第三話 さよなら彼女①
待ち合わせに指定したのは、3人で見つけた夕暮れの綺麗な、高台にある公園。今はまだ、日も高く、海を照らすのは夕暮れではなく、ギラギラと輝く昼の太陽だ。
「同じ太陽なのに、全然違うな。」
色や光の強さ、受ける印象など、すべてが違う。見方次第で、印象は二転三転する。
「夕暮れがオレンジに見える原理をお話ししますか?」
「結構です。」
ブランコに座る結良の横で、同じ様にブランコに座っている薺が、真顔で首を傾げる。情緒の欠片もない彼女の発言に、結良はげんなりとした表情で否を答える。
「結良様は昼の太陽より、夕暮れの太陽の方がお好きなのですか?」
「夕暮れっていうよりは、ここから見る景色が好きなんだ。」
「3人で見つけた景色、でしたよね?」
「夕陽は寂しいから嫌いだって、言ったんだ。」
「??」
先の会話からの繋がりが分からず、薺は隣の結良を顔を向ける。彼の視線は柵の向こうに広がる景色に向けられている。
「昼の太陽が夕陽に変わる頃、皆家に帰るだろう?でも、泉さんは仕事で忙しくて、帰っても俺は1人だったから。だから、夕陽が嫌いだった。」
太陽が傾き始める町の中、ある日ぽつりと漏らした本音。大好きな幼馴染2人と「さよなら」をしたくなくて言った、小さなわがままだった。
夕陽を嫌いだと言う結良に、2人はきょとん、とした顔をした後に、ぎゅっと手を握ってくれた。
「じゃあ、今日はもう少しだけ探検して帰ろうぜ!」
「うん!お日様が夕陽に変わっても、一緒にいたら寂しくないよ。」
笑って言う2人に、結良も笑顔で頷いて。3人は町を探検した。
いつも集めたお小遣いを持って買いに行く駄菓子屋さん。階段の長い神社。今は誰も住んでいない鉄骨だけの幽霊屋敷。そして、そこを見つけた。
長い長い階段は、この町唯一の神社の前にある階段より長いのではないだろうか。上った先に何があるのか、わからない。ここから見えるのはせいぜい枝の伸びた先にある瑞々しい緑の葉だけだ。
未知の世界に子どもたち3人は好奇心をくすぐられ、階段を上りだした。長い長い階段だったから何度も休憩をはさんで、時に互いの手を引き合いながら。そうして辿り着いた景色に、3人は息を飲んだ。
オレンジに染まる自分たちの町と海。
「うわぁ!きれいだ!」
「きれいだね!」
「きれい!」
同じ感想に、3人顔を見合わせ笑った。子どもの語彙力じゃ、この景色を「きれい」以外の言葉で表現しようがなかった。でも、同じ気持ちだったことが嬉しかった。
「決めた!ここは今日から俺たちの秘密の場所だ!」
意気揚々と、大地が宣言した。結良と咲菜は瞳を大きく瞬いて夕陽に背を向けてこちらを振り返った大地を見た。
「こんなにきれいに夕暮れが見れる場所、他にないぜ、きっと!」
「じゃあ、3人だけの秘密の景色だね!」
「3人だけの秘密…。」
嬉しそうにはしゃぐ2人の言葉を噛みしめて、結良の口元が弧を描く。
3人だけの秘密の夕暮れ。たったそれだけで、嫌いだった夕陽が好きになれそうな気がした。
にんまり。3人顔を見合わせて笑っていたら、ふいに、咲菜が左手の小指を差し出してきた
「今度から、夕暮れの時には約束をしよう。」
「約束?」
「うん!ばいばい、じゃなくて、また明日の約束。」
「じゃあ、明日は浜辺で貝殻拾いだな!」
そう言って大地が咲菜の小指に自分の小指を絡ませる。
「学校の工作で必要だものね。……ほら、結良も。」
そう言って手招いてくれる咲菜。早くしろよ、と言ってにかり、と笑みを浮かべている大地。
「俺が絶対、一番大きいの見つける!」
「何を~!?そりゃ俺だ!」
「大きくなくていいから、綺麗なの見つけようよ。」
咲菜の小指に結良の小指も絡まって、3人は少し不格好な指切りをしたまま明日を思い浮かべて、話を膨らませる。
夕暮れが好きになれるように。夕暮れが寂しくない様に。2人が結良の為に、考えてくれた。一緒に見つけてくれた。
その日は夕陽が海に沈むまで、3人は高台の公園で、沢山おしゃべりしていた。




