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口論、といっても、コータローが一方的に不平を並べ、トゥクトゥクドライバーがにやにやするだけだったが、私は何とか間に入ろうとした。
そもそもこの場合、喧嘩の原因は何か、そして、一方に言葉が通じそうにないとき、どうすればよいか考えていると、車の簡素なフレーム越しに人影を見つけた。
子供?
広場の左手にいびつな舗装路が伸びていて、それに、思いつきで区切られたような公園が面している。
遊具は見当たらず、先にアナログ時計が取り付けられた細いポールが中央に建っている。もはや正確な時刻を知る気など失せていたが、その予感に合わせるかのごとく、短針も長針もゆらゆらと不規則に動き続けている。
公園脇のベンチに腰かけた男の子は一人、泣き声をあげているらしかった。
二人に、少年の方を指差し知らせると、泣き声は幾分静まった気がした。
「泣いてるんですか?あの男の子」
コータローが言い、三人の視線が子供から外れると、慟哭は明らかに激しくなった。再び三人が男の子に注目すると、それとわかるように辺りの静寂が、薄い布のようにしてふわりと舞い戻ってきた。
私は試しに、トゥクトゥクのフレームをつかみ、乗り込む素振りをみせた。すると、それこそ空気を切り裂かんばかりの大音量が、車、地面をも通して、体全体に伝わってきた。
子供はそんなもんだろう、と私はコータローに目で合図し、二人で公園の方へ足を向けた。するとなぜか、ドライバーも車のキーを外し我々のあとをついてきた。
「お前まで来んのかよ」と言いかけたが、追い払う理由も思いつかず、そのまま三人で硬い砂利の公園に踏み入れた。
「坊や、どうしたんだい」という漫画のような台詞をいきなり言うのはためらわれた。そして、コータローも同じ気持ちでいるのは、触れられる肩の距離で簡単にくみ取ることができた。
こういう場面で、熱帯気候の天真爛漫さが大いに役立つことを思いがけず知らされた。我々が言葉を探しながら、こけしのように突っ立っている傍で、男は積極的に子供へ励ましの言葉をかけていた。
言葉の意味はわからなかったものの、それは今にも少年の両肩を揺さぶらんとする、猛烈な善意であった。
男に触発される形で、我々も少年の目線に合わせてベンチ前で屈むことにした。
「何か、話があれば聞こうか?」
少年も日本人であるようで、具体的な話は当然、我々二人が担当した。
男の子は私の言葉にすぐには答えず、涙を手の甲で拭きつつ、わかりやすい嗚咽を漏らしていた。ただし、完全に無視されているようにも感じられなかった。わずかながら少年のむせび泣きは和らいでいき、もう少し待つべき、という気概が自然と、三人の共通認識として生まれた。
「家に」
子供の口がようやく開き、糸口とも呼べるフレーズを一つ引き出すことができた。
「家に帰れないの?」
コータローが訊くと、子供は勢いよく首を横に振った。それにより、帰り道くらいは覚えている、というささやかなプライドを感じ取ることはできた。
「道に迷ったわけじゃないんだね」
私がそのように補うと少年は、まだ泣きながらも、やや満足げに、こくりと一度うなづいた。




