第二話 トラウマ⑥
それからずっと、家族である泉以外との関係を断ち、外に出る事すらしなくなった。学校に行かなくなった結良に、最初こそ登校を促していた泉だったが、しばらく経つと何も言わなくなった。着信を知らせる携帯はもう何年も電源を入れていない。
「ずっと一緒にいたかった。でも、2人は違うんだ。」
「結良様は、自分の望んだ2人でいてくれないから、もう2人の事がいらなくなってしまったのですか?」
「え…?」
黙って話を聞いていた薺が、話をまとめるように言った内容に呆然と彼女を見つめる。
「そういう事ですよね?」
「……。」
確認するように問う薺に、違うと言いたかった。けれど、違うのだろうか。
結良は3人でずっと一緒にいたかった。けれど、大地は咲菜を、咲菜は結良を、異性として意識し、特別な関係を求めた。ただ、それだけ。それがイコール、一緒にいられなくなるわけではない。なのに結良は、2人を拒絶したのだ。それは、自分の望まぬ変化を受け入れられなかったから。
「結良様を独りにしているのは、結良様自身です。」
「じゃあ、あの時どうしたらよかったんだよ!薺はあの場にいなかったから、そんな事言えるんだ!」
「そうですね。でも、今は?結良様は今も、2人の変化を受け入れられませんか?」
「そんなの、わかんないよ…。」
「わからないなら、お話しすればいいのではないですか?」
当たり前の事の様に、でも優しく、薺は言う。結良を安心させるように、瞳を細め、柔く微笑んだ。
「わからないことを知るのは楽しいです。でも少し、怖いです。望んだとおりの結果じゃなかったらって、想像するから。でも、結良様は、あの日、私のお話を聞いて下さいました。だから、大丈夫。」
未だ答えを出せない結良を包み込むように抱きしめて、大丈夫だと、何度も頭を撫でた。
「2人はきっと、結良様が思うほど、遠くに行ってないです。まだ手も届く。声だって届きます。だから、離さないで。見失わないで。あなたが、大切だって思った人たちを。」
結良は知っている。当たり前の日常が突然失われること。繋いでいた手が無理矢理引きがはがされ、二度と繋げなくなること。知っている。
だから薺は、手放すなという。届くなら、手を伸ばせと、想いを伝えろと。
言葉で言うほど、簡単な事じゃない。でも、きっかけがあった。踏み出すきっかけ。乗り越えるきっかけ。進めるのは、きっと今なのだ。




