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父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

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12/13

第12話 父上、また夫を盗らないで

連日、ニュースで報道されていた。


『第22対賊艦隊、海賊団を壊滅』

『ヴァルミール提督、星系の治安回復に貢献』

『海賊50名以上を逮捕』


画面にはヴァルの艦隊が映っている。


堂々とした旗艦。

整然と並ぶ艦艇。


そして――。

海賊船を捕縛する様子。


「すごい……」


私は画面を見つめた。

このプロジェクトのためにヴァルが戦っている。


(ヴァル……)


胸が熱くなった。

格好いい。

本当に格好いい。

もっと好きになった。


「お嬢さん!」


主人が笑顔で言った。


「海賊、壊滅だってね!」


「はい」


私も笑顔で頷いた。


「伯爵様、すごいね」


女将さんが嬉しそう。


「これで安心して出荷できる」


「はい。ヴァルが守ってくれています」


誇らしかった。

対賊艦隊の提督、最強の軍人で、私の夫のヴァルミール。


(ありがとう、ヴァル)


心の中で呟いた。

早く帰ってきてほしい。


そして――。

抱きしめてほしい。

あの夜みたいに……。

考えると顔が赤くなった。


◇◇◇


一週間後、

ヴァルが帰ってきた。


「ヴァル!」


私は駆け寄った。

抱きつこうとして――。


だけど、直前で立ち止まる。

ヴァルの顔が……浮かない?


(暗い。

 疲れてる?)


「ヴァル……?」


「ただいま、ミレイユ」


微笑もうとはしている。

でも、作り笑い。


(あれ?なんで……?)


不安が込み上げた。


「怪我をしたんですか?」


「いや、していない」


「じゃあ、負けたとか……?」


「いや、勝った」


短い返事を繰り返す。

一瞬、何か言いかけて、それでも結局目をそらした。


私はその代わりに極力明るく振舞う。


「お疲れ様!

 私のために戦ってくれて、ありがとう」


「……」


ヴァルが黙った。

何も言わない。


「ヴァル……?」


「すまない。少し疲れた。休ませてくれ」


そう言って、ヴァルは自室へ向かった。

背中が小さく見えた。


(どうしたんだろう……)


不安で胸が痛くなった。


◇◇◇


「父上」


私は父の執務室へ向かった。


「ミレイユ、どうした?」


「ヴァルが……」


私はヴァルの様子を話した。

父が難しい顔をした。


「……そうか」


「父上、何か知っているんですか?」


「ああ」


父がため息をついた。


「ヴァル様は海賊を壊滅させた」


「はい」


「でも――」


父が資料を見せた。


『小集団による襲撃事件、急増』

『警察組織、対応に追われる』


「……どういうことですか?」


「ミャルティカの価値が、知れ渡ってしまったんだ」


父が地図を指差した。


「大規模な海賊団は、ヴァル様が壊滅させた」


「はい」


「でも、小さな集団が増えた」


「小さな……」


「5人、10人規模の海賊だ。

 ミャルティカを狙ってる」


父が説明した。


「摘んでも摘んでも、生えてくる雑草のように」


「……」


「こうなると大規模艦隊では対処できない」


「そんな……」


「ヴァル様は警察組織に引き継ぎを済ませて帰ってきたそうだ」


胸が痛くなった。


ヴァルは勝った。

でも――。

問題は解決していない。


(だから、あんな顔を……)


夜。

私はヴァルの部屋の前に立った。

ノックする。


「……入れ」


中に入ると――。

ヴァルが窓の外を見ていた。


「ヴァル」


「ミレイユ……」


振り向いた顔が暗い。


「お疲れ様。海賊、倒してくれたんだよね」


「……ああ」


短い返事。


「ありがとう。

 とても嬉しかった。

 それにね、街の人たちもみんなヴァルに感謝していた」


「……」


ヴァルが黙った。

何も言わない。

ただ、また窓の外に顔を向けた。


「ヴァル……?」


「少し疲れた。すまない、ミレイユ。

 休ませてくれ」


「あ、はい……」


私は部屋を出た。

扉が閉まる。


(……なんで?)


違和感。

何かがおかしい。


ヴァルの態度が冷たい。

どう見ても距離がある。


(私、何かした?

 言っちゃいけないことでも言った?)


不安が込み上げた。


◇◇◇


翌日。

ヴァルはまた父と一緒に執務室に籠もった。


私は扉の前に立った。

中からは二人の声が聞こえる。


「アレクシオン、留守中よくやってくれたな」


ヴァルの声が明るい。


「いえ、当然のことです」


「この開発計画、完璧じゃないか」


「ありがとうございます」


笑い声に楽しそうな会話。

昨夜とは全然違う。

いつもみたいに、生き生きとしている。


「やはり君がいると助かる」


「恐縮です」


「さて、次はこの案件だが――」


「ええ、こちらを優先しましょう」


仕事の話。

内政の話。

二人の世界。

昨日のあの暗い顔と、同一人物とは思えないくらい楽しそうに。


(……)


私は扉を見つめた。


入れない。

入りたいけど、入れない。


あの中は――。

ヴァルと父の世界で私の居場所じゃない。


(なんで……)


考えると胸が痛い。

ヴァルは私には冷たい気がする。

でも、父とは楽しそう。


(何が違うの?


 私、何かした?

 文句があるなら、ちゃんと伝えてよ)


答えは出ない。

足音を立てないようにその場を離れた。


部屋に戻って、私は窓の外を見た。

広がる熱帯雨林がいつものように見える。


(えー?なんで?)


頭の中がずっと混乱している。

ヴァルは私のために戦ってくれた。


それは嬉しかった。

本当に嬉しかった。

もっと好きになった。


でも――。

帰ってきたら、急に冷たくなった。

距離を置かれた。

多分……私の勘違いじゃないはず。


(私、何か気に障ること言った?)


思い返す。

でも思い当たらない。


「ありがとう」って言っただけ。


「頑張ってくれて嬉しい」って。


(それがダメだった?)


わからない。

全然わからない。


でも――。

父とは楽しそうに話している。

笑顔で生き生きと。


(なんで私にだけ……)


涙が出そうになった。


(嫌われた?)


不安が込み上げる。


(もう必要ない?)


首をブンブンと振る。


(単純に海賊討伐が終わったから?

 小規模海賊が残ったままだから?)


いや多分違う。

そんなはずない。


でも――。

答えが出ない。


ベッドに倒れ込んだ。

枕に顔を埋める。

あの夜のこと。

優しく抱きしめてくれた。


「頼っていいんだよ」って。

あの温もり。

あの優しさ。


(あっちの方が勘違いだったの?)


気付いたら涙が止まらなく流れていた。


でも――。


(泣いてる場合じゃないでしょ、私)


顔を上げる。

涙を拭う。


(海賊問題を解決しないと!

 ヴァルの変化の理由はわからない……。

 でも、問題を解決したら。

 

 もしかしたら、また笑顔を見せてくれるかもしれない!


 やるしかない!!)


小集団の海賊。

倒しても倒してもキリがないらしい。

軍事力では限界がある。


なら別の方法を考えないと。


(どうすれば……?)


考える。

考える。

でも、答えは出ない。

だけど、絶対に諦めない。


◇◇◇


翌日も、その翌日も、

ヴァルは父と執務室に籠もっていた。

ある意味ではいつも通り。


でも、私は扉の前に立つことすらできなくなった。

中からは二人の楽しそうな声が聞こえる。


仕事の話。

成果の報告。

笑い声。


それを聞いて、ため息をついた。


(また、父上にヴァルを盗られてる)


最初と同じ。

いや、もっと辛い。


だって――。

一度は近づいたと思ったから。


あの夜。

抱きしめてくれた。

頼っていいと言ってくれた。

なのに……。


(なんでだよぅ……)


腕で雑に涙をぬぐう。


(泣いている場合じゃない。

 私が自分自身で何とかしないと)


◇◇◇


夜。

私は一人で部屋にいた。

資料を広げている。


海賊の報告書。

警察組織からの情報。

全部目を通した。


(一体どうすれば……?)


5人、10人規模の小集団。

素早く襲って逃げる。

捕まえても、また別の集団が現れる。

ため息をついた。


その時――。

扉が開いた。


「……?」


振り向くと父が立っていた。


「父上?」


「ミレイユ、まだ起きていたのか」


「はい……」


父が部屋に入ってきた。

椅子に座る。


「頑張っているね」


「……はい」


「海賊問題を考えているんだろう?」


頷いた。


「でも、答えが出なくて……」


「そうか」


父が優しく微笑んだ。


「焦らなくていい」


「でも……」


「ヴァル様でも解決できなかったんだ。

 これは難しい問題かもしれない」


父が私の頭に手を置いた。


「お前はよくやっている。

 誇りに思うよ」


「父上……」


涙が出そうになった。


「ヴァル様もきっとそう思っている」


「……本当ですか?」


「ああ」


父が頷いた。


「ヴァル様はお前のことを大切に思っておられる。

 それは何となく見ていてわかるよ」


「でも……」


最近冷たい。

距離がある。


「何かあったんですか?」


「……」


父が少し考えた。


「私にもわからない」


「そうですか……」


「でも、もし何か変わったと思うのであれば、

 きっと何か理由がある」


父が優しく言った。


「ヴァル様を信じて待ちなさい」


「……はい」


父が立ち上がった。


「今日はもう休みなさい」


「はい」


父が部屋を出ていく。

扉が閉まった。


(信じて待つ。

 待つだけなんて……できるだろうか?)


目を閉じる。

でも眠れない。

ヴァルのことばかり考えてしまう。


(――もう一度、あの夜みたいに笑ってほしい)

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第12話をお読みいただきありがとうございました!


切ないです!なぜ?急に変わってしまったヴァル。

理由を教えてくれないと、モヤモヤがとれません!


【おまけ設定集】

この世界には色んな惑星が存在します。


ミレイユが今住んでいる熱帯惑星、陸地を熱帯雨林が占める惑星。

生まれ故郷の海洋惑星、地球と違ってほとんど大陸がない、島だけの惑星。

地球みたいな大陸惑星。

砂漠に覆われた砂漠惑星。

氷に覆われた氷結惑星。

海が少ない陸地、しかも山ばかりの高山惑星。

砂漠惑星よりはましだけど暑いサバンナ惑星。


いっぱいありますね。

熱帯惑星はまだまだ住みやすい方なのかもしれません。

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