20、紳士及び淑女の夜会服は鎧である
オシアンとエズメ、そしてマグナスは、ヒルダに充てがわれた部屋で、招待状を出した相手の名簿を見ながら作戦会議を練った。
敵の正体が分からない以上、アデレード嬢から目を離さず、しかも再びアデレード嬢に魔法を使いたくなる状況に追い込む必要がある。
「まずは私がエズメをエスコートして入場するでしょう、それから一度、アデレード嬢にダンスを申し込むわ。私なら男性パートも踊れるし、アデレード嬢を守りながら、魔法を感知出来るもの」
マグナスがそう言って胸を叩いて見せた。
「それにしてもマギー、貴女、夜会服はどうするの?」
エズメがそう尋ねると、マグナスはうんざりした顔で肩を竦めた。
「きちんと持って来たわ。毎年のように実家の母が送り付けて来る夜会服が、やっと役に立つというわけよ。運悪く男の身体で生まれて来たせいで、趣味に合わない物を着なきゃならないのは辛いけれど、まぁ、ヒルダのような男装の麗人を気取るのも、たまには良いでしょ」
それを聞いたオシアンが、こう提案した。
「もしその夜会服をすぐに見せてもらえるのなら、我が城の者たちに頼んで手直しさせよう」
「まぁ、よろしいのですか。ありがとう存じます」
マグナスの華やいだ声に、オシアンはこう返した。
「紳士であろうと淑女であろうと、衣装は夜会における鎧。不備があってはならぬものだからね」
* *
夜会当日。オシアンの妹のミュリエルが、三人分の衣装を携え、人間の姿でやって来た。
「あれ、アルは?」
ヒルダがミュリエルの息子の一歳のアーセンがいないことに気付き、少し残念そうな顔をした。
「アルは乳母に預けて来ましたの。淑女方のお召し物を汚したら大変ですもの」
そう言ってミュリエルはころころと笑い、魔法でヒルダとエズメにドレスの着付けをすると、さっと二人の髪を結った。
「ヒルダ様は結い上げてしまってよろしかったでしょうか。エズメはハーフアップにしましょうね」
ミュリエルは結い上げたヒルダの赤い髪に天然真珠のコームを飾った。次いでエズメの髪はサイドを編み込んだハーフアップにすると、ドレスと同じ色のベルベットのリボンを飾った。
「軽くメイクもしますね。夜寝るまで絶対に崩れない魔法をかけておきましょう。……さあ、まずはヒルダ様のお支度が出来ました」
鏡の前で、ヒルダは声と肩を震わせた。
「こんなに綺麗なサーモンピンクのドレスが、自分に合うとは思ってなかった」
ミュリエルが、ふふっと笑った。
「兄の好きな色の一つから選ばせて頂きましたが、よくお似合いですわ」
「そうなのか。そう言えば、ボンボンショコラはサーモンが好きだものな」
ヒルダの言葉を聞いたミュリエルが、エズメにメイクを施しながら囁いた。
――兄様も、まだまだ想いが実る日は遠いみたいね。
エズメはメイク中だというのに思わず笑いそうになった。彼女自身は、バターカップの花のような黄色のドレスに身を包んでいたが、それはミュリエルが選んだ色だった。
「黄色のドレスを着たエズメは、丁寧に研磨した楔石のように輝いて見えるのよね」
「うん、ミュリエルの言う通り、エズメはとても綺麗だ。そのドレスもよく似合ってる」
ヒルダが本当に嬉しそうにそう言うので、エズメはくすぐったくなってしまった。
二人がミュリエルにドアを開けてもらって部屋から出ると、オシアンとマグナスも既にそれぞれ支度を済ませたところだった。
「さあ、レディ、お手をどうぞ」
少し気取ったマグナスの手に自分の手を重ねて、エズメはくすっと笑った。
「どうぞよろしくお願いしますね」
一方、ヒルダは準礼装のオシアンを見て感嘆の声を上げていた。
「うわぁ、やっぱり本当に王様なんだなぁ」
確かにオシアンはサーモンが好きですが、それでサーモンピンクを選んだわけではありません。華やかで、なおかつヒルダの美しさを引き立てる色として選んでいます。




