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1-4

「窓際の男がミス日本だと思っている女性は、ごく普通のコンビニ店員なんです」


 そう言われると、たしかにそう見えなくもない。コンビニで応対する女性の中に、突出した美貌の持ち主を、たまにではあるが、見かけたことはある。頭のおかしい店長がさらに続ける。


「考えてみてください。男がミス日本だと思って必死に口説いている女性は、実はコンビニ店員で、本当のミス日本はというと、横で黙々と食器を片付けている。これほど滑稽(こっけい)な場面を他に見たことがあるでしょうか」


 西松はこのときの状況を、たった一人で心底楽しんでいるようだった。それは、大勢で共有できる愉快さではなく、おとしめた人の落差を遠巻きに眺める、そういった(たぐい)不埒(ふらち)なものの楽しみ方に思えた。


「結局人は肩書きで人を見ているのです」これも随分な偏見であるが、西松は言い続ける。

「人は、その人の歴史を瞬時にトレースできませんから、肩書きがあればその文字列に頼るしかないのではありますがね。まあ、それはそれとして、あの男は、相手がミス日本でないとわかったとき、一体どんな反応をするでしょう」


「そんなことして、怒られないんですか」

 ようやく私は反論に近いことをしたが、西松のせせら笑いを抑えることはできなかった。


オストラス(おやまあ)セニョール(紳士殿)!」西松は言いながら、おどけて両手を広げてみせた。

 この男の道化芝居を止める方法は、今のところ思いつかない。


「よろしければ、店の奥にもご案内しましょう」西松は私の方をろくに見ず、立ち上がった。この「よろしければ」に、私の都合を(かえり)みる意思は明らかに含まれていない。スマートフォンの時刻で、面接まであと三十分ほどあることを確かめる。


 いいだろう。この男の所業(しょぎょう)がいかなる犯罪に結びついているのか。急に好奇の念と義務感が螺旋(らせん)状になって、腹のあたりから()き起こった。


 西松のあとについて男女の横を通るとき、会話の一部が聞こえた。

「……それで、言ってやったの。『自分の判断で勝手に仕事するな。する前に必ず俺に報告しろ』って。主任の俺を通さないと、ミスするに決まってるんだからさ。本当に俺がいないと、どうしようもない奴らばっかりでさ、全員俺だったら、とっくに売り上げ五倍は軽く超えてると思うけど、世の中そううまくはいかないしさ……」


 店長に対する感情は変わらなかったが、この男が「ミス日本」を前にして舞い上がるのも無理はない、とも思った。白スーツの女性は相変わらず、無垢(むく)に見える顔をしながら相手の話に耳を貸している。


 通り過ぎざま、男の肩に手を置き、「早く出たほうがいい」と言おうか迷った。しかし、

「こちらの通路が奥に伸びているんですよ」と店長が振り返り、私の注意はそらされた。


 観葉植物の鉢が手前にずらされると、気づかなかった。たしかにそこに、店の奥へと続く細い通路が現れた。


「どうぞ遠慮せず、こちらへ」

 都内であり、自信ありげに進む西松のさらに向こう、最奥が横浜まで続いていることはない。電灯はついていて、視界も十分確保されている。にもかかわらず、映りの悪いテレビのように途中がゆがみ、いくら目を凝らしても先まで見通すことはできなかった。

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