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2-4

 再びホームで首を振り向けても、出口は見当たらなかった。線路を挟んだ向こう側には、真っ黒い葉の木々が林と呼べるほどに(そび)えている。

 背後では、足元の朽ちたコンクリートと同じ素材の柵がホームと外とを(へだ)てている。そこに幾本(いくほん)ものツタが育つにまかせて絡みついているが、それらはもれなく枯れていて、(さわ)れないほどの汚らしい印象はなかった。


 仕方がないので、私は柵に足をかけ、そのまま乗り越えた。思った通り、警報の(たぐい)は鳴らず、無賃乗車(?)をとがめる者も現れなかった。柵の突端(とったん)をまたぐ際、スラックスの内側がこすれたが、繊維に少し跡が残っただけで、(やぶ)けはしなかった。


 わずかではあるが人心地ついた気がして、駅前の広場らしい場所で様子(向こうの出方?)をうかがうことにした。


 数歩先の噴水はとっくに機能を失ったらしく、ところどころ(こけ)むしている。それを中心に広がる敷石はデザイン性を感じさせるものの、隙間には砂利(じゃり)がたまっていて、やはり風化を隠しきれずにいる。頭上は、鉛筆でぐちゃぐちゃにひいたような雲で覆われていて、少なくとも、昼食でも広げたくなるのどかな印象は、ない。


「下の娘が」男の声がし、その方向に視線がつられた。


 広場の向こうに大型スクリーンが設置されていて、そこに白髪で背広姿の男が映し出されている。落ち着いていて教養が深そうではあるが、やはりこの男も、世間の(とげ)を長年かいくぐってきたためか、疲れ果てた印象をぬぐい切れていない。画面下には、九十年代のホームビデオにある雑なフォントで、「市長」とだけ表示されている。


 あふれ出んばかりの不満を押し殺すような声で、市長を名乗る男の独白が始まった。

「下の娘が口をきいてくれません。私は間違いなく、子供が生まれたときから、十分な愛情を注いできました。娘が駄菓子屋で万引きをしてきたときは、頬を張ってやり、さらに、そこがリビングであるにもかかわらず、バケツいっぱいの水をぶっかけてやりました。私は常に、正しいことは正しい、悪いことは悪い、と、事あるごとに(さと)してやりました。どこの馬の骨かわからない男のバイクで朝帰りしたときは、クローゼットの服、タンスの下着、全てを道路に放り出し、『お前は二度と帰ってくるな』と、厳しい言葉をかけてあげました。なぜ娘は、厳しくも深い親の愛に気づいてくれないのでしょうか。一体、どうしてなのでしょうか。私の何が間違っているというのでしょう。私は常に正しく、間違っているのは子供の方です。責任は全て娘にあります。ああ、思い出すだけで腹がたってきました。今まで子育てにかけた金、時間、そして親の苦労は一体なんだったのでしょうか。下の娘からの無視という結末のために、今まで精一杯仕事にはげんできたのであれば、これほどやり切れないことは他にないじゃありませんか」


 がたん、と突然スクリーンが落下し、前面から地面に激突した。LEDか何かわからないが、きっとディスプレイは粉々にくだけただろう。裏側を見せながら伏せたスクリーンは作動を止め、それから市長の「訴え」も聞こえなくなった。

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