第六話 臣民と自由民
リシャールは半年ぶりに帝都へ向かう。
旗艦は装備が山盛り過ぎて燃費が悪いので今回は白虎型を用いる。外観がシンプルな上に、護衛部隊を同行するのにも最適だからである。
提督としてではなく辺境伯としての上洛なので、副官ではなく秘書官となったエルロックが随行する事になった。
他に同行するのは彼の四天王では戦術将校のアンニバルのみ。彼が鍛えた陸戦隊とそこから分離独立した護衛部隊を統括する。
リシャールは技術部門のトップであるアイザックにも声を掛けたが、
「バトルドレスの改良が忙しい」
と言う事で断られた。地上戦用の軽量化が目下の急務だ。帝都星系は帝国内外でも最も治安の良い地域なので問題はあるまい。
リシャールの帝都入りの主目的は言うまでもなく婚約者マルグリット皇女に会う事であるが、帝都に来た以上はその父親である皇帝を無視することは出来ない。
出頭要請に応じると、出迎えてくれたのは宮中伯オトン。文字通り宮中を取り仕切る役割である。国境付近に常駐する辺境伯とは真逆である。
「宮中伯と辺境伯はどちらが上なのだろうか?」
と疑問を呟くと、
「帝国法ではどちらも侯爵と同格になっていますね」
と返答が返ってくる。
「リシャール殿は皇女殿下の婚約者でもあられるので、婚姻後は一段階上。五大公爵と同等に扱われるでしょう」
とは言え、宮中伯は皇太子の教育係も務める影の支配者である。互いに敵に回したくない相手である。 リシャールが案内されたのは公邸ではなく私邸。その中でも表と呼ばれる区域だ。息子で次期皇帝であるアンリ殿下も同席していた。
殿下は普段は裏と呼ばれる皇后の住まう区域に居住するが、養育係に囲まれていて母后とはそれほど親密ではない。外戚の影響を極力排除するためだ。
リシャールは皇帝陛下と差し向かいでのランチを取る。陛下の右手、リシャールから見て左側に皇太子殿下が座って二人の会話に耳を傾けている。
「領国経営は順調かな」
「戦場とはいささか勝手が違いますが」
「どちらが楽だ?」
と問われて、
「強いて言えば戦場でしょうか」
と返す。
「戦場では敵を見つけて排除すれば済みますが、領国経営では倒すべき敵が居りませんので」
故にその対処法も多岐に及ぶ。
「まあ自分は出来る人間を見つけて丸投げするだけなのですが」
「それが簡単そうでいて最も難しいのだがね」
と陛下も笑う。
「重要なのは法をやたらといじらない事。特に税制に関しては」
帝国では所得税は戸籍単位で計算されるのに対して、旧敵国は個人単位で算出される。帝国臣民となったモノは帝国法に従って課税するが、それ以外の自由民には旧法をほぼそのまま適用する。税率は臣民の方が低いが、課税最低額を旧法よりも高く設定したので、収入の低い自由民は税の負担が少ない。
帝国法では戸籍の人数に応じて課税最低額が乗じられる。戸主以外に輸入がある場合も、戸主の収入に合算されて税額が決まる。戸籍内での収支には帝国政府は関与しない。これに合わせて扶養控除を撤廃する一方で世帯内の金銭の移動に贈与税を発生させない。これには制度の簡略化と言う側面もある。
臣民よりも自由民の方が税率が高い。単純に五割増しで臣民なら10%が課される収入で、自由民は15%となる。最高税率は臣民で20%なので、自由民では30%と言う具合だ。これは法人の収益でもほぼ同じ扱いで、責任者が自由民である場合と臣民である場合では税率が異なる。法人組織では税制優遇を見越して臣民をトップに据えるケースが多い。
所得税の他に資産税がある。課税対象は土地と建物である。個人が自給自足で農業を営む程度の土地面積であればほぼ無税になる。一般庶民が済む程度の戸建て住宅では税金は掛からない。掛かるのは他人に貸したり事業を行うような、利益をもたらす建物である。
消費に掛かる間接税は臣民も自由民も一律に15%が課される。
「最大の違いは相続制度でしょうね」
帝国においては相続は戸主の継承であるが、新領土の旧制度では分割相続が一般的になる。
「それぞれに一長一短があって、両者を整合させるのは少々厄介でしたが」
帝国法には相続税が無い。戸主の継承は隠居か死亡で生じるが、それは戸籍の処理で自動的に進む。相続制度は家それぞれで異なるが、戸籍には継承順位が明記されているからだ。分家する場合には新し戸籍を創るための費用が要求されるが、それは財産とは無関係の定額である。
この制度は自由民にも準用された。相続税そのものは廃されて、贈与税が適用される。配偶者への(水平)相続は総額の半分までは無税、親から子への(順方)相続には控除枠を設けた。子から親への(逆方)相続は無税。それ以外の相続はすべて贈与で処理する。
臣民は税制優遇がある代わりに兵役の義務があるが、自由民にはそれが無い。但しすべての臣民が徴兵されるわけでは無く、現状は頭数が足りているので検査と登録だけである。必要に応じてランダムで招聘が掛かるが、期限は二年までと定められている。
要するにある程度の収入があるならば臣民になる方がメリットが大きい。申請が殺到して審査が追い付いていないのが現状だが、作業人員を増やすと後で余る危険があるので思案のしどころである。
「領内統治が順調なようで、喜ばしいことだ」




