目が輝いた。


「これって……香りが長持ちする……!」


「でしょ?」


母が微笑んだ。


「オイルが肌を保湿するから」


「……」


「香水がより長く香る」


「しかも――」


セラフィナが確認した。


「オイル自体は無香だから」


「ええ」


母が頷いた。


「香水を邪魔しない」


「……!」


「どんな香水とも併用できる」


母が力強く言った。


「これが、ピュアスキンの強み」


「素晴らしい……」


セラフィナが呟いた。


「それで――」


セラフィナが考え込んだ。


「どういう風に提案すればいい?」


「色々な香りを宣伝したいとは思うけど」


母が真剣な顔で言った。


「まずは『キャトルーナ・ミャルティカ』を一押ししてほしいの」


「一押し……」


「ええ」


母が頷いた。


「ピュアオイルを下地にした上で、これを猛プッシュしてもらえないかな?」


「つまり――?」


「こんな感じ」


母が立ち上がった。

そして――。

演技を始めた。


「聞いて聞いて、みんな!」


母の声が明るくなった。

表情も変わる。

まるで――セラフィナの配信を、目の前で見ているみたいだった。


「今までブルームオイルを推してたけど」


母がSNSを見るような仕草。


「久しぶりに普通の香水を探してみたら」


興奮した様子で。


「すごくいいのがあったの!」


ミャルティカのボトルを掲げた。


「これ!キャトルーナ・ミャルティカ!」


「……!」


ミレイユは驚いた。

母の演技が――。

普段のセラフィナにそっくり。

口調。

仕草。

表情。

全部。


でも馬鹿にしているような、嫌味さはない。

むしろ――。

母は彼女のファンの一人なんだろうと、思えてくる。


愛情が感じられる。


「レ、レイシア様……!」


セラフィナも驚いていた。


「私の真似……」


「ごめんなさい」


母が照れくさそうに笑った。


「でも、こんな感じでどうかな、って」


「すごい……ぷっ……私ってこんななんだ?」


セラフィナが思わず噴き出した。


「完璧だわ……」


「ありがとう」


母が笑顔で座り直した。


「契約終了後、一発目はこれで香水に着目させてほしいの」


母が真剣な顔で言った。


「さっき見てもらったと思うけど」


「ええ」


「これは本当にいい香りがするでしょ?」


「素晴らしいわ」


セラフィナが頷いた。


「このブルーム溢れしている中で」


母が力強く言った。


「いきなり本物を紹介したら、『さすがセラフィナ』ってなるわ」


「……!」


セラフィナの目が輝いた。


「確かに……」


「インフルエンサーとしての価値が上がる」


母が説明した。


「本物を見つける目」


「センス……」


「そう」


母が微笑んだ。


「それがあなたの武器になる」


「……」


セラフィナが考え込んだ。

しばらく沈黙。


まだ迷いが残っている。

母はそこを見逃さず、さらに一手を重ねた。


「もしやってくれるなら、もう一ついい条件をつけるわ」


「条件?」


母が、声を落とした。


「これはまだ、極秘情報なんだけど」


「極秘……?」


セラフィナが前のめりになった。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第20話をお読みいただきありがとうございました!


ついにセラフィナさんと対面。

良いものを求めて、フォロワーに届けたい。


セラフィナさんは本物のインフルエンサー!

こんな人と契約が出来たら。


ん?え?母上、極秘情報って何ですか!?

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