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「次はのりツッコミです。知ってますか?のりツッコミ」
警備員はまたしても訊いてきたが、私の返事を待たず、さらに喋り続けた。
「まず私が『あなたの名前が燃えていますよ』と言います。そのあと、こう言ってください。『そんな、警備員さん、名前が燃えるわけないじゃないですか』と。そして、言い終わらないうちに振り返り、びっくりしながら『って、燃えてる!』とおっしゃってください。驚き加減は、おおげさなくらいがいいです。たけし軍団くらい、わざとらしい驚き方がベストです。それでは参りましょう」
言い終わると警備員はいかにも満足した様子で、聴衆に向き直った。そして、炎の音しか聞こえなくなる静寂を迎えてから、再び口を開いた。
「ところで、あなたの名前が燃えていますよ」
私はあんぐりと口を開けたまま、警備服の男を眺めた。
「警備員さん…」そこまで言ってから当然、続けるかどうかためらった。言われたセリフを覚えているかどうかについて、意識すらしなかった。
「ダメダメ」警備員は私の挙動を見て、落胆を全面に出しながら、両手をだらんと下げた。
「こういうことはテンポが大事です。間を軽んじてはいけません。いくら笑いをとる要素が揃ったとしても、間が悪ければ台なしです。わかりますか?もっと、お客さんを意識してください。あなたのパフォーマンスによってお客さんがどう感じるか、常にそれを意識しないとダメですよ。もう一回いきます」
それでは改めて、と聴衆に軽く詫びたあと、警備員は制服のそでをまくった。もちろん、あのクッキーのふたをまだ大事そうに持っている。
「あなたの名前が燃えていますよ」警備員の声に、先ほどと比べ、やや強い響きがこめられている。
「警備員さん」それまでの流れを受け入れる気持ちなど全くなかった。しかし例えば、ウェブサイトで「次へ」を押さないと先へ進めない、そんな場面に似ているとも感じ始めた。そのため、強烈な不本意を抱えつつも、教わったセリフを口にすることにした。
「…そんなわけないじゃないですか」それから、のらりくらりと振り返り、「…燃えてる」
「る」を言ったあたりで、また、がんっ、と、ヘルメット越しに鉄の衝撃が走った。そしてすぐあとに、もはや聞き慣れた聴衆の舐めきった笑い声。それに今度は、まとまった拍手も入り混じっている。
一体俺は何をやらされているのか、と誰にもわからない問いが頭のなかを駆け巡った。警備員は聴衆と同じくして、あははっ!あははっ!とあごが外れるのでは、と思わすほど笑い続けている。
「お前たち、やめるんだ」突然声がして、場は水をかぶるごとく静まり返った。
見ると、筋骨たくましい金髪の白人が腕組みしながら、聴衆と警備員を交互ににらみつけていた。
「俺は外国人だ」
男は国籍こそ明かさないものの、腕の毛まで金であり、見るからにコーカソイドである。外国人は顔からにじむ不快感を隠さず、そして全くひるむことなく、その場で言葉を並べ始めた。
「お前たちがやっているのは、いじめに他ならない。日本にはツッコミといって、人の頭を叩いて笑いを起こそうとする文化があるらしいな。全くの論外だ。人の頭には神が宿っていることを知らないのか。神を叩き、そしてバカ笑いするなどということは冒涜でしかない。お前たちはそろそろ、自分たちの愚かさに気づいたほうがいい」




