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エズメ・ロイド教授の回顧録  作者: 書庫裏真朱麻呂
第二章 魅入られた令嬢

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13、北へ向かう夜行列車

新章始めました。

 帝都に戻ったヒルダとエズメは、ドミニク・トーマス第二隊長から、新たな任務を言い渡されたところだった。

「任務後の休暇は?」

 不満を隠そうともしないヒルダに、ドミニクはにべもなく告げた。

「今回の任務は、女性騎士でなければ無理だ。それも二人が望ましい。そして、この第二隊に、女性騎士は二人しかいない。君は、罪のない、うら若き令嬢が悪しき魔物の餌食になるのも構わず、休暇を取りたいと言うのかね?」

 ヒルダの表情が、一瞬にして真剣なものに変わった。彼女は「騎士たる者、か弱きご婦人と子どもを何より優先して救うべきだ」と言い聞かされて育ち、それを自身の信条ともしている。

 それを知っているエズメは、休暇の予定に別れを告げた。ヒルダだけを任務に送り出すなど、危なっかしくて、とても出来やしない。幾らヒルダの使い魔が猫型妖精(ケット・シー)の王だとしてもだ。

「どちらのご令嬢ですか?」

 エズメの問いに、ドミニク・トーマス第二隊長は答えた。

「ミルメコレオ子爵の三番目の御息女、アデレード・ヴィリアーズ嬢だ」


「連合帝国の貴族ってさ、基本的に幻獣だとか聖獣だとかの名前を冠した称号で呼ばれるよな?」

 北に向かう夜行列車の中。ヒルダがそう尋ねると、人間形態のオシアンが頷いた。

「その認識で間違いない。此の度依頼のあったミルメコレオ子爵家は、グリフィン侯爵家の分家。北部連邦東部に領地を持つリオンソー男爵とは同族だ」

「それなら、オシアン公爵は、どうして本人のファーストネームを冠した称号なのか、聞いても良いか?」

 オシアンはこともなげに答えた。

「理由は二つ。当時の(われ)が家名を持たなかったことと、当時の主君からの、『キャスパリーグ公爵』という称号を与えようという提案を断固拒否したからだ」

「それほど、ご不快な名前でしたの?」

 エズメが尋ねると、オシアンは頷いた。

「あれは当時存命だった先代の王の名だ。友誼と信義を重んじる王ではあったが、王国を、特に弱者を顧みない偏狭な暴君でもあった。何かと不都合で、不快な名でしかなかったのだよ」

 そう説明されたヒルダが首を傾げた。

「でもさ、オシアンって家名が必要な時は『マクユーアン』って名乗ってるよな?」

 オシアンは肩を竦めた。

「『ユーアンの息子(マクユーアン)』と名乗っていたら、いつの間にか、それが家名ということになっていた。それで数百年通ってきたのだから、今更変えるのも面倒だ」

「ボンボンショコラでも、面倒だと思うことってあるんだな」

「我も含めて、猫型妖精(ケット・シー)は面倒な事を好まないし、己が欲を満たすことに繋がらぬ行動は、一切しないものだよ」

 ヒルダが目を丸くした。

「意外だな、ボンボンショコラは結構まめな性格だと思ってた」

「それは……。きっとヒルダが我よりも更に、様々な事を億劫がる性格だから、相対的にそう思えるだけなのだろう」

 エズメは、オシアンが何かを言いかけて、すぐにごまかしたことに気付いた。

(はっきりとご自身のお気持ちをお伝えになれば良いのにね)

 とはいえ、エズメが口出しすべきことではない。彼女はコートのポケットからお気に入りの古典詩集を取り出して読み始めた。


 次の日の昼にようやく着いたミルメコレオ子爵領は、静かなところだった。

「残念でしたね。この辺りのホリデーマーケットは来週からなんですよ」

 辻馬車の御者が、素朴そのものの顔でそう言った。

「この辺りのホリデーマーケットは有名なの?」

 エズメがそう尋ねると、御者が胸を張った。

「勿論ですとも、麗しいお嬢様」

 任務後にホリデーマーケットを覗くのも楽しそうだ、と思ったエズメの耳に、突然、女性の金切り声が飛び込んだ。

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― 新着の感想 ―
休暇を取らせないために他の従業員の労働時間を伝えて同調圧力をかけてくる……う、ブラックな職場あるある過ぎて目眩がぁ……。 (´;ω;`) オシアンはヒルダのためならマメになるのも吝かでは無いのでしょ…
休む間もなく新たな任務が!でも、そうやってすぐに切り替えれるヒルダは偉いですね(*^^*) オシアンがまめにしてるのは、愛するヒルダのためだから、ですよね♪
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