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「今日は面接ですか」

「はい」

「どちらへ」

「そこのあんしん何とかビルに入っている、小さな保険会社です」

 それから店長らしき男は、料理はどうだったかという当たり障りのない話をしながらも、私の履歴書にちらちらと視線を()わせていた。


 この西松とかいう男、「黒い」な。

 

 黒いとは、肌の色についてではない。色の白黒でいえば、この西松は、生まれてから今までアルミホイルに包まれていたのでは、と思わせるほど白い。

 さらに、90年代のソバージュっぽいウェーブヘアが白い顔に折り重なることで、言い知れないいかがわしさを現出(げんしゅつ)させている。


 この男に感じた「黒さ」を、「腹黒い」という意味で、単純に置き換えることもできないように思えた。


 とにかく、何かが「黒い」。


 この男を視界にとらえてから、そのときに至るまでのその全ての言動が、こちらの全神経をなぞるようにして不安を誘う。そのような気味の悪い「黒さ」であった。


 西松のその「色」について考えている最中(さなか)、当人はこんな話をしだした。


「そこの窓際にいる男を見ましたか」

 言われて私は、まだ談笑している四人掛け席の男女に目をやる。


 このときすでに西松は私の方に身をせり出していて、そこらかさらに口元を私の耳に寄せてきた。小声で、

「女性の方は、なんとミス日本なんですよ」

「え」

 私は反射的に声を漏らした。それから女性を特に注意して眺めた。


 私の位置からは、女性の斜めうしろ向きの姿しか(おが)めなかったが、たしかに、ぴんと張った背筋と、親しみやすそうな愛嬌(あいきょう)に好感が持てるように思えた。


 ウィンブルドンかと言いたくなる白のスーツを崩さずに着こなし、男性の(おそらく)自慢話に欠かさず相槌(あいづち)を打っている。


「すごい人が来てるんですね」

 語彙(ごい)の崩壊した返事をすると、西松は、くっく、と押し殺した笑い声を立てた。

 この変態的な店長が笑うのは、私の中学生レベルの返答のせいではないらしかった。


「実は、逆なんですよ」

「逆?」

 こいつは本当に何を言っているんだ。

 逆?

 逆ということは、男の方がミス日本ということか。それは、ありえない。


 明らかに、筋肉質で絹の背広をぱんぱんに(ふく)らませている方が男だろう。

 女性の方がはるかに華奢(きゃしゃ)で、容積でいうと男の半分ほどに見える。


「ミス日本はそっちの子です」

 西松は男女に見えないように、親指を小さく窓の方へ向けた。


「あ、え?」

 ウェイトレスか。


 先ほどから給仕(きゅうじ)をしてくれている女性は、このときもなお男女の卓の皿を片づけている。

 その気だるさたるや、やはり、家にロケット花火でも打ち込まれたのか、と言いたくなるほどのものである。


 ただし、これでウェイトレスの不満の正体がわかったような気がした。

 私の密かな納得をよそに、西松がさらに言葉を継ぐ。


「男というのは、なんでいつもこうなんでしょうね」


 いわゆる、主語がでかい、というやつだ。

 こういう場合、「男の一部は」とするべきだが、西松の口が止まる様子はなく、しかたなしに続きを聞くことにした。

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