第7話 領主館へ
扉を開けると広々としたフロアに長いテーブルが何列もならんでいるのが目に入った。
天井は高く、部屋の両側に細長い窓が並び、そこから西日が差し込んでいる。
各々が自分の分を取って食べるスタイルのようだ。
「あんたはこっちだよ」
マリアさんに言われて座らされたのは、長いテーブルの列が全て見渡せる位置……通路を空けて置かれたお誕生日席の中央だった。目立つように一段高くなっている。
多分偉い人とかが使う席なんだろうね……うん。
「料理を持ってくるから座ってな」
「は、はい……」
座っていると、颯太が自分の料理を手に歩いてくる。
「手伝ってもろて助かったわ。ありがとな、ソータ。ほなまた頼めるか?」
「もちろん。こちらこそ頼むよ。それで……」
「ソータの席はそこや」
「やっぱりそうか……まあ、仕方ないな」
颯太も私の隣に座った。
「やあ、リア。それ可愛いね。似合ってる」
「はあ!? あ……、あはは……あ、ありがと」
「うん? どうかした?」
イケメンの口から可愛いとか言われ慣れてないせいでうろたえました……。
落ちつけ、私。今の外見は莉央じゃないんだから。
「う、ううん。えっと、手伝いって聞こえたけど、何してたの?」
「ああ、夕食の準備は皆で持ち回りでやってるって聞いたから手伝わせてもらった。ついでにいろいろ聞きたいことも聞いてきたよ」
「聞きたいこと?」
「この世界の常識的なことさ。一日は何時間かとか一年は何日とか、お金の単位とか使い方、流通の仕組みとか。この領のこと、この国のこと……まあ短時間だからかなりザックリだけど、宿舎の方にはいろいろ本もあるそうだから食後時間が空いたら読ませてもらうつもりだよ」
「あ……そっか。そうだよね。そういうのすごく大切だよね。全然気づかなった」
「リアは聖剣の主様なんだからそれだけで無敵だろう? 心配することないよ。でも俺はそうじゃないからさ。うっかり置いていかれないように、出来ることをしてるだけだよ」
颯太、やっぱりすごいなあ。
異世界に来ても落ち着いて何でも対処できそう……。
それに比べて私、本当ダメじゃん。
聖剣の主って立場以外いいとこないよね……?
「お待たせリア様! 飲み物は果実水にしたよ。料理はたくさんあるから好きなだけ食べな!」
「ありがとう、マリアさん」
「ようし! 皆そろったな!」
団長さんが私の隣に立って集まった皆を見回した。
「話は聞いてると思うが改めて紹介しよう。こちらが探し求めていた聖剣の主、リア様だ! そして隣はその友であるソータ殿だ」
「「「オオオォォォ!」」」
「二人とも立ってくれるか」
皆が雄叫びを上げる中、立ち上がる私たち。
さすがの颯太もちょっと渋い顔をしている。うん、いたたまれないよね。でも私は一人じゃなくてよかった。
「これで聖剣を探す任務は無事終了だ! 領主様も大変喜んでおられるそうだ! 皆、長い間ご苦労だった! それでは任務完了と聖剣の主様を祝って今夜は好きなだけ飲んで食べてくれ!!」
「「「オオオオオオォォォ!!!」」」
え、宴会が始まった……。
「ええと……明日は任務とかないのかな……?」
「さあ? でもまあ、長年聖剣を探していたというなら確かに今日は記念すべき日になる。こうなって当然かもね」
颯太はうんうんと頷いている。
「リア様! 明日は私グラパがリア様を領主館に送り届けますからな! ご安心ください!」
「は、はい、よろしくお願いします」
「ところで、リア様はその、ソータ殿と友達と伺っていますが、もしや、その、ええと……ですな」
「はい?」
「もしや、こ、恋人ということは!?」
「は!?」
吹き出しかけた。耐えた。
颯太も目を丸くしている。
「ととと、友だちです! 友だちですから!」
「おお、そうでしたか! それでは、他に決まったお相手がおいでになったりは?」
「い、いません! いませんよそんな!」
「おお、そうでしたか! それは何より」
急に団長さんの機嫌がよくなった……。なんなのよ?
その様子を見ていた団員たちが小さい声で応援していた。
「グラパ団長、ファイトっす」
「リア様! おそらく領主館に着いたらそのまましばらく滞在することになるかと思いますが……もし、領主館を出て別の場所に行かれる時は、我が騎士団に来ていただいても構いませんからな!」
「え? 騎士団に?」
「聖剣の主様でしたら皆大歓迎です! 是非選択肢のひとつとして覚えておいていただければ!」
「あ、はあ……?」
「いいんじゃないか? まだ今後どうなるかわからないからね。選択肢は多い方がいいよ」
私がポカーンとしていると、隣で聞いていた颯太が頷いた。
選択肢のひとつか……。
私、これからどうなるんだろう……。
お料理はお肉メインであとはパンと野菜とスープと果物。
全て地元で採れたものらしく新鮮で、絶品とまではいかないけどまあまあ美味しくいただいた。
お腹がいっぱいになった頃には周りが酔っ払いで騒がしくなったため、団長さんが気を利かせて私たちを先に抜けさせてくれた。
廊下を歩きながら、ふと思い出して剣が出し入れ自由なことを颯太に伝えたら『空間収納……!!』と想像通り眼を輝かせていた。
私は颯太の気が済むまで何度も剣の出し入れをさせられた……。
まあ、いいけど。
──翌朝。
騎士さんたちに盛大に見送ってもらった後、迎えの馬車で領主館へと向かった。
どこまでも畑が続くのどかな道をしばらく進むと、映画で見たような、中世ヨーロッパの世界遺産になってそうな、石造りの大きなお城みたいな建物が見えてきた。
立派な門扉を通って敷地に入ると手入れの行き届いた美しい庭園が続く。門から建物まですっごく距離があるんですけど!
え、これで王宮とかじゃなくて領主館なの? 広すぎない?
そして今──私は、出来るメイドさんたちに取り囲まれて高級そうなドレスに着替えさせられていた。
着いた時は異世界で目覚めた時の服装だったんだけど、せっかくなので領主様に会う前にお召替えをとか言われて断ることもできず……。
どうしてこうなった……。
鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめる。
キラキラ輝くような金色の髪はハーフアップに結われて真珠を散りばめた繊細で美しい髪飾りが煌めいている。胸元にはイヤリングとお揃いの宝石が輝くネックレス。
派手すぎず高級感のあるドレス。デコルテが大きく開いたハートカットのデザインで元々大きな胸がより強調されて見える。腰から裾までは緩やかに広がるAラインで美しい薄紫色のグラデーションになっている。
実は最初はフリルがいっぱいの子供らしい可愛いデザインのドレスを勧めてもらったんだけど、試着しようとしたら胸のサイズが合わなくて……。胸が大きくて困ることもあるんだね……。
それでまあ、ちょっと?大人っぽすぎるけど似合うからこれでいこう、ということになった……。そう、似合ってるのよね。まだ14歳のはずなんだけど。
異世界での私、ちょっと磨いて軽くお化粧しただけなのに、お姫様みたいに綺麗……。
私はあの占い師の前で自分が言った言葉を思い出していた。
『めっちゃ美人になりたい! 颯太に釣り合うくらいに!』




