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僕の彼女はアンドロイド  作者: 音羽 規世
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第二話 トラウマ⑤

 あれは、中学に入学し、新しい学校生活やクラスにも馴染んだ頃だった。元々生徒数も多くない中学は2クラスしかなく、結良と大地と咲菜の3人は分かれることなく、同じクラスになった。

 今までと少し違ったのは、大地は新しい環境にすぐに馴染み、友だちを沢山作った事。咲菜は女の子たちと行動することが増えた事。結良は小難しい科学の本ばかり読むちょっと変わった奴と思われていた事。

 それでも、3人が登下校を共にしたり、休みの日に集まって遊んだりすることは変わらなかった。しかし、変化は突然訪れた。

 たまたま、大地が他の友人と約束があって、咲菜と2人何をするでもなく、高台の公園に出かけた日があった。結良の持ってきた科学の本を2人で読んで、あんなものがあったらいい、こんなものがあったらいい。そんな話をしていた。

 ふいに、沈黙が落ちた。視線を感じて、顔を横に向けると、唇に柔らかな感触が触れた。視界一杯にぎゅっと目を閉じた咲菜の顔が映った。

「え?」

唇かそっと離され、声を挙げれば、咲菜は顔を真っ赤にして結良を見ていた。

「わ、私、結良が好き!男の子として、好き、なの。」

「俺、は……。」

「へ、返事はすぐじゃなくていいから!」

言葉を紡ごうとした結良を遮って咲菜は声を上げると、ベンチから立ち上がり、走り去ってしまった。その後ろ姿を呆然と見送った。

 突然のことすぎて、頭が混乱していて、結良は気づかなかった。それを見ていた人物がいた事を。

 翌日、珍しく3人バラバラで登校した。昨日の事もあって、咲菜とは顔を合わせずらかったから少しほっとしていた。

 しかし、教室に入った瞬間、結良から表情が抜け落ちる。

 黒板いっぱいに書かれたのは、結良と咲菜の名前。ご丁寧にキスをしている絵まで描かれている。

「なあ、久遠。お前と似鳥、ラブラブなんだろ。」

「いっつも一緒だもんな。」

「つーか、似鳥は大地と久遠を手玉に取ってんだろ。」

好き勝手言って笑うクラスメイトを殴ってやりたい衝動を抑える。くだらない事に関わりたくなかったし、まだ登校していない咲菜にこれを見せない様にするのが先だと思った。

 だから、はやし立てるクラスメイトを無視して、黒板消しを手にして、消そうとした。けれど、その手を止められた。他でもない、大地に。

「大地?」

「はっきりさせろよ、結良。お前は、咲菜をどう思ってんだよ。」

「何言って…。」

「本当はさ、俺が邪魔だったんだろ?」

「そんなわけないだろ!」

「お前はそうやって何でもない顔して、俺から欲しいものを奪っていくんだ!」

悲痛な声を上げる大地に、初めて彼にとって咲菜が異性として特別だったのだと悟った。そして、無意識に、自分が大地を傷つけていたのだと。

「どう、したの…?」

教室の入口から聞こえた声に、結良と大地はそちらに視線を向ける。咲菜は、心配そうに自分たちを見ていた。その視線が黒板に向けられ、かあ、と遠目に見ても彼女の頬が赤く染まったのがわかった。

「言えよ。」

「は?」

「咲菜をどう思ってんのか、この場で言えよ。」

冷たい視線を向けてくる大地に、どんな答えを返したところで、今までの関係に戻れないことを悟った。

 大切にしてきた関係が、こんなにも簡単に壊れる。

 理不尽だとわかっていた。誰が悪いわけでもないと、理解していた。けれど、今まで大切にしてきた全てが崩壊する音を聞いたとき、そのきっかけを作った咲菜が憎くて、こんな形で裏切った大地が許せなかった。その抑えきれない苛立ちをぶつけるように結良は拳を黒板に叩きつけた。

 響く音に、クラスが静まり返る。

「咲菜の事なんて、これっぽっちも好きじゃない。そう言えば満足か?お前も咲菜も、どうせ親なしの俺を憐れんで、擁護して、いい子ちゃんしたかっただけだろ。それで好き?気持ち悪いんだよ。」

「違う!私、そんなこと…!」

「もういいよ。ちょうどいい隠れ蓑になってくれたから一緒にいただけだし。鬱陶しい感情向けてくるなら、お前いらない。」

「おい、結良!」

胸倉を掴んでくる大地に、結良は咲菜に向けていたもの同じ冷めた視線を向ける。

「何?お前がどう思ってんのか言えって言ったんだろ?……もうお前もいいよ。」

「ゆ、ら?」

「もう、全部どうでもいい。」

片手で大地の手を外し、もう片方の手で、大地の胸を押した。呆然とした大地があっさりと手を離し、2,3歩後退る。それを無感情に眺めながら結良は鞄を手に取り、教室を出た。

「待って、結良!…結良!」

涙声で何度も名前を呼ばれ、腕を引かれ、引き留められた。顔だけ振りければ、ボロボロと涙を流す咲菜が必死に腕に縋っていた。

「離せよ。」

「やだ。このまま離したら、結良もう会ってくれないでしょう?」

「言っただろ。もうお前も大地もいらない。こんな風になるなら、最初から一人でよかった。……俺はもう、一人でいい。」

腕を掴む咲菜を振り払い、今度こそ歩みを止めることなく結良は学校を後にした。

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