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広場のデパート側に立つと、黒々とした木々と雲を背にする駅は、来たときよりももっと終末的に見える。その駅と広場を分けるあの柵の内側で、ほっそりとした若いスーツ姿の男が、こちらに向けて手を振っていた。
「コータロー?」私が目を細めながら口走ると、一瞬遅れて「先輩?」と、似たようなイントネーションで言葉が返ってきた。
走り出すころには、もう疑念は確信に変わっていた。
「コータローじゃん、何やってんの?」
「先輩こそ、何してるんですか」
柵を挟んでコータローの傍まで来ると、青みと気軽さの残る、あの大学時代の気分が蘇ってきた。
「先輩、ここからどうやって出るんですか。どこ探しても出口ないんですよ」
「そこ、またいでいいよ。俺もそうしたし、誰も何も言ってこなかったし」
状況が状況でもあったからだろうか、一緒に広場脇のベンチまで歩く間も、互いの言葉は尽きなかった。
「電車に乗ってから、ヤバさが激増しましたよね。着物の女の人が墨汁かぶって、窓に『いってらっしゃい』って書いたり」
「ああ、俺も見た、その人。いい病院紹介してあげたかったな」
自動販売機で、手に収まるくらい小さいペットボトルの茶を一本買った。その後、儀礼的というか、一応先輩風も吹かせた方がいいと思い、コータローの分も買おうとした。しかし、私の茶が出て来たあとも、スポーツ飲料やら缶コーヒーやらとめどなく出てきて、後輩におごる必要はなくなった。
コータローは地面に散らばった飲み物を飲んでいいのか、しばらく迷っていた。しかし、私が茶の他に、拾い上げたエナジードリンクを一口飲むところを見て、決心したように、懐かしいスプライトクールを手に取った。
「先輩、何か顔色悪いけど、大丈夫ですか」
私は言われて、デパートで起きた顛末を、かいつまんで説明した。スリリングにではなく、あくまで事実を並べる形でそうした。
「通報したんですか」心配そうに言うコータローの顔が、自販機の明かりを受けて青白く光っている。
「通報、か」
携帯を見ても案の定、時刻はデタラメの表示しかしていなくて、使い物にならない。ちなみに、そのときは「7:187」と示されていた。
「携帯使えなくない?」
訊かれたコータローも、すぐさまスマートフォンを取り出し、私と同じように画面を確認する。見ていると、何度か親指で画面を擦ったのち、ようやく発信も受信もできないことを悟ったらしかった。
それから当然の流れで、あの忌々しいレストランに入った経緯について、話題が移っていった。
「外回りの途中で、なんかレトロでいいなあ、と思って」
「コータローんとこ、商社だっけ?」
「そうです。全然、新規の案件取れないですけど、外は涼しいから、まだマシな方ですよ。これが真夏だったら、路上でぶっ倒れてましたね」
「待って」
私は違和感を抱いた時点で、止めるようにして口をはさんだ。
「涼しい、って、店入ったの何時くらいだった」
「昼前くらいですね」
「同じじゃん。待って、外めちゃくちゃ暑かったじゃん。俺、コロッケになるかと思ったもん」
「いや、全然暑くなかったですよ。ジャケット着てきてよかった、って思いましたよ」
そこで会話は一旦とぎれ、お互い記憶をさぐるようにして顔を見合わせた。




