プロローグ その日、世界は終わらなかった――
プロローグ その日、世界は終わらなかった――
その日、世界は終わらなかった――ただ、昨日までの世界ではなくなった
今からおよそ二百年前、一つの隕石が地球へ落下した それがどこから来たものなのか、なぜ地球へ向かってきたのか、そして何を目的としていたのか、その答えは二百年という長い時間が過ぎた現在でも完全には解明されていない ただ、隕石が落下した直後から世界各地で確認され始めた異変だけは、誰も否定することができなかった 人間の身体に、それまで存在しなかった未知の因子が組み込まれ始めたのだ
後にそれは「種族因子」と呼ばれるようになり、最初の世代ではごく僅かな変化として現れていたものが、世代を重ねるにつれて少しずつ人々の中へ受け継がれていった 身体能力に変化が現れる者、五感の一部が異常なほど発達する者、炎や電気など自然現象に似た力を扱える者、身体の一部だけに特殊な性質が現れる者、あるいは既存の分類では説明することすらできない奇妙な力を持つ者――その形はあまりにも多く、同じ種族因子を持つ者であっても、必ずしも同じ力を受け継ぐわけではなかった 強い因子を持っているから強い人間になるわけでもなく、優れた能力を持っていても扱いきれなければ意味を成さず、反対に一見すれば小さな力であっても、それを誰よりも巧みに使いこなすことで大きな力へと変える者もいた やがて人々は、種族因子そのものではなく、その人間が何を受け継ぎ、どのような能力として発現させ、それをどう使うのかによって人の価値は決まるのだと知っていった
けれど、隕石が世界へもたらした変化は、それだけではなかった 人類が自分たちの身体に起きた異変を理解しようとしていた頃、世界各地で人間とは異なる生態を持つ存在が確認され始めた 本能のままに動き、目に入ったものへ襲いかかるもの、巨大な獣のような姿をしたもの、昆虫を思わせる異様な群体、これまで地球上に存在しなかったと思われる生物、そして時には知性を持ちながら人類そのものを敵視する存在まで現れた 人々はそれらを一括して「外敵」と呼んだ 最初の頃、人類には外敵と戦うための十分な手段がなかった 軍が動き、警察が動き、研究者たちが原因を探り、各国の政府が対策を講じたとしても、未知の能力や生態を持つ外敵を前にすれば、それまで築き上げてきた社会の仕組みはあまりにも脆かった 街が襲われ、人々が避難し、土地を捨てなければならなくなることもあった 国土の一部を外敵から隔離する国もあれば、地区や州そのものを封鎖して人々を移住させる国もあり、そして中には外敵による侵攻によって国家としての機能そのものを失い、滅びた国さえ存在した
それでも人類は、生きることを諦めなかった 隕石の落下から数十年が過ぎる頃には、各国で種族因子や外敵に関する研究が本格化し、それまで存在していた政府や警察、軍などの仕組みも少しずつ形を変えていった 外敵に対して通常の警察だけでは対応できないことが明らかになれば専門の部隊が作られ、軍事力だけでは解決できない問題には研究機関が関わり、異能や種族因子によって生じる問題には新たな法律や制度が必要になった 五十年、百年という時間をかけ、人類は何度も失敗し、何度も制度を作り直しながら、外敵と共に生き残るための社会を少しずつ築いていった 外敵侵攻に対する討伐機関も各国で確立され、行政、警察、研究機関、討伐機関それぞれの役割が整理されていくにつれ、人々の生活もまた少しずつ落ち着きを取り戻していった 外敵が消えたわけではない 戦いが終わったわけでもない ただ、何も知らずに恐れるしかなかった時代から、脅威を理解し、備え、対処する時代へと世界は変わっていったのだ
そして、外敵という共通の脅威は、それまで互いに異なる歴史や思想を持っていた国々にも一つの関係を生み出した すべての国が同じ考えを持つようになったわけではない 外敵を積極的に討伐する国もあれば、危険地域を隔離する国もあり、研究を優先する国もあった それぞれの国が自分たちの事情に合わせた方法を選び、その判断の違いによって時には対立することもあった それでも外敵に関する情報を共有し、被害を受けた地域へ支援を送り、必要であれば国境を越えて協力するという関係は、長い時間をかけて少しずつ築かれていった 世界は一つにはならなかった だが、共通の敵を前にした人類は、完全に分かれて生きることもできなかった
日本も例外ではなかった 日本国内でも外敵による被害は幾度となく発生し、そのたびに対策は見直され、研究機関が整備され、行政の仕組みが変わり、警察機構もまた新たな役割を担うようになった そして、通常の警察や軍だけでは対応できない特殊な災害や外敵に対処するために設立された組織――特異災害対策機構が現在の形へと整えられていった その組織に所属し、外敵の討伐を担う部隊は、いつしか市民から「討魔隊」と呼ばれるようになった 第一討魔隊、第二討魔隊、第三討魔隊――日本には二十一の討魔隊が存在し、それぞれが異なる任務や役割を担っている 大規模な外敵を正面から討伐する部隊もあれば、機動力を生かして現場へ急行する部隊、特殊な能力を持つ外敵を相手にする部隊、救助や護衛を重視する部隊もある その中には、一つの分野に特化するのではなく、討伐、護衛、救助、調査、支援と、必要とされる仕事を幅広く引き受ける部隊も存在していた
それから、約二百年が過ぎた
人々は再び、当たり前の日常を生きている 街には高層ビルが並び、道路には車が走り、電車は決められた時間に人を運び、学校には学生が通い、病院では医師や看護師が働き、商店には人が集まる 技術は二百年前よりも進歩しているが、世界そのものが別の惑星になったわけではない 昔から使われてきたものが形を変えながら残り、そこへ新しい技術や制度が加わっている 人々の中には様々な種族因子を持つ者がいるが、それもまた特別なことではなくなった 自分とは異なる因子を持つ人間と同じ学校へ通い、同じ職場で働き、同じ店で食事をする 因子があるからといって誰もが戦士になるわけではなく、特別な能力を持っていても普通の生活を選ぶ人間は数多く存在する この世界では、それが当たり前だった
もちろん、外敵がいなくなったわけではない 今も世界のどこかでは外敵による被害が起き、各国の討伐機関が出動している 隔離された地域も残っている かつて滅ぼされた国の跡地には、今も人の立ち入りが制限されている場所がある それでも大多数の人々にとって、外敵との戦いは日常そのものではなかった ニュースで知る遠い出来事であり、避難訓練で教えられる危険であり、万が一のときには討魔隊が来てくれるという、どこか現実から一歩離れた存在でもあった 人類は長い時間をかけて、外敵が存在する世界の中に「普通の暮らし」を作り上げていた
そして、その普通の世界の中には、数え切れないほどの人間がいる 強い因子を持つ者もいれば、ほとんど能力を発現しない者もいる 戦うことに向いている者もいれば、研究に向いている者、誰かを支えることに向いている者、何の特殊な力も必要とせず普通の仕事をして生きる者もいる 同じ因子を持って生まれたとしても、その人生が同じになることはない 何を受け継ぐのか、どんな力を得るのか、そしてその力をどう使うのか――それを決めるのは因子だけではない
人が生きる場所も、同じだった
家があり、学校があり、仕事があり、友人がいて、家族がいて、誰かと笑い合う日々がある
その日常のすぐ隣に、外敵と戦う者たちがいる
そして今日も、どこかで誰かが戦っている
その中に、一人の青年がいた
名前は、黒野透真
この時の彼は、自分がこれから何を失い、何を得ることになるのかを知らない
自分の中に何が眠っているのかも知らない
これから出会う人間たちが、自分にとってどれほど大切な存在になるのかも知らない
ただ、まだ何も知らない彼は、これから始まる物語の最初の一歩を踏み出そうとしていた
世界が変わったあの日から二百年
人類が積み重ねてきた歴史の、その先で――
黒野透真の物語が始まる
死線の彼方へ向かう、その最初の一歩から
初めまして、鐵桜花と申します。
初小説、初物語 分からないことも多く手探り状態。誤字脱字どんと来いの新参者ではありますが
書きたい事がまとまらず、うまく書こうとも思っておらず、読んでいただける皆様に不快な想いをさせてしまうかもしれません。それでも付き合って頂ける方々、若輩者ではありますがよろしくお願い致します。




