第5話 カロリエ騎士団
音のする方へ少しずつ、慎重に近づいていく。
何かがぶつかる音。獣の咆哮。金属の擦れる音。
そして──人の声。
人だ! 初めて見るこの世界の住人。
全員銀色に白いラインの入った揃いの甲冑で剣や弓を手に武装している。
入り乱れてるけど……10人くらい。
そして彼らを取り囲んでいるのは、さっきの熊モドキとは違う、でもやっぱりすごく大きくて真っ黒な虎のような動物が4頭。
「人が襲われてる!?」
「そこにいて!」
言うが早いか私は返事を待たずに駆けだしていた。
「怯むな! 訓練通りに連携すれば勝てる!」
「訓練でブラックライガーとやりあったことないですけどぉ!?」
「無理っす、グラパ団長~! 早く逃げましょうよ~!」
あの虎っぽいのはブラックライガーというらしい。
腕が立つ者もいるようだけど明らかに苦戦してる。
その時、攻撃を避けて横へ跳んだ1人──グラパ団長と呼ばれていた人が、不安定な足場につまずいてよろめいた。
その機を逃さずブラックライガーが飛び掛かる。
──次の瞬間、私は彼の前に滑り込み、襲ってきたブラックライガーの喉元に下から剣を突き立てていた。
そして真っ黒い巨体がゆっくりと崩れるように倒れていく。
「は?」
皆が呆然と私を見た。
あっ、いきなり割り込んじゃったから不審者に見えてるかも?
「あ、あの、すいません! 危ないと思ったので出て来たんですけど。アレって倒しちゃって良かったんですよね?」
心配になって一応聞いてみる。
するとコクコクと頷く皆さん。
良かった。
「も、もちろんだ。君のお陰で助かった。感謝する!」
団長さんがそう言って立ち上がった。
顔が赤くなって動きもギクシャクしてるけど大丈夫かな?
私は剣を握りなおし、笑顔で言った。
「じゃあ、残りも片づけちゃいますね」
──十数秒後には、真っ黒な虎モドキの遺骸が3つ増えていた。
「俺らが苦戦してたブラックライガーを瞬殺……だと……?」
「しかも神々しいまでに美しい……女神か……?」
「返り血を浴びた戦乙女……推せる」
「僕、是非手合わせしてもらいたいです!」
「なんやあの嬢ちゃん……惚れてまうやろ」
「惚れるな。お前には彼女がいるだろうが」
「はっ、そやった! しゃあない……今回はグラパ団長に譲ったるわ」
「ああ~……団長……さっきからずっと彼女のこと見てるな……アレか?」
「アレだろ」
「遅すぎる初恋……」
彼らは顔を見合わせて頷いた。
危険はなくなったとみて颯太もやってきた。
「危ないところをありがとうございました!」
団長さんと他の皆さんがそろって私に頭を下げてきた。
「あ、いえいえ。お役に立てたなら良かったです」
「我々はカロリエ騎士団の者です。私は団長のグラパ。あなたは? かなり腕の立つ剣士とお見受けするが」
さっきから頬を紅潮させている団長さん。心なしか瞳も潤んでいるように見える。熱でもあるんじゃないだろうか?
「カロリエ騎士団……? あの、私はリア、です。剣士とかじゃないですけど……」
最後の方は小声だった。
「俺は橘颯太。颯太です。初めまして」
怪我人の手当をする間、私たちは簡単に自己紹介をした。
その間に騎士の1人、ルスさんが竹筒のようなものに入った水をくれた。
異世界初めての水……!
「おいしい……! 喉が渇いてたんです。ありがとうございます!」
「ありがとうございます。俺は何もしてないのに申し訳ないです。助かりました」
私と颯太がお礼を言うと彼は明るく笑った。
「ええって、ええって。嬢ちゃんのお陰で命拾いしたんやからこのくらい当然や。あんちゃんも嬢ちゃんの連れなら大事なお客! ってただの水だけどな!」
「ルス、リアさんたちを困らせてるんじゃないどろうな? やあ、俺はリュカ。携帯食ならあるけど食うか?」
「携帯食!」
颯太が妙な食いつきをみせる。
「それはファンタジーでよくある干し肉とかですか!? ガチガチに乾燥して石みたいに硬いとかいうアレですか!?」
ああ……やっぱり間違いなく隠れオタクだったんだね、颯太。
気持ちはちょっとわかるけど……なんか残念感があるよ。いい意味で。
「ファンタジーってなんや? そない不味かったら誰も食わへんやろ」
「これだよ。まあ美味しいってほどじゃないけど……そこそこ食べられると思うよ?」
リュカさんに渡されたのは四角いクッキーみたいな見た目の小麦色の固まりだった。
やわらかくはないけど、硬すぎるほどでもない。
口に入れるとザクザクした食感でちょっぴり塩味がついてる。うん、腹持ちよさそうな感じ。
「本当だ、まあまあいけますね……って、すみません! いただいておいて失礼なことを」
「はははっ、なあにその通りなんだから気にするな!」
リュカさんが颯太の背中をバンバン叩いて笑う。
「水、もっと飲むか?」
「あ、いただきます! ありがとうございます。えと、大丈夫ですか? 私たちがこんなにもらっちゃって」
「ああ。今日はもうこのまま引き上げるからな。それに森の入口は騎士団の敷地になってるからすぐだよ」
「えっ! じゃあ森からはすぐ出られるんですか!?」
「そや、すぐや。なんや? 嬢ちゃんたちもしかして迷っとったんか?」
迷ってたようです……。
「実は、私たち右も左もわからなくて人里を探して歩いてまして……」
「そうか、では我々と一緒に来るといい。恩人だからな。お礼もしなければ」
いつの間にか後ろに来ていた団長グラパさんがそう言った。
どことなく嬉しそうだ。
私と颯太は顔を見合わせて頷いた。
「「よろしくお願いします!」」
「聖剣はまた次回やな」
「ああ、どうせ長い事見つかってないんだ。焦ることないだろう」
ん?
聖剣って言った?
「聖剣!? 聖剣って言いましたか!? 今!?」
私が内心で疑問に思っていると、颯太の方が勢い良く食いついていた。
ああ……そうだね、隠れオタクだったね。うん。
「聞いたことないかい? 聖剣の伝説のこと。かなり有名だと思うんだけど」
「すいません。俺たちその……世情にうとくて。よければ詳しく教えてください!」
「ああ。じゃあもう出発するから歩きながら──」
リュカさんによる聖剣の伝説──
遥か昔、鍛冶の神が一振りの剣を鍛えた。
出来栄えに満足した神は気に入った人間にそれを与えた。
当時世界は混沌としていたが、神は、彼がその剣を使って世界に平和をもたらしてくれるよう期待したのだ。
しかし、神の力が宿った剣を手にした人間は、見境なく人を、動物を、全てを蹂躙しつくした。
力を得て人間は変わってしまったのだ。
世界は地獄と化した。
鍛冶の神は悲しみ、二度と剣を鍛えることはなくなった。
そしてその人間が死んだ後、その剣を森に隠した。
その剣を振るうに相応しい者が現れるまで決して誰にも見つからないように。
そうして、今もその剣は待ち続けている。
剣を振るうに相応しい自らの主が現れるのを。
「長~い歴史上では何人か、その聖剣の主に選ばれる人もおったって話や」
「ああ、剣豪として歴史に名を刻んだ偉大な英雄アントニオ! それにルカス! 名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
「そいで今は戦争も落ち着いて平和やし、聖剣があるっちゅう森に訓練も兼ねて探しに来てるんよ」
「相応しい者にしか見つけられないとは言っても、そこにあるんなら探せば見つかるはずだってさ。うちの領主様のご意向でね。まあ、今日は怪我人も出ちゃって散々だったけどね」
私と颯太は顔を見合わせた。




