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父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

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14/29

第14話 男って単純

企業傭兵を導入して一ヶ月

効果は抜群だった。


「お嬢さん!」


主人が嬉しそうに駆け寄ってくる。


「今月の出荷、全部無事に終わりました!」


「本当ですか!」


ミレイユも思わず笑顔になった。


SGS――スターガード・セキュリティ。

ユッコが紹介してくれた企業傭兵会社だ。


護衛が付いてから、小規模海賊の襲撃はぴたりと止んだ。

出荷は安定し、ミャルティカの生産量も順調に増えている。


(私一人じゃ沢山ある傭兵会社から一つを選ぶだけでも、

 絶対に大変だったと思う。

 これもユッコのおかげ!)


「これで安心して増産できますね!」


「ああ、どんどん作るよ」


主人が力強く頷いた。


「ルミナス・キャトレールからの注文も増えてるしな」


「はい!」


売上が右肩上がり、全てが予想以上だった。


(ユッコ、本当にありがとう)


心の中で呟く。

このプロジェクトがここまで来られたのは、彼女のおかげでもあった。


◇◇◇


その夜。

ミレイユはユッコに連絡した。


「ミレイユ!

 どう?うまくいってる?」


「うん!すごく順調!」


ミレイユが報告すると、ユッコは満足そうに頷いた。


「良かった!SGS、いい仕事するでしょ?」


「本当に。小規模海賊が全然来なくなったよ」


「そうでしょ、そうでしょ」


ユッコが得意げに言った。


「あそこって業界大手で、評判もイイ会社だからね」


「本当に助かったよ。ありがとう」


「どういたしまして!」


ユッコがニコッと笑った。

だが、すぐに表情が真面目になる。


「でもね。そろそろ次の段階だよ」


「次の段階?」


ユッコは資料を表示した。


「小規模海賊の数は減ってる。でも、その代わり――」


表示されたデータを見て息を呑む。


「組織化の兆候が見られるの」


「……!」


「企業傭兵に対抗するために、協力し始めたんだと思う」


その瞬間、母上の言葉が脳裏をよぎった。


『また、大きな組織になるのよ』


(本当に……)


「それだけじゃないよ」


ユッコが笑う。


「ミレイユのお母様から連絡も来た」


「母上から?」


「『そろそろ次の段階だからサポートしてあげて』って」


ミレイユは思わず苦笑した。


母上は、どこまで先を読んでいるんだろう。


「だから、ミレイユ」


ユッコが真っ直ぐこちらを見る。


「そろそろヴァル様の出番だよ」


ミレイユは力強く頷いた。


「うん」


通信を切った後、窓の外を見た。

空に星が瞬いている。

小規模海賊を押さえ込めば、大規模海賊が生まれる。


母上の予言通りだ。


そして――今度こそヴァルの専門分野。


問題は一つだけだった。


(ちゃんと話せるかな……)


最近のヴァルは、まだどこか距離がある。


(父上とは楽しそうに話しているのに、私にはぎこちない。

 それでも……やるしかない!)


『あなたにしかできないのよ』


母上の言葉を思い出しながら、ミレイユは拳を握った。


◇◇◇


翌日。

執務室の扉を叩く。


「入れ」


中ではヴァルと父が地図を広げていた。

いつもの光景だ。


「あの……、ヴァル」


「ミレイユ。どうした?」


ヴァルが顔を上げる。


ミレイユは資料を差し出した。


「新しい問題が発生しました」


父が資料を受け取り、ヴァルも覗き込む。

しばらくして二人の表情が変わった。


「組織化か……」


ヴァルが低く呟く。


「はい」


ミレイユは頷いた。


「小規模海賊が結束しています」


「ここまで結束すると企業傭兵では対応できませんね」


父も難しい顔をした。


ミレイユは深呼吸する。

ここからが本題だ。


「ヴァル」


「……?」


「お願いします。

 もう一度助けてください」


ミレイユは真っ直ぐ彼の目を見つめた。


「大規模海賊組織を討伐してください」


執務室が静かになる。

ヴァルは何も言わない。


それでもミレイユは続けた。


「小規模海賊なら企業傭兵で対応できます」


「……」


「でも、大規模組織は違います」


そして、はっきりと言いきった


「あなたしか頼れる人がいません!」


ヴァルが目を伏せる。

父も黙っている。


しばらくの沈黙。

やがて父が口を開いた。


「ヴァル様は第22対賊艦隊の提督です」


穏やかな声だった。


「大規模海賊討伐の専門家でもあります」


ヴァルは小さく息を吐いた。

そしてミレイユを見た。

今度は目を逸らさなかった。


「本当に私でいいのか?」


「はい」


ミレイユは即答した。


「ヴァルじゃないと駄目なんです!

 私はあなたを一番頼りにしています!」


再び沈黙。

だが今度は長くなかった。


「……わかった」


ヴァルが力強く頷く。


「引き受けよう」


その目に久しぶりに光が戻った気がした。


「ありがとうございます!」


◇◇◇


それから数日。


ヴァルは艦隊の準備に没頭していた。


整備。

補給。

作戦立案。


全てを自ら指揮している。


「ヴァル様、やる気ですね」


父が感心したように言った。


「ええ」


ミレイユは笑顔で頷いた。

最近のヴァルは明らかに違った。


表情が明るい。

声にも力がある。


執務室に籠もるのは相変わらずだったが、

今度はミレイユにも頻繁に声を掛けてくれる。


「ミレイユ、少し見てくれるか」


「はい!」


広げられた星図を覗き込む。


「敵はこの宙域に集結している。

 君の交易船がよく使うのはこのルートだったな?」


ヴァルが星系図を指差した。


「敵は推定六十隻規模だ」


「そんなに……」


思わず息を呑む。

だがヴァルは不敵に笑った。


「数は我々より多い」


そう言って腕を組む。


「だが、こちらは精鋭の第22対賊艦隊だ」


その声には迷いがなかった。


「絶対に勝つ!

 今度こそ終わらせる」


ミレイユは黙ってその手を握った。

ヴァルが少しだけ目を見開く。


「無事に帰ってきてください」


「ああ」


優しい笑顔が返ってくる。

その顔を見て、胸の奥が少し軽くなった。


◇◇◇


出撃の日。

ミレイユは港でヴァルを見送った。


整然と並ぶ艦艇。

堂々たる旗艦。

第22対賊艦隊。


ヴァルは出発前にミレイユの前で立ち止まった。


「行ってくる」


「はい」


ミレイユは笑顔で頷く。


「無事を祈って待っています」


ヴァルはミレイユの頭を軽く撫でた。


「君のプロジェクトは私が守る。

 すぐ戻るから安心して待っていてくれ」


そう言い残し、艦へ乗り込む。

艦隊はゆっくりと離陸し、やがて空の彼方へ消えていった。


(ヴァル、信じています。

 必ず戻ってきてください)


◇◇◇


それから二週間。

毎日、ニュースをチェックした。


でも――。

何も報道されない。

信じると決めたのに不安がよぎる。


(大丈夫かな……)


そんな中、突然ニュース速報が流れる。


『第22対賊艦隊、大規模海賊組織を壊滅』

『ヴァルミール提督、完全勝利』

『海賊船六十五隻を拿捕』


「やった……!」


思わず立ち上がった。

画面には堂々と指揮を執るヴァルの姿が映っている。

主人も女将さんも大喜びだった。


「これで本当に安心だ!」


「伯爵様はすごいねぇ!」


ミレイユは何度も頷いた。

胸がいっぱいだった。


◇◇◇


三日後。


ヴァルが帰ってきた。

前回とは違う。

港へ降り立った瞬間からわかった。

顔が違う。

表情が違う。

自信に満ちている。


「ヴァル!」


駆け寄ると、ヴァルが笑った。

満面の笑みだった。


「ただいま」


「お帰りなさい!」


次の瞬間、ふわりと身体が浮いた。


「きゃっ!?」


ヴァルがミレイユを抱き上げていた。


「完全勝利だ」


子供みたいに嬉しそうな顔をしている。


(あれだけ落ち込んでた人と同じ人?)


思わずそう言いたくなるくらいだった。


「これで君のプロジェクトは安全だ」


「はい!」


ミレイユも笑顔になる。


「ありがとうございます」


「礼を言うのは私の方だ」


ヴァルが言った。


「君が信じてくれたからな。

 それが私にとっても嬉しかったんだ。

 私の力になった」


涙がこぼれそうになるのを我慢して笑顔で頷いた。


その言葉が嬉しかった。

本当に嬉しかった。


◇◇◇


その夜。

執務室で報告会が開かれた。


「海賊船六十五隻を捕縛」


ヴァルが報告する。

父が大きく拍手した。


「お見事です」


「今回は目標が明確だったからな」


ヴァルが苦笑する。


「小規模海賊は企業傭兵、

 大規模海賊は対賊艦隊ですね」


父が続けた。


「そうだ」


ヴァルはミレイユを見る。


「ミレイユが気付かせてくれた。

 それぞれ得意分野があるんだ。

 こんな簡単なことに気づけていなかったんだ」


ミレイユは首を振った。


「私もどうしていいか、分からなかったんです。

 ただ、ヴァルを頼るしかなくて」


「そうか、頼ってくれてありがとう」


父が笑った。


「ですが、これでミレイユのプロジェクトも安泰ですね」


「はい、父上。ありがとうございました!」


穏やかな空気が流れる。

ようやく終わった。


海賊問題。

ヴァルとのすれ違い。

全部。


◇◇◇


その夜。


部屋へ戻ったミレイユは窓の外を眺めていた。

星が輝いている。


思い返す。


小規模海賊。

企業傭兵。

大規模海賊。

対賊艦隊。


全部、母上の言った通りだった。


そして何より――。

ヴァルだ。


あれほど落ち込んでいたのに。

今は満面の笑顔で歩いている。


『面倒臭いのよ、男って』


母上の声が脳内で再生された。


『単純だから、ちゃんと転がせばすぐ元気になるの』


思わず吹き出す。

本当にその通りだった。


悩んで、

落ち込んで、

距離を置いて。


でも、役割を与えたら……、そして成功したら。

あっという間に元通り。


「男って……」


小さく呟く。

そして笑った。


「ほんと単純」


でも。

そんなところも嫌いじゃない。


むしろ――。

愛おしい。


窓の外の星を見上げる。


「ありがとう、母上」


そう呟いてから、もう一言付け加えた。


「でも、私はそんなヴァルが好きです」


星空は何も答えない。

けれど、どこかで母上が笑っている気がした。


『面倒くさいのよ、男って』

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第14話をお読みいただきありがとうございました!


あははは……本当にヴァルは立ち直っちゃった!

単っ純!

母上ありがとう!


次話から本作のメイン、ブランド戦争編が開幕ですっ!

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