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それから、もしや、と勘づくところがあり、私はそれを言葉にし、尋ねた。
「コータロー、今日何月何日?」
友人は言われて、少しの間、視線を灰色の空に預けた。
「四月八日です」
「やっぱり」
その後、西暦も訊いたが、それは自分が直前まで過ごしていた年と一緒だった。
「俺が店に入ったのは、コータローの三か月後だよ」
コータローの、そんなことあるんですか、という問いに、ここではあるんじゃない、と返した。私の返事には芯がなく、言った直後それは、冬の白い息と同じように空気中に溶けて消えた。
ここで初めて無言が生まれそうになった。友人の思考も、この世界に慣らすため、アップデートを必要としたのだろう。私は立ち上がり、デパートが見えるところまで歩いてから、あれ見てみ、と友人に振り返った。
コータローは、私の指さす方角を見て予想通り、がく然としていた。もちろん、高々と掲げられた私の名前はまだ、くすんだ空に真っ赤な対比を加えている。
恥ずかしいという感覚は、もうどこにもなかった。それよりもむしろ、社会人として立派に街を闊歩できる友人と、いつまでも対等かそれ以上の振りをする自分の方がよっぽど恥ずかしかった。職はいまだに定まらず、せっせと履歴書を書かなければならない現状を打ち明ける気にはなれなかった。
コータローも、うだつの上がらない私の身の上を察してくれているのだろうか、と都合よく考えたとき。
友人の体が不安定に持ち上がった。
またもや予告なくそれは起きたが、相手を気遣う心の余裕は私にもなかった。どうやらコータローと同時に、私の脚も地面から離れたようだった。
あとで思い返してわかったことだが、この直後我々は浮いたまま、噴水を中心に高速で二、三回転した。重力が地球のと同じ程度に戻ったとき、私は右肩をこする格好で地面に投げ捨てられた。目まぐるしく動く視界で、コータローの姿を何とかとらえることができた。友人は脚を逆ハの字に開いた状態で、背中を数メートル地面にこすりつけてから、ようやく止まった。
「何だよ、この世界」
コータローは明らかにいらだっていたが、私はその怒りの吐き出す先を示してやれなかった。そりゃ怒るよな、と心の中でつぶやきながら、破けてどうにもならない布地の上を左手でさすった。
きいっ、とブレーキの音がし、二人そろってそちらに顔を向けた。見ると、トゥクトゥクに乗った東南アジア系の男が後部座席を親指でさし、我々に乗るよううながしていた。
「乗らねえよ」
そのときコータローの方が車の近くにいて、彼の言い方もほとんど罵声に近いように思えた。
ここで行われる仕打ちをもう全て、この世界の出来事と結び付けているのだろう。まるでトゥクトゥクの男が我々を浮かせ、噴水まわりを二、三回転させたかのように、コータローは敵意をあらわにしている。しかし男はコータローの怒りに心惑わすことなく、白い歯を見せながら、空いた後部座席を自慢気に示し続けた。
コータローが男に抗議するようにして、言葉を浴びせているとき、私はようやく彼らのいるところまで近づいた。




