表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/13

2-5

 上映の強制終了後、私の視界は再び広場の幅ほどに広がった。


 風?


 今度はなんだ、とさらに違和感の方に向け目を細めた。


 空よりも低い、噴水の上あたりで、小石や枯れ枝が(ぐん)をなして宙を舞っている。それらが斜め下、横、真上、と向きを変えるたび、内臓をくすぐられる感覚がせり上がってくる。


 ちがう、風じゃない。重力だ。


 重力の風と呼んでいいものなら、それがそこにある。重力下では重いものも軽いものも、一律にその影響を受ける。空間の各所ででたらめに向きを変える重力が、そこらじゅうのものを翻弄(ほんろう)しているのである。


 本来、ここまでの出来事だけでも言葉をなくすのに十分だが、やがて、それらさえ記憶の外に追いやるほどの光景が飛び込んできた。


 デパートらしい建物、広場を渡った先の、街路を大きく占める集合的な建造物。その屋上にアドバルーンが一つ、縦長の広告幕を(したが)えつつ、なびいている。ゆらゆらと動いている原因が風か、重力の風かは、この際どうでもいい。


 その幕に自分の名が書かれ、燃やされている。


「何」

 私は思わず駆け出し、もちろん、恥知らずにもはかりごとをめぐらすその巣窟(そうくつ)へと向かっていった。


「あんた、そこにつかまんな」

 ちょうど広場を抜けようとするとき、女性の声で呼びとめられた。「キヲスク」と(めい)打たれた小ぶりな商店のレジ奥で、パートらしい女性が射抜くような目線を私に向けていた。


「危ないよ。早くそこにつかまんな」

 何の策略で満ちているのかわからない、ふざけたデパートに向かう途中、当然ながら頭は混乱していた。その中で、女性の確信的で動じない物腰が、私の脚を止めさせ、さらに冷静な選択をも与えてくれた。


 女性はその場で、店の脇に設置された、ステンレス製のU字ガードを指さしていた。私は走る勢いそのまま、わけもわからずその車止めらしい物体を両手でつかんだ。


 その途端。


 一気に世界が逆向きになった。体が空に向かって持ち上がり、さらに、ぴんと張る感覚が両腕を走った。手を離してはならないことだけは、反射的にわかった。周囲の状況など気にする余裕はなかった。時間にして一秒もなかったのだろうが、血流、思考、その他自分にまつわる全てが、真逆で苛烈(かれつ)なる変化の餌食(えじき)となった。


 すぐに「世界の向き」は元に戻り、それを予測できなかった私は、頭をもろにU字ガードにぶつけた。これは、鉄製遊具の上で逆立ちをし、そこから両腕の力を抜くときと同じ衝撃、と言っていい。幸運にも頭蓋骨は割れなかったようだが、当分頭皮に触れないほどの(こぶ)が一つできあがった。


「痛ってえ」

 ズボンの汚れも気にせず地べたに座り、患部に手をあてがおうとした。すると、それが早いか、周りでばらばらと物が降ってきて、無意味とはわかりつつも首を引っ込めた。音がやみ、改めて見渡すと、落ちてきたのが雑誌やら飲み物やら、そこの「キヲスク」で売られているものだとわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ