表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/12

1-6

 窓側のバーテーブルに沿って小ぶりな椅子がいくつか並んでいて、その一つに男が座っている。さらに突き当たりにかけられた額に、なにやら「動く絵」が収められている。絵があきらかに「動いて」いるもので、どうしてもそちらに目を奪われた。


 いや、絵ではない。水銀?


 今さっき通った境界のような淡いゆらぎとは違い、額縁の中で銀色の液体らしきものがたゆたって(・・・・・)いるのがはっきりとわかる。


 見ていると、だんだん感情が吸い取られていくような心地がした。それまで触れたことのない仕組みが、それ独自の安定をもって、驚きの声さえ封じてくるのだった。


「こちらにおかけください」店長の声で、なくしかけた意識を取り戻した。

 西松は男の隣の椅子を、こちらに座りやすいようにずらし、勧めてきた。


「もう、そろそろ出ないといけないんで」これは本心でもあり、それ以上踏み込まないようにする防衛のためでもあった。

「ビルはすぐそこでしょう。安心してください、すぐ戻ります」

 またもや、こちらのささやかな希望は近くない場所へ押しやられた。それも店全体を取り巻く、抵抗しがたい「仕組み」のせいだったのかもしれない。


 しかたなく男の隣に腰かけると、何度か首を大きく振り向けてみた。あくまで防御のために、視界に入れておかなければならないものが多くあった。しかし、何からそうしてよいかわからず、そのうち自然と顔は正面を向いた。


 隣の男はいっさい喋らず、前に置いたipadで、何か動画を熱心に観ていた。横目でちらっと拝見すると、山あいを背景に、(てら)いない笑顔を向けた少女が映っている。じっくり鑑賞するわけにもいかず、すぐに目をそらしたが、耳をすますことで音声を聴き取ることはできた。


「少女が姿を現すと、それまで茂みに隠れていた牛が一頭、うれしそうに駆け出してきます」

 よくある、人里離れた地で暮らす女の子と動物の物語か。男は三十代くらいで、こちらもオフィス街に似つかわしいスーツ姿でいる。案外かわいいものを観ているな、とおかしさがこみ上げ、少し気が軽くなった。


 あの店長が遅ければ、断りなく退出しよう。

「牛の名前はヨッピー。同じ年に生まれた女の子とヨッピーは大の仲良し。ご飯を食べるときも、お風呂に入るときも、寝るときもずっと一緒」


 スマートフォンを見ると、面接まであと十数分。たしかに、まだ間に合うといえば間に合う。

「お父さんの車に乗って少女が出かけようとすると、ヨッピーはまだ遊んでほしいようで、一生懸命あとをついてきます」


 心なしか、音量が上がった気がする。こちらにも聞こえるようにしている?

「『ヨッピー、いい子にしていてね。市場で大好きなトウモロコシをいっぱい買ってきてあげるからね』」


 すたっ、と音がし、目を向けると、西松が意気揚々として戻ってきた。トレーに載せた料理を運んでいて、よくこぼさないものだ、としたことのない感心をした。

「おいしいエサを食べてご機嫌なヨッピーの首元に、女の子はスタンガンをあてました。ヨッピーはその場で気絶しました」


 ぎょっとしてタブレットの画面に目をやる。それと同時に西松が口を開いた。

「ヨッピーのステーキです。熱いうちにお召し上がりください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ