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第2話 出会い

 

  今日は不運な日である事が占いで決まっていた。


 亜空間の中で目を覚ました湊は、昨日出した結論に対しため息をつくしか無かった。この体になってから、食事は要らず、汗も掻かず、排泄をする必要が無くなってしまった。食費、水道費、電気代。貯金が無いため、これらのコストを支払わずに己の力の源である神力を維持さえ出来れば、人間であった頃の暮らしは維持出来ることは湊にとって救いではあった。だが、それは同時に自分が化け物であると認めざるを得なかった。

 

 九星気学(生年月日、干支、五行を組み合わせた占術)を使い、これまで最悪の状況から身を逸らしてきた湊であったが今日という日ばかりは流石に看過することは出来なかった。


 昔の自分の部屋をまねただけの空間に、自分を慰めてくれる者は居ない。覚悟を決めてカレンダーを取り出した。


 基本的にこの術は自分が居る位置を拠点に方位の吉凶を占う。自らの住居を亜空間とし、正確な座標を理解した上で人目を避けている身としては自分に都合の良い場所など選び放題のはずであった。位置情報の捜索を防ぐ為に携帯は持っていない。完全に自分の力だけで行っている事だった。


 しかし、この日は何処に行っても吉と出ることは無かった。実力不足と言うには不可解すぎるこの現象。


 「まさか、人もしくは物質を媒介にした式神などを使い監視の手を伸ばしているんじゃないだろうな」


 思いついた仮説を口に出してみる。人の意識はそのままに、式神などを取り付けて情報を集める方法。もしくは何かを操る術式でその影響なのか。漫画にそんな事があったようなはずだが・・・。


 「どうしたもんかな」

 

 いつものことのように橫の本棚に目を向ける。いつの日か買って貰った漫画本や小説などがズラリと並び、それらに安心感を覚える。


 こんな時、俺が好きなキャラクター達はどうしていただろうか。俺が勝手に尊敬し、勝手に真似をしている人達。憧れはあった。それでも、自分自身という存在は中心に据えたまま、俺は俺として成長して行かなければならない。たとえ世界が俺を悪と呼ぼうが、俺はあ(・)の(・)時(・)生きると決めたのだ。


 「ようし、切り替え切り替え!!!」


 いつも通りのやる気の出し方。パンパンと頬を掌で叩き、声をだして、無理矢理でも自分を良い方へと向ける。一喜一憂している暇は無かった。


 いっそ、このまま外に出てしまうのも良いかもな・・・。この空間にいても、何も変わらない。逆に相手が変化している時に攻め込むしか勝ち筋は見えなかった。


 そもそも、湊は陰陽師では無い。安倍晴明のように人から神になった事例を探し、追い求めていくうちにたまたま造詣が深まっただけの事だ。九星気学の腕も人並みよりは出来るようになったかもしれないが、退魔師《エクソサイザー》に所属している陰陽師達にはまだまだ及ばないだろう。神様の力を振るうのが怖くて人(・)の(・)力(・)に頼り続けてきたツケが回ってきたのかもしれない。日常生活に使う分は問題なく出来るのだが、戦う心構えがまだ力に追いついて居なかったのだ。それでも、決戦は避けられない事は湊が一番良く分かっていた。


 「目を逸らすのはもう止めだ。今度はこっちから責めてやる」


 力を完璧に扱えたあ(・)の(・)時(・)のように、もう一度自分を鍛えるしか道は無かった。自分の味方は、自分しかいないのだから。


 座標を頭の中に浮かべ、出る場所を指定する。万が一出口を見られれば、入られる可能性も否めない。イメージは、急に人が現れた感じだ。隠形と併用しつつ、外に現れる。結論から言うと、外出には成功した。服装も悪くは無かったのではと思う。ただ、最大の不(・)運(・)であったのは、そこに宮(・)野(・)睦(・)がいたと言うことであった。


 「今回ばかりはこの能力に感謝だわ」


 エッヘンと胸を張った彼女とは対照的に、湊はげんなりしていた。思春期の男子には目に毒と言える黄金比の肉体。男女関係なく、見たら人生を狂わされそうだ。病(・)院(・)に居た頃に聞いた事がある。悪魔に呪われた少女。父親が神父で、境遇について教会ともかなり揉めたらしいが、今こうして居場所を見つけ、暮らせているらしい。


 人工的な手を加えられた俺とは違い、間接的な人の手はあれど、彼女は天然物の存在。生まれ持った力によって彼女自身の成長では無く、能力に見合った成長が為された。この美しい体もその副産物であろう。


 「俺が何をしたって言うんですか。こんな真っ昼間から公園でアイスを食べてる不良女子高生に何かを言われる筋合いはありません」


 「きょ、今日は午前授業だったのよ…!!!第一、学校に行ってないあなたに言われたく有りません!!!」


 言ってから数秒経って、ハッと彼女の顔は青ざめた。

 

 「ご、ごめんなさい。無神経だったわ」


 「ねぇ、今の数学の単元は何処だい?」


 「え?」

 

 彼女は何を聞かれたのか分からないと言った表情をしている。


 「数学の単元。今は何処やってるの?」


 「わ、私は数と式だけど」


 まあ、入学してすぐだしそうだろうな・・・。同い年である事を言わずに湊はこう言った。

 

 「俺はlog(対数)をやってるぞ。やる気があればそんなの関係ないから気にするな。ほら、先程の失言はお詫びのデートで手打ちと言うことにしといてあげますから」


 「あなたって馬鹿なの?」


 上擦った声で、彼女は半ば反射的に答えた。 


 「うん?」


 「仮にも敵なんですよ!!そんな人に対してデートしようなんて言えますか」


 「彼を知り己を知れば百戦殆からず。おまけに、君が昨日心の中で俺の事知りたいって言ってたの聞こえてたので、丁度良いかなと思いまして」


 湊は悪びれもせず言った。


 十秒ほど沈黙が場を支配した。


 「あなたって人の心が読めるの・・・?」


 恐る恐る少女が聞いてくる。


 「仮にも神と言われてるからね。君も出来るでしょ、本部から色仕掛けを命令された宮坂睦さん?」


 「はううっ!!!」


 可愛らしい悲鳴を上げられたが、湊は気にした様子も無く話を続けた。


 「まったく、君本来の成長では無く、能力によって定められた成長の仕方だったとしても俺は君の事を笑わないよ。だから早く制服デートしよう?」


 「み、湊君・・・。って制服!?」


 いつの間にか制服に着替えている湊に対して、睦は開いた口が塞がらなかった。


 「そんなに可笑しいかい?俺は夢だったんだけど、制服デート」


 はぁ、と呆れられた表情で彼女は此方を見てくる。


 「仕方ないですね。私が今日一日あなたを監視してあげます」


 「こちらこそよろしく頼むよ。美少女に見つめられるのは僕も嬉しいからね」


 「僕?」


 「ああ、何でもない。さあ、行こう。早くしないと君の奢りにしちゃうぞ」


 「食べることが前提なのね・・・。って、湊君?お金は?」


 恐る恐る彼女が聞いてくる。そんな質問にはこう返すほか無い。


 「有るわけ無いでしょう?僕に盗みを働けって言うんですか?」


 察して下さい、とばかりにウインクを彼女にしてみせる。


 この後、睦の所持金はゼロになった。いや、ゼロにしてやったというのが本当のところか。


 「いやー、こんな美味しい店を知って居るなんて君もなかなか罪な女性だね」


 満腹でもさほど膨らんでるようには見えないお腹をさすりながら、湊は睦に誘われるがままある目的地へと向かっていた。


 「ねぇ、湊君。あなたを殺す前に聞いておきたいことが有るのだけど」


 目的地に着いた頃には、いつの間にか夜になっていた。暗いトーンの声が雰囲気によく似合っている。


 「あなたのオアシスって何処?」


 本気の目だった。わざわざこんな水溜まりが残って居る路地裏に誘い込んだ時点でする事では無いだろう。それでも、昨日の彼女の心情を考えれば、答えないわけにもいかなかった。


 「心だよ」


 全てを話す必要は無かった。それでも、この誘いに乗せられてみよう思った。ここで力を取り戻せなきゃ、あ(・)の(・)時(・)の約束の意味が無いのだから。

 

 「今からたった数ヶ月前、神を作るのに難航していたカオスルミナスは、科学一辺倒の研究から魔術の方へとシフトした。神を一言で表せば、”矛盾の体現者”。この世に実態が存在すれば世の理が全てひっくり返る。でも、存在しているよね。例えば、心の中、もしくは物語や宗教団体として。全知全能の神だって居るさ。でも、存在してしまえば確実に物理法則からは逃げられない。だけど、存在は出来ることにヤツらは気付いた。パラドックスだよ。早速アイツらは次のフェーズに入った。息の掛かった病院を会場とした、新薬とは名ばかりの子供を対象にした治験を催し、丁度良いと親に売られたのも同然の子供達、俺の様な未来に希望を失い、自らの決断で選択した子供達、彼ら被検体全員分の命を使って僕は人造神になった。」


 彼女は何も言わず、じっとこちらの話に耳を傾けている。


 「まさか、子供達全員、病院があのような事をしているとは夢にも思わなかっただろう。全(・)て(・)を(・)救(・)え(・)る(・)は(・)ず(・)の(・)神(・)が(・)犠(・)牲(・)を(・)伴(・)う(・)こ(・)と(・)で(・)こ(・)の(・)世(・)に(・)存(・)在(・)を(・)許(・)さ(・)れ(・)た(・)、ということで実験は終了した。皮肉が過ぎるよ。その後は、物質の構成元素を変質する、簡単に言うと砂を金に変えるといった事を強制されていた。彼らは、資金源が欲しかったんだろうね。そして、隙を見て抵抗してみたりもした。それとは裏腹に、俺(・)は(・)喜(・)ん(・)で(・)し(・)ま(・)っ(・)て(・)も(・)い(・)た(・)。自分が夢見ていた事が現実に起きていると!!誰かの為に力を振るう事が出来ると!!でも、この力は俺だけの物では無かったはずだ。死んでいったアイツらと引き換えにして得た力のはずだ。自分が何を考えていたのか恐ろしかった。高揚感と罪悪感がぐちゃぐちゃになって、もうどうすれば良いか分からなかった。思春期特有のセンチメンタルさに当てられたなんて言われても否定はしないさ。それでも俺は生きると決めたんだから、睦さん」


 じっと、睦さんを見つめる。終わりを肌が敏感に感じ取っている。


 「その後は、退魔師《エクソサイザー》達が事態を嗅ぎつけて突入した際に逃げ出して、といった感じですよ。これからも罪悪感に苛まれようが、それだけは譲れない。死んでいったアイツらと約束した、アイツらがいたから俺は死なずに済んだことを俺は忘れる訳にはいかないんだよ!!」


 はぁはぁ、と喋り過ぎたのか息が切れそうだ。柄にも無いことをしたなと改めて思う。だが、それに反して気持ち的には少しスッキリしていた。


 「ご苦労様。自分語りはもう良いかしら?」


 突き放すような言葉。彼女の目に光は宿っては居ない。だが、心の揺らぎだけは確かに感じ取れた。


 「ああ。また明日」


 彼女の闇に呼応するかのように、殺気を放った。


 それと並行して、円環の盾(アニュラス・エンド)をノーモーションで繰り出す。


 刹那、足下の水溜まりから細く鋭さを増した水がバリアごと湊の体を貫いた。


 




 

 

 


 


 


 

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