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「窓際の男がミス日本だと思っている女性は、ごく普通のコンビニ店員なんです」
そう言われると、たしかにそう見えなくもない。コンビニで応対する女性の中に、突出した美貌の持ち主を、たまにではあるが、見かけたことはある。頭のおかしい店長がさらに続ける。
「考えてみてください。男がミス日本だと思って必死に口説いている女性は、実はコンビニ店員で、本当のミス日本はというと、横で黙々と食器を片付けている。これほど滑稽な場面を他に見たことがあるでしょうか」
西松はこのときの状況を、たった一人で心底楽しんでいるようだった。それは、大勢で共有できる愉快さではなく、おとしめた人の落差を遠巻きに眺める、そういった類の不埒なものの楽しみ方に思えた。
「結局人は肩書きで人を見ているのです」これも随分な偏見であるが、西松は言い続ける。
「人は、その人の歴史を瞬時にトレースできませんから、肩書きがあればその文字列に頼るしかないのではありますがね。まあ、それはそれとして、あの男は、相手がミス日本でないとわかったとき、一体どんな反応をするでしょう」
「そんなことして、怒られないんですか」
ようやく私は反論に近いことをしたが、西松のせせら笑いを抑えることはできなかった。
「オストラス、セニョール!」西松は言いながら、おどけて両手を広げてみせた。
この男の道化芝居を止める方法は、今のところ思いつかない。
「よろしければ、店の奥にもご案内しましょう」西松は私の方をろくに見ず、立ち上がった。この「よろしければ」に、私の都合を顧みる意思は明らかに含まれていない。スマートフォンの時刻で、面接まであと三十分ほどあることを確かめる。
いいだろう。この男の所業がいかなる犯罪に結びついているのか。急に好奇の念と義務感が螺旋状になって、腹のあたりから湧き起こった。
西松のあとについて男女の横を通るとき、会話の一部が聞こえた。
「……それで、言ってやったの。『自分の判断で勝手に仕事するな。する前に必ず俺に報告しろ』って。主任の俺を通さないと、ミスするに決まってるんだからさ。本当に俺がいないと、どうしようもない奴らばっかりでさ、全員俺だったら、とっくに売り上げ五倍は軽く超えてると思うけど、世の中そううまくはいかないしさ……」
店長に対する感情は変わらなかったが、この男が「ミス日本」を前にして舞い上がるのも無理はない、とも思った。白スーツの女性は相変わらず、無垢に見える顔をしながら相手の話に耳を貸している。
通り過ぎざま、男の肩に手を置き、「早く出たほうがいい」と言おうか迷った。しかし、
「こちらの通路が奥に伸びているんですよ」と店長が振り返り、私の注意はそらされた。
観葉植物の鉢が手前にずらされると、気づかなかった。たしかにそこに、店の奥へと続く細い通路が現れた。
「どうぞ遠慮せず、こちらへ」
都内であり、自信ありげに進む西松のさらに向こう、最奥が横浜まで続いていることはない。電灯はついていて、視界も十分確保されている。にもかかわらず、映りの悪いテレビのように途中がゆがみ、いくら目を凝らしても先まで見通すことはできなかった。




