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第13話 ツキ

 方位の悪影響を乗り越えるためには、きちんとした実力が伴っていなければならない。


 湊は早朝の教室で体操着に着替えたのち、赤いハチマキを頭に固く結んだ。


 「最悪を乗り越えるために、俺は一億年を過ごしてきたんだろ」


 自信をつけるには、まずは積み重ねから。一億年は湊にとって自信をつけるのには十分な期間であった。


 それは、クラスメイト達も同じ。彼らも一か月間体育祭のために練習を積み重ねてきた。それを、踏みにじらせるわけにはいかない。


 年盤と月盤、そして全校生徒一人一人の出生地と生年月日を組み合わせ、運の風向きがどれほどのものかを確認する。


 「これは…」


 正直、ここまでとは思っていなかった。だが、やる以外道はない。責任の所在は俺にある。


 「湊くん、おはよう!!」


 後ろのドアから、ボブヘアの可愛らしい少女が挨拶をしてきた。


 「麗奈さん、おはようございます」


 「うーん。湊君は元気がないですなー。それもそうか、今から皆さんを守らなくちゃいけませんものね?」


 「そうだね」


 「あれ?一般人の私に正体を見破られて、驚いたりしないんですか?」


 「自称一般人ほど怖いものはないからね」


 「そうですか」


 彼女が次に言う言葉は分かっていた。


 「湊くん。私はあなたが嫌いです」


 「では、体育祭マジックでそれを変えて御覧に入れましょう」


 「学生にしか通じない魔法やめてくださーい」


 彼女はノリがとにかく良かった。


 「自分の感情とは裏腹の行動ができるなんて、やるね」


 湊はただただ感心していた。


 「一応聞いておくけど、俺のことが嫌いな理由は?」


 「あなたのせいで、より多くに人に迷惑が掛かるから」


 「先生と同じか…」


 こっそりカマを掛けてみる。


 「えっ?」


 彼女の本心は読み取らない。


 「大丈夫だよ。俺は負けないから」


 その後の体育祭で、湊は出場した種目全てにおいて全敗した。


 「あははは、どんまい、どんまい!!!」


 閉会式までの休憩時間というところで麗奈に思いっきり肩を叩かれた。


 ちなみに、その様子は睦達と颯真がばっちり見ていた。


 「な、なによ。湊の奴、せっかく私がいるのに、麗奈ちゃんばっかり。はっ!!もしかして、私もボブカットにすれば良いのでは!?」


 「お前がすると彼女との区別がつかなくなるから止めろ。そして、あいつは別にふざけちゃなんかいねぇ。だろ、颯真」


 「うん。勝負に全力を出さなかったのは悔しいけど、何か理由があるはずだ。たぶん、それは麗奈さんと何か関係があるのかもしれない」


 「そうだね」


 「「「!!!」」」


 まさか返答が帰って来るとは彼らは思いもしなかった。


 三人は一目散に逃げようとしたが、湊の結界術によって阻まれた。


 「それで、麗奈さんはこの三人については何か知っているかい?」


 たんこぶを頭に携えた3人は、湊の前に連れてこられていた。


 「まあ、退魔師(エクソサイザー)と見えざるものが見える人っていうことぐらいしか分からないわ」


 「上出来。彼らは、僕に協力してくれている貴重な存在でね。危害は加えないで欲しいんだ」


 「何それ。もしかして私がそんなに強く見えたの?」


 「ああ。君は強い。だから、頼むよ。怒りは、俺だけに向けてくれ」


 「それは」


 湊は珍しく相手の声を遮った。


 「今日、俺が試合で負けたのはこれが最悪に勝つために必要なことだからだ。俺が、生(・)物(・)と(・)し(・)て(・)の(・)本気出していいのはここじゃない。俺のせいで、体育祭をぶち壊してはいけない」


 でも、と湊はつづける。


 「どうせなら、見てもらおうか。俺の本気を─────。颯真、睦、高坂。閉会式は任せた」


 麗奈をお姫様抱っこしつつ、湊は上空へと駆け上がる。もちろん、隠形も添えてだが。


 「きゃああああっ!!!」


 どうやら生身で空を飛ぶのは初めてらしい。


 「大丈夫。君は強い人だ」


 「何を!!っていうか、離してよ!!」


 「いえ、そういうわけにはいきません。俺を嫌いになるのなら、表面的ではなく内面を見たうえで嫌いになってもらわないと困ります。あなたが、そうする理由を俺はあなたの目で見てほしい」


 「何で、何で私なのよ…。私はただ、あなたを噂で知ったに過ぎないクチだわ」


 「あなたとはクラスメイトだ。何かあったらじゃ遅い」


 「何それ、先生にもそんなこと言ったの?」


 「ええ、それぐらい言えなくて神が務まりましょうか?」


 付きましたよ。そう言って彼は私のことを空中に下ろした。


 「結界を張っているので大丈夫です。それより、見ていてください。敵が来ますよ」


 それは人の形をしていた。


 「何、あれ」


 初めて見る存在に、足がすくんで動かない。


 「あれは、俺に対する世界中の悪意を集めたものです。恐らく、あなたも少しは入っているでしょう」


 大方、カオスルミナスが仕組んだものだろう。


 「GAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」


 「どうして?どうしてこんなのを見せたのよ!!!あなたは、私が悪者だって言いたいわけ!?」


 彼女はすっかり腰を抜かしていた。


 「正直に言うと、俺はあなたを利用しました。それはごめんなさい」


 ドンドンと、側面にも展開された結界を化け物は叩く。


 違う。本当はこういうことを言いたい訳ではない。ただ、彼は私にこの世界の一端を見せてくれただけなのに。


 「大丈夫です。あなたに出会えたことが、俺の勝ち筋になりますから」


 彼は、私に笑顔を見せると敵を結界から蹴飛ばした。


 5メートルほど行ったあたりで、その化け物は態勢を整えた。


 そうすると彼は何もないところから刀を取り出し、胸の前で構えた。


 綺麗な構え…。並大抵の練習では、身につかないものだ。彼はいったいどれほどの鍛錬を積んできたのだろう…?


 「行くぞ、相棒。忘却の刹那(ロスト・モメンタム)」


 だが、世界は停止しなかった。


 湊の中ではもはや十八番と化した忘却の刹那(ロスト・モメンタム)だが、この力はただ一瞬を支配するだけではない。


 白亜の鍵から得た情報で、次の段階へと移行していた。


 「フェーズ2」


 神凪が青白い光を纏い、その力をものにしている。


 「GUU...」


 勢いそのままに距離を詰めるが、間一髪で躱される。


 それで良い。殺すには、切っ先三寸。それで充分だ。

 

 「断」


 あえて何もないところで剣を振るう。放たれた斬撃は、止まった時を破壊する。


 「ウギッ!?」


 「終わりだ」


 神力を用いた高速移動で相手の後ろに回り込むと、必殺の一撃を叩き込む。


 「神話崩壊(ジ・エンド)」


 剣戟とは別に、湊はまだ辛うじて形を保っている空間の中で天変地異を発生させた。


 雷鳴が轟、雨は絶えず降りかかる。山は噴火し、生き物達は一瞬で絶滅しする


 忘却の刹那(ロスト・モメンタム)は任意で解除ができる。そのため、内部で起こった事象に対しても、湊が手を加えれば無効化できる。


 彼はそのようにして、湊は睦達を生き返らせた。


 では、何もしなければどうなるのだろうか。


 『断』による枠組みとしての崩壊と、『神話崩壊(ジ・エンド)』による事象の崩壊。それらの対消滅によって、湊が支配していた空間内部での事象は全て無に帰した。


 影響を受けたのは、忘却の刹那(ロスト・モメンタム)を纏って神凪に切られた相手のみだった。


 そして、世界は動き出す。湊は、呆然としている彼女に駆け寄った。


 「麗奈さん。あなたのおかげで勝てました」


 「来ないで!!あんな力を持っているあなたが、私のおかげなんてありえない!!!」


 「いいえ。あなたのおかげです。俺は、あなたの運のおかげで勝てたんです」


 「運?それじゃあ、朝、私が話しかけてきたのも偶然だったというの?」


 「いえ。ただ、あなたが話しかけてくるならこのタイミングだと思い、準備を進めていただけですよ」


 湊は笑顔でそんなことを言う。


 「何それ!!それじゃあさっきのお姫様抱っこにも理由があるというの?」


 「ええ。今日のあなたは九星術でいう天道、いわゆるバフ状態のようなものでしたからね。朝からあなたと話したり、触れたりすることで、俺の運の悪さを軽減してもらったのですよ。おかげで、周りに被害が出なくて済みました。ありがとうございます」


 「そ、そうなの」


 なにやら凄い話だ。彼は、本当に心の底から感謝している。逆に私のほうが怖気づいてしまった。


 突如、ワーッと歓声が学校のほうから聞こえてきた。


 「どうやら結果が出たみたいですね。急ぎましょう。もし優勝してたら、俺の景品麗奈さんにあげますから」


 そういって彼は許可も取らずに私をお姫様抱っこした。


 「麗奈。さんはいらない」


 カーッと顔が熱くなる。こんな状況で言うべきことなのか分からなかったが、その時の私は熱に浮かされたのだろう。


 彼はボカンとした表情を浮かべていたが、すぐににこやかな笑みを浮かべ始めた。


 「じゃあ、麗奈。俺が責任をもってエスコートするから」


 たぶん、私はこの時に見た景色を忘れないだろう。














 「湊!!!」


 こっそり赤組の列に紛れ込むと、颯真が明らかに興奮した様子で話しかけてきた。


 「どうしたんだ?」


 「ああ、その様子だとやるべきことは終わったんだね…。じゃなくて、優勝だよ、優勝!!!」


 「え?」


 「よかったなぁ~。これが本当のハッピーエンドって訳だ」


 ウオオオオオオオオオオッ、と僕らのクラスの委員長が壇上で勝鬨を上げる。


 確かに、これは運が悪いなと湊は心の中でぼやいた。












 

 

 


 




 

 


 



 

 


 



 


 





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