第一話 家族の夢②
『アンドロイド』とは、日本語訳で『人造人間』と呼ばれるものだ。外見では区別のつかないほど人間に似ているロボットの事を指す。そして、ただのロボットとは違い、感情を持つことが出来る。
「まさか、姉さんたちがアンドロイドを作っていたなんて…。」
目の前のアンドロイドの少女をまじまじと見て、泉は感慨深げに呟く。少女はぶしつけな泉の視線を気にした様子もない。
そんな彼女の様子を結良は泉の隣に座りつつ警戒心むき出しの目で見ていた。
「ちょっと結良。女の子をそんな目で見ないの。」
「警戒しない泉さんのがおかしいだろ!アンドロイドだぞ!?そんなのSFの世界でしか見た事ねえよ。」
「だからこそ、実現されたのですよ。」
「は!?」
「結良様がご両親にそう言ったから、私を作られたのです。あなたの夢を実現させる為に。」
「俺が?父さんたちに?」
こくり、と頷く少女に嘘はないだろう。だが、そんな事を言った覚えはなかった。そもそも両親との思い出だって、そんなにないのだ。
確かにあったはずなのに、たくさんの愛情をもらっていたはずなのに。幼かった自分に残る記憶はとても少ない。
久しぶりに両親の事を思い出したからだろうか。ふいに涙が込み上がってきた。いい年して、両親を思い出して泣きそうになるなんて、バカみたいだ。
ぐっと拳に力を入れ、結良は目の前の少女を睨みつける。
「悪いけど、俺にお前は必要ないよ。だから、また地下室で眠ってなよ。」
「こら、結良!」
自分を叱る泉の声に耳を貸さず、結良は立ち上がるとリビングを出て行った。そのまま部屋に戻り、乱暴にドアを閉めた。
クーラーの消えた部屋は蒸し暑かった。締め切った部屋が息苦しくて、結良は窓を開けた。もう、夕暮れだったらしい。鉄骨とコンクリートだらけのこの町を、夕暮れのオレンジ一色に染まっている。
家の前の道を親子3人が手を繋いで歩いている。自分にも、あんな風に手を引いてくれる人がいたはずなのに。
窓の向こうに見える海。あそこに親子3人遊びに行っていたのだと、アルバムを見ながら泉が教えてくれた。一体何をして遊んでいたのだろう。
この町の中に、家の中に、あの地下室に。両親との思い出は沢山あるはずなのに、自分の中に残る記憶はほんの一握り。自分の為に両親が作ったというあのアンドロイドの少女の事だって、覚えていない。あの少女は知っているのに。
自分の覚えていない両親との思い出を話す少女に、結良は嫉妬にも似た感情を抱いたのだ。
それからどれくらい時間が経っただろう。気が付けば、先ほどまで町を染めていたオレンジはなく、今は夜の静寂のみが町を包んでいた。
「結良様。」
ドアの向こうから鈴の音の様な声が響く。こちらの様子を伺うような小さな声だったけれど、静かな部屋にはよく響いた。
「……何?」
しばし逡巡した末、結良は呼びかけに返事をした。
「入ってもよろしいですか?」
「……どうぞ。」
入室の許可を出すと、控えめにドアを開け、少女が顔を出す。ベッドに座る自分を見て、ぺこり、と頭を下げると彼女は中に入って、ドアを閉めた。床に腰を下ろした少女の膝の上には薄い本が置かれていた。
「それ、何?」
「絵本です。」
「それは見ればわかるよ。何で持ってきたわけ?」
「私が作られた理由を、知ってほしかったから。」
「その絵本が、お前が作られた理由なの?」
「これは、結良様が昔ご両親に読んでもらっていた本です。」
どうぞ、と差し出されたそれを、恐る恐る受け取る。
きっと、何度も読み返されたであろうそれは、角がつぶれていたり、傷だらけになっていたりしていた。
「機械島の冒険…。」
表紙には、手を繋ぐ男の子と女の子。腰まで届く黒髪の可愛い女の子。
「この子…。」
顔を上げ、自分を見つめるアンドロイドの少女を見る。この絵本の少女にそっくりだ。結良の意図を汲み取ったらしい少女が頷く。
「そうです。私は、その絵本の女の子をモデルに作られました。」




