第二話 トラウマ②
今回は少し短めです。
久しぶりに外の空気を吸った気がする。むっとする様な熱気ね胸が焼けそうだ。久しぶりに走るから、足が思ったように動かない。まだそんなに走っていないはずなのに、もう息が上がって苦しい。けれど、行先も告げず、突然手を取って走り出した手を握り返してくれる彼女に、見せたい光景がある。知ってほしい、温かな思い出があるから。だから、もつれそうな足を必死に動かして、自分よりも少し小さな手を引いて、走った。
結良たちが住む場所より、少し高台の所にあるその場所。機械とコンクリートに覆われたこの町で、唯一木々が生い茂る小さな公園。そこからは、町と海が一望できる。
「……間にあった。」
久々の運動に震える膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。さすがアンドロイドというべきか、くたくたになっている結良とは対照的に、薺は息一つ乱していない。
けれどその視線は、眼前の光景に釘付けになっていた。
さっきまで青かった海が、青空の下、賑わいを見せていた町が、オレンジに染まっていく。夕陽色に染め上げられ、世界がほんの少し、哀愁を帯び始める。
今日が、終わっていく。それが少し寂しいのに、美しい。
「言ったろ?この町は、夕暮れ時が一番綺麗なんだ。」
「はい。すごく、すごく、綺麗です。」
夕暮れに染まる景色に向けていた視線を体ごと回転させ、結良に向けた薺が微笑む。
綺麗だと、素直に思った。夕暮れに染まる町も、夕陽に照らされる薺の微笑みも。
今まで見た中で、一番美しい景色だった。
気が付けば、薺の頬に手を伸ばして触れていた。人と変わらぬ肌の温かさと柔らかさ。黒曜石の様な瞳には呆けた顔の自分が映っていた。
「……薺は、俺に初めてを沢山教えてくれる。」
「私が、結良様に?」
「薺がいたから、俺、勢いだけで外に出れた。薺がいるから、この景色を、今まで見た中で一番綺麗だと思える。」
「では、私もきっと、結良様と一緒だから、初めて見るこの景色をより一層、美しく感じられるのでしょうね。」
頬に触れる結良の手に、自身の手を重ね、薺は瞳を細め、とても柔らかく微笑んだ。
「今日は沢山笑うな。」
「嬉しい事があると、自然と笑うものなのでしょう?」
「うん。そうだよ。」
人は、嬉しいとき誰に言われるでもなく、自然と笑顔を浮かべる。薺も、強制されたわけじゃなく、自分の中に生まれた感情に従い、笑みを浮かべているのだろう。それを引き出したのが自分だと思うと、結良の中に、今まで感じたことのない喜びが沸き上がる。
けれど、2人の和やかな雰囲気は、第三者の声で打ち砕かれた。




