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2-2

 周りがどうであろうと、ひとまず連絡を入れなければ。

 私は携帯のロックを素早く解除し、先方の電話番号をタップした。呼び出し音は、鳴る。


「はい」いかにも事務的な男の声。向こうからは名乗らないので、こちらから試みる。

「本日、御社(おんしゃ)にうかがう予定なのですが、」

「行っていいのですよ」明らかに西松だ。


 何事か言おうとすると、通話は向こうから切れた。その後、画面のどこに触れても、一切反応しなくなった。あきらめてスマートフォンを放り投げようとしたが、思い直し、一応ポケットにしまった。


 この状況でなすべきことが思いつかず、私は走行中の車内を見まわした。先ほどから視界の隅で気づいていたことだが、自分の他に乗客は数人いるらしかった。前方のボックス席に高齢者が四人かたまっていて、さらに手前に一人、サラリーマン風の男が座らず、片手でつり革をつかんでいる。


 速度を上げた電車は、化学工場の敷地内を平然と突っ切っていた。その倉庫内部、壁のかなり上方に、フォークリフトが斜め上から突き刺さっているのが見えた。それも、完全に裏返った状態で。ただし、そこにいる作業員らは全員、壁に何も刺さっていないというふうに、検品、梱包(こんぽう)、その他それぞれの業務に取り組んでいた。


 工場を通過すると次に、ほぼ廃墟化したショッピングモールに入った。吹き抜けを囲う、各フロアのショップはことごとくシャッターで閉じられている。その中のあるショップのシャッターを、成熟したカバがくわえ、無理やり引きちぎろうとしていた。ただし、フードコートの「花まるうどん」だけは()いていて、席に二組ほど家族連れがいた。


 それから、雑居ビルにテナントとして入っている英会話教室の横を通り過ぎた。見えたのは一瞬だが、元気に発言しようと手を挙げる子供たちの後ろで、共同借主(かりぬし)だろうか、男が一人、布団で熟睡していた。


「平成後期から令和にかけて」女性の声でアナウンスが始まり、視線を車内に戻した。「電車内でこのように過ごす老人たちが、一部見受けられたのです」


 聞いて、はっとし、私は高齢者らが占めるボックス席の方へ向かった。

 (ろう)人形だ。こっちのサラリーマンも。


 人間でないとわかると、その展示物(?)に触れられる距離まで近づいてみた。見ると、肘かけに、美術館で見かける白いキャプションボードが載っている。そこにタイトルとして、「電車で酒盛りをする老人と、キレるビジネスマン」と書かれている。


 だんっ、と音がし、体をびくっと震わせつつ、その方向に目をやった。

 サラリーマンの首と脚は可動式のようで、一定の間隔で足を踏み鳴らしている。そして、怒りに激しくゆがんだ顔をゆっくりと老人たちに向ける。一方、老人たちはそれを一切気にかけず、ワンカップの瓶やさきイカを口に運ぼうとしている。


 さらに床に、日本酒の別の小瓶が転がっているのに気づいた。その口からは、半分以上の中身がこぼれ出て、サラリーマンの足元にまで到達している。試しにかがんで、その覆水(ふくすい)状のものに触れてみたが、やはりこれもレジンか何からしく、凝固している。


 再びキャプションに目を移し、説明書きを読んでみた。

「男性たちは友人同士、とても愉快そうに過ごしていますが、こぼしたお酒で他の乗客の靴を汚してしまったことに気づいていません。だいぶ酔っている様子から、きっと謝罪もないのでしょう」

 読み終えてから人形が、だんっ、と再び床を踏みつけた。

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