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いきなり現れた外国人の説教により、警備員含めその場にいる者たち全員の口が閉じられた。金髪の男はそれまでの力強さと確信とともに言い続けた。
「日本以外の国で、お前たちがやっている下品なエンターテインメントを観たことがあるか。ないだろう。白人が他人の頭を叩き、観客を笑わせようとするのか。黒人がふざけて、動物の顔に白い食用パイを投げつけることがあるのか。アラブ人が、人の頭に金だらいが落ちるところを観て、喜ぶというのか。恥知らずという言葉は、お前たちのすぐ頭上にある。その意味を辞書で調べ、よく吟味してみることだな」
話の途中で、ズボンの股上あたりに感触があり、目を落とした。すると、肘ほどもある真っ赤なロブスターが股間にぶら下がっていて、私はあわててそれを手で払った。
私がうろたえることで、またもや軽い爆発のような笑いがまき起こった。それまで真顔で説諭していた外国人が、それを契機に、警備員から鉄のふたを受け取った。外国人の顔は一転して、楽しみを隠し切れないというふうに、紅潮している。
白人の男は、警備員がしていたのと同じように、私の頭をふたで、がんっ、と殴りつけた。それにより、もはや何度目かわからない笑いが、どっ、と渦巻く。警備員はもはや可笑しさで立っていられないようで、腹を抱えながらその辺で笑い転げている。
「ニッポンノ!」、がんっ。「オワライハ!」、がんっ。「サイコウダヨ!」、がんっ。
なぜか片言になった外国人のかたわらで、警備員が笑いの合間に言葉をはさんでくる。
「股間に!股間にロブスターがぶら下がることないだろ!」
全く気づかなかったが、巨大なエビはどうやら、外国人の話の間にこっそり警備員の手に渡ったらしい。
「ナンデ!」鉄のふたはすでにコの字に曲がっていたが、外国人はそれを無理やり真っ直ぐになおし、さらに私の頭をそれで叩き続けた。
「ナンデ!」、がんっ。「コカンニ!」、がんっ。「ロブスターヤネン!」、がんっ。
屋上でのバカ騒ぎの後でも、アドバルーンで吊られた私の名はまだ勢い切らさず燃えている。ヘルメットは、階段かエスカレーターを降りるとき、どこかへ投げ捨てた。
重力はまた、弱まったり強まったりを繰り返しているのだろうか。肋骨の内側が痙攣し、そして何より頭の腫れがうずくのは、不規則な重力だけのせいとは思えなかった。
「あんた」
この世界は途方に暮れる間も与えてくれないのか、と声の方へ目を向ける。先ほど危険を警告してくれた、「キヲスク」の女性であるのは聞く前からわかった。
「あんた、認証が必要だよ」
「認証?」
一体何の認証か、と疑問を口にする前に、女性が言葉を重ねた。
「ここから出るには認証が必要だよ」
認証とは何か、誰の認証か、どこに行けば手に入るのか、私は言うに任せて尋ねた。しかし、女性はそれ以降口を閉ざし、どこかへ消えるでもなく、黙ってその場に居続けた。試しに、まだ散らばったままの雑誌類をいくつかまとめ、店先に戻してみたが、特に効果はなかった。
雑誌の中に求人誌も混じっていて、立場上、反射的にそれをめくろうとした。すると、「すいませーん」と長い声が、あの閉ざされた駅の方から聞こえた。
今度はどんな存在か、となかばうんざりしながら顔を向けると、ここに来て初めて、私は迎えるべき感情により目を丸くした。




