第9話 私の相談役
「違い……違うと思います」
颯太が初めてちょっと動揺したように見えた。
私はずっと空気と化している。
いや、だって、これどうやって会話に入ればいいのよ?
「記憶喪失と言っていたな。ソータ殿も、リア様も」
「はい……」
「ふむ……二人揃って……偶然か? ……まあ、良い」
「父上、あの、父上にご心配をおかけして申し訳ございません!」
「俺も、不甲斐なくてすみません。早く婚約者を見つけられるよう精進します!」
会話が途切れたのを見計らって息子二人が伯爵に頭を下げた。
伯爵が眉尻を下げて微笑む。
「謝ることはないよ。マクシミリアン、クリストフ。お前たちは何も悪いことをしたわけではないのだからな。二人が健康で幸福であればそれでいいんだ。私こそお前たちの前で醜態を晒してしまったようだ。反省が必要だな」
「いえ、何も反省するようなことはございません! 父上はいつも未熟な僕たちを心配してくださる素晴らしい方です!」
「そうです! 父上は最高です!」
「……ありがとう。お前たちは本当に、私にはもったいない素晴らしい息子だよ」
伯爵がとても優しい顔で二人の頭をなでている。
なでられている二人もとても幸せそう。
貴族の家族ってわりと淡泊な関係が多いのかなと思ってたけど、この親子はとても仲が良いんだな。
会っていきなりのプロポーズにはびっくりしたけど、もしかして、父親の気持ちを汲んで息子たちも焦ってしまったのかもしれない。そう思うと皆悪い子じゃない気がする。
それにしても13、4歳でそんな話になるなんて、この世界では結婚するのも早いのかな。……なんだか大変そう。
「いろいろ失礼した。今夜の夕食会での主役はリア様ですからな。今日は早くからうちの料理人たちが腕を振るっております。お二人とも是非お楽しみください。それから、ソータ殿」
「はい?」
伯爵はしばらく目を細めてソータを見つめていた。
颯太は落ち着いた様子で伯爵の次の発言を待っている。
「……普通、平民であれば私に媚び諂うか、恐れ入って距離を取ろうとするかだ。そなたのように、堂々とした態度はとらん」
「……それは、ご気分を害されたならお詫びいたします、伯爵閣下」
「いや、責めているわけではない、気にするな。私はそなたが気に入った」
「え?」
「今後も今と同じように接してくれ。閣下というのも堅苦しい。フェリックスと呼べ」
「あ……はい。恐れ入ります。それでは、フェリックス様」
「うむ。リア様、そなたもだ。よいな」
「は、っはい、フェ、フェリックス様」
三人が部屋から出て行っても、私たちはしばらく無言だった。
なんだか、どっと疲れた……。
「えっと、……お疲れ様」
「……ああ」
あ、颯太が、やっとちょっと笑ってくれた。
「えっと、いきなり妻とか言われてびっくりしたけど、とりあえず、今のところは問題ないって思って大丈夫だよね?」
「そうだね……今のところは、多分。……それで、どう? 考えてくれたかな?」
「え? 何を?」
「俺を従者にしてくれる?」
「……」
「まあ、返事を急がせるつもりはないけど」
「従者じゃなくて……ただの友だちじゃ、ダメ……かな?」
私は思ってたことを聞いてみた。
颯太がちょっと驚いた顔をしてる。
「なんか、従者って、対等じゃない感じがして嫌だなって……。そばにいてくれるなら、友だちの方が私は、その……」
「ああ、よかった。俺がそばにいるのは嫌じゃないんだね」
「あ、当たり前だよ! だって、だって……ええと、最初に森で出会って、ここまで一緒にきたんだから!」
元の世界の事は話せない。だからなんて言ったら通じるのかわからないけど、私は精一杯、颯太と一緒にいたい気持ちを伝えようと頑張った。
ちょっとは通じたと思いたい。
「ありがとう! 実はそれが一番心配だったんだよね。俺はこれからもずっとリアのそばで君の活躍を見続けたいと思ってるんだ。でも、それを決めるのはリアだからね」
「私の活躍……はないと思うけど、でも、颯太がずっとそばにいてくれたら私も嬉しいよ!」
「はは、聖剣の主が活躍しないわけないだろう? いや~わけもわからず異世界に来ちゃったけど、最初に会えたのが聖剣の主だよ? この世界で俺に何か役割があるのかどうかわからないけど、もしもあるとすれば絶対に聖剣の主、リアに関わることだと思うんだ! だけど、もしそうでないにしても、俺自身が興味津々なんだよ! リアのこれからに!」
「はあ……?」
なんだか颯太の期待が結構重い気がしてきた……。
「だから俺は、今後リアの周りがたくさんの人で溢れかえっても、絶対にリアのそばにい続けられる立場が欲しいんだ。それには、友だちより従者の方が周りを納得させやすいと思うんだよ」
「……そっか。いろいろ考えてのことなんだね」
「ああ、別にリアに何かを要求したりはしないよ。もし君が友だちがいいというなら、二人の時は友だちの関係でいい。ただ、世間的には従者の肩書を持たせてほしいんだ。どうかな? そうだな……とりあえず、お試しでどうだい? しばらくそうしてみて、リアがやっぱり嫌だと思ったら言ってくれ。その時は諦めるから」
私は考えた。颯太の期待が重いのは気になるけど、私だって颯太にそばにいてほしい。
そのために肩書があった方がいいというなら。
……それなら。
「わかった。じゃあ……私の相談役になってくれる?」
「相談役? 従者じゃなくて?」
「うん。相談役ならまあまあ偉そうな感じがするから、従者よりいいかなって」
私が真剣に言うと、颯太は目を丸くして、そして笑った。
「は……はは、そこ、重要なの?」
「重要だよ! 私が颯太を従えるみたいな感じ、絶対嫌だもん!」
「そ……そっか」
「そうだよ!」
「ああ。どっちにしろ俺がやることは一緒だから、もちろんいいよ。これから末永くよろしくね、リア」
「うん! よろしくね、颯太!」
──その夜、夕食会が開かれた。
席に着いたのは、あの領主親子3人と私と颯太、そして騎士団長グラパさんとマリアさんを加えた7人。
まずフェリックス様が口を開いた。
「リア様には我が領に滞在する間だけでも我がカロリエ騎士団の力になっていただきたいと思ってな。グラパ団長と、それに周りが男ばかりでリア様が窮屈にならないようマリアにも来てもらった。皆、すでに紹介は必要ないな」
「はい。ご招待ありがとうございます」
グラパ団長とマリアさんが頭を下げた。
その様子を見てから颯太が切り出した。
「それでは改めまして。私颯太は、聖剣の主であるリア様の相談役を務めさせていただくこととなりました。今後ともよろしくお願いいたします」
「え、相談役……?」
「ソータ殿が?」
団長さんとマリアさんがキョトンとしている。
うん。気持ちはわかる……。私だってキョトンだよ!
フェリックス様の方は応接室での会話があったからだろう、訳知り顔で頷いた。
「なるほど。そういうことになったのか」
「はい」
「従者ではなく相談役……。リア様を使って何か企んでいるわけではなかろうな?」
「まさか。ただ、私はリア様がうっかり何がやらかさないよう見守る役目が必要だと考えたまでです」
「おや。先ほどと言っていることが少し違うようだが?」
「気のせいです」
あ~そういえば、善人面した悪徳領主に騙されないよう……とか言ってたような。
すごいな颯太。よくそんな涼しい顔で微笑んでいられるな。
クールな貴公子様に磨きがかかってるよね……っていうか、そうしてると本物の貴族にしか見えないよ。
フェリックス様が『貴族ではないのか』って聞いた気持ちわかる。
うん、そんな頼りになりそうな貴公子様に相談役になってもらったんだ!
こうなったらわからないことは全部颯太に丸投げするよ!
私一人だったら正直オロオロするくらいしかできないんだから、もう任せちゃっていいよね!
そう考えると颯太を相談役にした私、なかなか上手くやったんじゃない?




