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僕の彼女はアンドロイド  作者: 音羽 規世
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第二話 トラウマ④

 彼女の声を聞くのは、何年ぶりだろうか。外に出なくなってからだから、もう3、4年は経っただろうか。

 最後に見たのは、大粒の涙を流し、悲しみに歪んだ彼女の顔。胸に蘇る、傷つけてしまった事への罪悪感と、信じていた人に裏切られた事への怒りと悲しみ。

 こんな思いをするなら、感情なんて、全てなくなってしまえばいい。繋がりなど、全て消えてしまえばいい。本気でそう思った。だから世界を拒絶するように、引きこもるようになったのだ。

 なのに、今また、新しい繋がりに自分は縋っている。

 行きとは逆に、薺に手を引かれながら家までの道を歩く。同い年くらいの少女に手を引かれて俯き歩く姿は、傍から見れば、情けない姿だろう。けれど、今この手を離されればきっともう歩くことすら出来ないだろう。

 「あ、鍵かけないまま出てしまいましたね。」

家に着くと、ドアを開けた薺が、私とした事が、と呟いた。薺の声は聞こえているけれど、結良は相槌を打つことすら出来なかった。手を引かれるまま家に入り、リビングのソファに座らされた。

「何か、飲み物をいれてきますね。」

そう言って握っていた手を抜こうとする薺の手を、結良は反射的にぎゅっと握り、引き留めた。

「結良様?」

「あ……。」

不思議そうに名を呼ばれ、我に返る。薺は心配そうにソファに座る結良を見下ろしていた。しばし見つめ合い、薺は結良の前に膝をついて、覗き込むように視線を合わせた。

「私は、ここにいますよ。大丈夫です。」

優しく頬に触れる薺の手を握り、ゆっくりと目の前の彼女の肩に顔を埋めた。両の手を結良に握られた上に、肩に顔を埋められ、身動きの取れなくなった薺は戸惑っているようだったが、やがて結良の頭に頬を寄せた。

「……さっき会ったのは、幼馴染なんだ。」

「幼馴染…。」

「似鳥咲菜っていうんだけどさ、ちょっと鈍くさいんだけど、優しい、奴なんだ。あともう一人、幼馴染がいてさ、そいつはすごい負けず嫌いで、でも真っ直ぐな奴でさ…、自然と人を惹きつけるんだ。」

「何というお名前なのですが?」

「神里大地。かっこいい名前だろ。」

「結良様は、お2人が大切だったのですね。」

「……うん。大事な、親友だった。」

小学校に上がってすぐに両親を亡くした結良が、絶望しなかったのは、引き取り惜しみない愛情を注いでくれた泉と、変わらず一緒に居続けてくれた大地と咲菜のおかげだった。無責任な同情や憐れみ、悪意ある好奇心から2人は結良を守ってくれた。

 3人は親友で、ずっと変わらないと思っていた。けれど、人の心は変わるのだ。いい意味でも、悪い意味でも。関わる人や環境、育った想い。そして、知らなかったことを知り、今まで気が付かなかったことに気づく。

 人は変わる。それが成長するという事でもあるのだから。

「変わらないなんて、無理なんだ。」

「変わることは、いけない事ですか?」

薺の問いかけに、結良は彼女の肩から顔を上げた。自分をじっと見つめる黒曜石の瞳を見つめ返す。

「結良様の言う通り、変わらない事は無理だと思います。でも、変わること全てが悪い事ではないでしょう?」

「それでも俺は、変わらない関係を望んでいたんだ。」

「3人が親友であることですか?」

「そうだよ。俺は3人がずっと親友でいる事を望んでた。でも、咲菜は俺と、大地は咲菜とより特別な関係になる事を望んでた。」

 いつからだっただろう。大地が咲菜を見る瞳に、自分が抱くのとは違うものを感じたのは。同じ大切でも、大地のそれと自分のそれでは違う。それが何かまではわからなくても、違うということだけはわかっていた。

 そして、咲菜が時折、自分に何か言いたげにしていることもわかったいた。でもそれを聞いたら何かが変わってしまう気がして、知らぬふりをしていた。

 わかっていたのに、わからないふりをしたから、あんな事になったんだ。

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