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2-6

 私は立ち上がりながら、もう一度、売店の女性を見た。目線には、すがるような想いを込めていたかもしれない。しかし女性は、私にも散らばった商品にも目をくれず、ただレジ奥のせまい場所を占め続けていた。


 デパートの周囲には誰もおらず、ここも限界的な廃墟として打ち捨てられているように見える。ただし、斜めにひびの入ったガラス扉の向こうに明かりがついていて、どうやら入れそうではあった。

 二重構造の入り口スペースを抜けると(内側の扉は割れていない)、また女性の声でアナウンスが始まった。


「お客様が来店されました。モロゾフでも何でもいいので、クッキーの缶を事務室まで持ってきてください。繰り返します。お客様が来店されました・・・・・・」


 ぶつっ、と雑に放送が切られたあと、漏れ出るガスのようにして静けさが館内を満たした。一階では、欲しくならないキャラクターグッズ、ノーブランドのキャリーケース、ドラッグストアが主に目についた。しかし、そこにも客、従業員の姿はなく、売り物は何の警戒感もなく放置されている。


 右手奥には洋菓子売り場もある、とここまで観察したところで、私は思い出した。


 屋上で、俺の名前が燃やされている。


 デパートにはおよそ不釣り合いな静寂に、自分の足音、かかとと床の衝突音だけが一定のリズムで鳴り響く。天井からぶら下がる案内に沿い、上へ行くエスカレーターを探すと、これは動いている。無人でも動き続けるエスカレーターは都内にもあるな、と思いつつ、その不採算な機械に足を乗せた。


「エスカレーターから身を乗り出すと、大変危険です」

 二階にはこぎれいな珈琲店が入っているが、やはり人の気配はない。


「エスカレーターから身を乗り出すと、天井と手すりがつくる、あの鋭角部分にあなたの体が食い込んでいきます」

 三階には家具の量販店。一フロア全体に出店しているようだが、ここも商品だけが整然と並んでいる。


「機械は、あなたが思っている以上に無慈悲です。機械は待ってくれません。あなたたちが便利さに甘んじれば甘んじるだけ、機械は進化し、そしてときに牙をむきます」

 四階にはCDショップ。誰もいない店内に貼られたアイドルのポスターが華やかである分、むなしさが余計に感じられる。


「あなたが鋭角部分にはさまったあとも、機械はそれまでと同じ速さであなたを押し込もうとしてきます。くれぐれも注意を切らさないよう、お願い申し上げます」

 五階の飲食フロアでようやく人の姿が見られた。フロア脇の太い階段に、数人規模ではあるが、少しずつ人が流れていく。


 イタリアンレストランの店先に水槽が置かれていて、そこに入れられたロブスターが、ばしゃっ、と水しぶきを上げた。それに一瞬気を取られたとき、背後から男に声をかけられた。

「私は警備員です」


 弾かれたように振り返ると、青い制服に眼鏡をかけた男がすぐ近くに立っていた。手には黄色いヘルメットを持ち、楽しみな漫画雑誌でも見るように、私と目を合わせている。


 西松ではない。男の頭からつま先まで見ることで、私はまずそれを確かめた。警備員を名乗る男は、どちらかというと瘦せぎすで、指導的な立場にはいそうにない。しかし、今にも人を(もてあそ)ぼうとする不遜(ふそん)な笑みは、あの店長の特徴と深く結びついているように思えた。

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