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失恋して凹んでいたら異世界で聖剣の主になってしまいました!?  作者: ルビィ


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第8話 カロリエ伯爵と息子たち

 ──その後案内されたのは、貴族の部屋ってこういう感じなんだろうなっていう想像通りの豪華な部屋だった。

 高い天井から吊り下げられた煌びやかなシャンデリア、趣味が良くて高そうな美術品の数々、そして高級そうな猫脚のソファーがローテーブルの前に並べられている。


 その革張りのソファーにはすでに颯太が座っていて、私を見ると弾けたように立ち上がった。


 颯太はシンプルだが品の良いスーツに着替えさせられている。

 髪もキッチリと整えられて、美しさ、カッコ良さに一ミリの隙もない。昨日みたいに少し乱れてラフな感じも良かったけど、彼の本領は間違いなくこっちだよね。


 うわあ……本物の貴公子様だ。


 そんな颯太の眼鏡の奥の瞳が大きく見開かれたかと思うと……え?

 なぜかぎこちなく横を向いた。心なしか赤くなってるような……?


「颯太? どうかした?」

「いや……リア。その……素敵だよ。とても綺麗で驚いただけだ」

「え?」

「それに……ちょっとその、目のやり場に困って……リアが魅力的すぎるだけだよ。気にしないで」

「……」


 私は自分の身体を見下ろした。

 大きな胸の谷間が見える。

 これは確かに目のやり場に困るかもね……。


「……ごめん。もう大丈夫だ。こんなことで動揺していたら君の隣にいられない」

「えっと、……なんか、ごめん? 颯太もすごく素敵だよ。元々かっこいいと思ってたけど、見違えたよ」

「えっ……!? あ、ああ、……ありがとう」


 慌てたように眼鏡を直す颯太。

 颯太が照れている……?


『めっちゃ美人になりたい! 颯太に釣り合うくらいに!』


 つまり……。

 私は今、あの時願った通りに、颯太に釣り合うくらいの美人さんになれている……。

 だというのに……。


 やっぱり、全然嬉しくない……。

 むしろ、なんか、虚しいような、寂しいような、ちょっとだけ、泣きたい……。


 私たちがぎこちなく座っていると、ノックの音がして扉が開かれた。


「リア様、ソータ様、お待たせいたしました。カロリエ伯爵閣下、並びにご子息様がお見えです」


 私たちが立ち上がると、背の高いイケオジ……領主様と、それに続いて二人の美少年が入ってきた。

 領主様は緩くウェーブのかかった亜麻色の髪に濃い鳶色の瞳をしていて、口髭を綺麗に整えていた。まるでハリウッドスターみたいなオーラがあって、流石領主様って感じ! マジイケオジ!

 彼らの後ろに続いて入って来たメイドさんが、流れるような所作でテーブルに紅茶とお菓子を並べていく。


「聖剣の主、リア様。……それにソータ殿ですな。私がこのカロリエ領を預かるフェリックス・カロリエです。まずは息子たちを紹介させていただきたい。こちらが長男のマクシミリアン、隣が次男のクリストフです」

「リア様、初めまして。マクシミリアンです。よろしくお願いいたします」

「初めまして、クリストフです。聖剣の主様とお会いできて光栄です!」


 マクシミリアン様はカロリエ伯爵と同じ髪色の美少年で、こちらを見ながらずっとニコニコしていてとっっっても可愛い! 同い年くらいだろうか? 頬っぺたがまだ少しふっくらしていて女の子みたい。クリストフ様は長い黒髪を後ろで束ねていて、男らしくてカッコイイ系になりそう。二人とも雰囲気は違うけどどっちも王子様みたいなのは間違いない。


「あ、あの、リアです。すみません、私、礼儀作法とか全然……」


 挨拶しようと思ったら、急に緊張してしまった。

 そんな私を見ても伯爵は嫌そうな顔はせず優しそうに微笑んでいる。

 よかった。気を悪くしてはいないみたい。


「リア様、堅苦しいことは必要ありませんよ。何しろ聖剣の主様でしたら私と同等か、それ以上の存在と言っていいでしょう。あなたはただ堂々としていればいいのです」

「は、はあ……」


 何よそれ、聖剣の主ってそんなに偉いの? 

 もうやだ。誰か代わってほしい!


「そして、ソータ殿」

 伯爵が颯太に視線を移した。


「お初にお目にかかります、伯爵閣下。私はリア様の従者を務めております颯太と申します」


 ブフォッ!

 吹いた。


「ちょっ……颯太? 何言ってんの!?」

「従者? 報告では友人とのことだったが?」

「申し訳ございません。まだ許可をいただいておりませんでした。御前で失礼します」


 訝しがる伯爵の前で私に向き直る颯太。


「私をリア様の従者にしてください!」

「はああ!?」


 意味がわからないよぉ!


「な、な、なんで!? ていうか、リア様とかやめて!」

「そうですか? 承知しました。ですが今は閣下の御前ですので敬語でご容赦ください。ずっと考えていたんです。私に何ができるかと。私がこれから何をすべきなのかと。私は戦闘力はないので護衛は務まりませんが、リア様がお強いので当面は問題ないでしょう。その代わり、私の頭脳とセンスを生かしてその他の脅威からリア様をお守りすることを誓います!」

「え……えええ?」


 従者っていったら、私が颯太より偉いみたいになっちゃうんじゃない?

 そんなのなんかやだよ!


「例えばですが、善人面した悪徳領主に騙されないようリア様に代わって交渉役となることもできます! 従者でなければ相談役として雇ってください!」

「今悪徳領主と聞こえたが?」

「失礼。言葉の綾です」


 伯爵の咳払いが聞こえたが颯太は涼しい顔だ。


「え、えっと……私は……」


 従者? 相談役?

 何よそれ。私は颯太が友だちでいてくれたらそれだけで嬉しい。

 友だちじゃダメなの?


「あ、あの、リア様が彼を雇うかどうかは後ほどお二人で相談すればいいでしょう? それより僕にもリア様とお話をさせてください! 父上!」

「マクシミリアン。ああ、それもそうだな。リア様、よろしいか?」


 伯爵の長男マクシミリアン様が立ち上がり、少し緊張した足取りで進み出ると私の目の前で跪いた。

 貴族らしい優美な身のこなしで私の手を取る。


「リア様。あなたを一目見た瞬間、天啓がひらめきました! あなたこそ僕の伴侶として相応しい方だと! どうぞ、今すぐ僕の妻となってください!」


 は?

 はあああああ!?


「流石兄上、それは名案ですね! そうすればリア様はずっとここにいてくださいますから我々の騎士団に参加してもらうのに丁度いい!」

「うむ、良く言った、マクシミリアン! これまで婚約者を決めずにきたが、丁度良かったな! ではすぐにでも婚約披露の夜会を準備せねば」


 私が固まっていると弟のクリストフ様も侯爵様も嬉しそうに同意してくる。

 って、婚約披露!?

 ちょっと待ってよ~!!! 


「いきなり困ります! それに、会ったばかりで妻とか意味がわかりません! 私のこと何も知りませんよね!?」

「知っていますとも! 聖剣の主様ですよね! しかもとっても可愛いです! 僕は一目でリア様の虜になりました!」

「聖剣の主様の虜というなら俺もです! 俺は兄上ほど優秀ではないですが腕が立つので将来は騎士団を率いるつもりで励んでいます! リア様が兄上の元に嫁いでくるのなら、是非カロリエ騎士団にも力を貸してほしいです!」


「何言ってんの!???」


「リア様。どうやらこちらの方々とは言葉が通じないようです。今日のところはお暇することにいたしましょうか」

「いやいや、ご冗談を。息子たちが少しばかり調子に乗って先走りましたが子供の戯言ですからな。幼いころに母親を失くしており甘やかしすぎたようです」

「なるほど。では閣下もご冗談がお好きなのですね。軽々しく婚約披露などと」

「う……失敬。つい本音が……」

「本音だったんですか?」

「……ああ。そうだ……悪いか!?」


 颯太が伯爵に冷たい目を向けると、今まで貴族然としていた彼が急に顔をゆがめた。


「息子のマクシミリアンはもう14、クリストフは13だ! この国の貴族ならとっくに婚約者候補が数人は現れて、婚約者が決まっていてもおかしくない! それなのに……二人にはその候補さえまだ現れないんだ! なぜだ!? マクシミリアンは誰にも負けないくらい可愛いし、おまけに優秀なんだ! クリストフは武芸に秀で、特に剣は強くて同年代との試合では負けたことがない! そんな才気あふれる素晴らしい息子二人になぜいつまで経っても婚約者ができないんだ!?」


 伯爵は一気にまくし立てると、静かに姿勢を正してカップの紅茶をゴクゴクと飲んだ。

 そして大きく溜息をつく。


「そんな時、聖剣の主が見つかったとの吉報がもたらされた。しかも、それがまだうら若い乙女だと。これは、息子のために神がつかわしてくれた女神なのでは──そう思ってしまったのだ。……そうであったらいいな、……と」


「はあ……そうでしたか」

「ただ息子が可愛いだけの親ばかだと思っているんだろう?」

「まあ……そうですね」


 颯太が無表情のまま答えるとそれを見ていた伯爵が急に姿勢を崩し、ソファーのひじ掛けで頬杖をついた。


「ソータ殿。そなたは何者だ?」

「え?」

「貴族ではないのか?」

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