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エズメ・ロイド教授の回顧録  作者: 書庫裏真朱麻呂
第二章 魅入られた令嬢

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17/17

17、夜会の予定とドレスの手配

 オシアンはこう説明した。

 遥か昔。ある海の女神が妻子ある英雄を手に入れようとして編み出した魔法、それが「死せる海の女神の魔法」だ。対象の記憶を奪い、魔法の使用者に対する偽りの記憶と愛情、そして執着を植え付ける。故にこの魔法は、通常の魅了よりも深く精神を蝕み、最終的には生命力を搾り取って、かけられた者を死に至らしめる。もしヒルダが偶然出会って魔法を解かなければ、アデレード嬢は正気に戻ることなく、ひと月で死に至っていただろう、と。

 そう聞かされても、ミルメコレオ子爵は、まさかそんな、と呟くばかりだった。


「なるほど、『ミルメコレオ』の称号に相応しき者よ」

 オシアンが溜め息をついた。

 ミルメコレオとは、肉食動物であるライオンの頭に吸蜜性のアリの胴体を持つ空想上の生き物のことだ。

 ライオンの頭は肉を求めるが、吸蜜性のアリの胴体では肉を消化することが出来ない。アリの胴体は蜜を求めるが、ライオンの頭では蜜を見つけることも吸うことも出来ない。そのため、最後には餓死する運命にある。

 連合帝国の女帝ブリジット一世は、前グリフィン侯爵の次男ヘンリー・ヴィリアーズという男に、あからさまに悪意ある称号を与えたのだ。おそらくは、貴族にあるまじきその能力の低さを憎んで。

「それはそれとして、おそらく、フォスター団員が魔法を解いたことは、既に向こうにも知れていることだろう。再びアデレード嬢に接触し、同じ魔法をかけてくるに違いない。近々、この屋敷で近隣の貴族を集める催しはあるかね?」

 オシアンの問いに、ミルメコレオ子爵は、喘ぐように答えた。

「……冬至祭りに合わせて、親戚の者たちを中心に夜会を開く予定がございます」

「ならば、我々もしばらくこの屋敷に滞在し、夜会に参加させてもらおう」

 国家元勲ともいうべきオシアン公爵にそう言われては、ミルメコレオ子爵も否とは言えなかった。


 オシアンの交渉の末、三人は同じ棟の二階にそれぞれの部屋を確保することが出来た。

 中央にあるヒルダの部屋で、三人は話し合った。

 まず、オシアンが言った。

「聖騎士団の制服では敵が警戒するだろう。二人の夜会用の衣装は、たった今、我が妹たちに手配を頼んだ。既製品で申し訳ないが、彼女たちに任せれば二人に合うよう手直しをしてもらえるはずだ」

「オシアン公、御心遣いに感謝いたします」

 エズメはすぐに礼を述べたが、ヒルダはどこか浮かぬ顔だった。

「ヒルダ、我が妹のミュリエルは見立て上手で、我が従姉妹のブランウェンは裁縫上手だ、必ずや君に合うドレスを動き易く直してくれるだろう。君の好きな色を教えてくれれば、それも伝えておく」

 オシアンからそう声をかけられたヒルダは、少し慌てた様子で、ぎこちない笑顔を浮かべた。

「……そうだな、それなら黒か緑で」

 オシアンは苦笑した。

「確かにどちらも良い色ではあるが、君にはそれ以外にも似合う色があるのではないかと思う。君さえ良ければ、色は我に決めさせてもらえまいか?」

「……うん、任せる。気遣ってくれてありがとう」

 ヒルダがそう返事をしたので、エズメは内心安堵した。

 ヒルダの髪は赤い。そのため親戚の煩い老婦人たちから常に何かと酷いことを言われ続けたらしく、自分には黒か緑、或いは茶色しか似合わないと思い込んでいるのだ。

 ただ、もしヒルダが「オシアン公爵」のエスコートで夜会に出るなら、連合帝国の貴族たちが暗黙の(うち)に彼の色と定めている黒と緑は避ける必要があった。さもないとオシアンの「女主人(ミストレス)」ではなく、「情人(ミストレス)」だと誤解されかねない。


「ところで本当に、敵は今度の夜会に来るのか?」

 ヒルダがオシアンにそう尋ねた。 

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― 新着の感想 ―
死せる海の女神の魔法って……フレッドが使われていたのともしかして一緒のやつですかね…?? ヒルダがわざとそういう色ばかりを言うのは、親戚達にうるさく言われてたからもあるのですね…(ToT)
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