第三話 さよなら彼女②
幼いころの大切な約束。かけがえのない思い出。色褪せることなく、結良の胸に蘇る。
「2人のおかげで、俺にとって、ここから見る夕暮れは宝物になったんだ。」
「では、私もお2人に感謝しなくてはいけませんね。」
「何で?」
「だって、私が綺麗だと思った夕暮れが見れたのは、お2人が結良様に夕暮れが綺麗だと教えてくれたからですから。」
微笑んで言う薺の言葉に、結良は虚を突かれ、瞳を瞬く。
夕暮れを綺麗だと思った事はなかった。あの日、大地と咲菜とここで見るまでは。だから、2人に感謝するのだと、薺は言う。結良の思い出まで抱きしめてくれる様な薺に、また涙腺が緩む。それに気づいてか、薺は眉尻を下げて苦笑する。
「結良様は泣き虫ですね。」
「今日だけだよ。今日、だけだ。」
頬を流れる涙を優しく拭ってくれるその手に手を重ね、結良も眉尻を下げて笑う。
「なあ、薺。」
「はい。」
「傍にいてくれる?一人で大地と咲菜に会うのは、やっぱり怖いんだ。」
「はい。あなたが必要としてくれるなら、私はあなたの傍に。」
「ありがとう。」
変わらぬ笑顔を向けてくれる薺に安心感を得て、結良は微笑んだ。
もうすぐ日が暮れる。約束の時間が迫る。
数年ぶりに届いた自分からのメールに、2人はどう思ったのだろう。来てくれるだろうか。返信があるかどうかすら怖くて見れなくて、携帯は家に置いてきた。だからの2人からの返事は見ていない。
薺と2人、眼下に広がる景色を眺めていると、ふいに薺が公園の入口の方に顔を向けた。
「薺?」
「どうやら、お2人が一緒にいらっしゃったようです。」
どくり、と心臓がひと際大きく鼓動を打った。全身に心臓の音が響く。ごくり、と唾を飲み込んで、結良も薺と同じ様に公園の入口に顔を向けた。
「あ…。」
ちょうど現れた2人と視線が絡み合う。
数年前よりも、身長が伸び、大人びた顔つきになった大地。昨日はちゃんと見れなかったけれど、咲菜は昔よりもずっと綺麗になった。長かった髪を短く切った事で、より大人びて見える。
自分は、どうだろうか。引きこもり続け、あまり身長も伸びなくて、体力もないからひょろり、とした体躯。2人に比べると、自分がひどく子どもに思える。
会わなかった間に成長した知らない2人。自分と距離が空いてしまった事を様々と見せつけられた気がして、足が震えた。
早々に怖気づいていると、とん、と背中を押された。押されるまま数歩前に出る。驚いて後ろを振り返れば、少しだけ後ろに下がった薺が声には出さず言う。
『頑張ってください。』
そう言って笑ってくれた。その笑顔に、知らず知らずのうちに身体中に入っていた力が少しずつ、抜けていくのを感じた。
大丈夫。薺がいてくれる。どんな結果になっても、薺が一緒に受け止めてくれる。だから大丈夫だと、瞳を閉じ、深呼吸を繰り返しながら何度も言い聞かせた。
「久しぶり。大地、咲菜。」
瞳を開け、笑った。もう一度、3人笑い合える事を願って、2人に笑いかけた。




