46話 一万年の重み
ランスロットが慌ててアリスを追いかけると、アリスは庭のベンチでボ〜っと空を見上げていた。実際アリスは何も考えて居なかった。
「アリス」
「ランスロット様、大丈夫だよ、ちょっとショックだったから、一度は諦めてたんだ、別に良い」
「何もよくはないよ」
「は!?」
「よくは無い、アリスが望むなら、僕は君の望みを全力で応援したい」
「いや、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、こればかりはどうにもならねえんだよ」
「何でそう思うんだい? アリスは強く成りたいんだよね?」
「え!? ・・・・」
「やっぱりそうか、セシリーが多分アリスの望みはそれだろうと」
「お姉様・・・・」
「なら強くなろう」
「でもよ、こんな身体じゃ」
「身体何て関係無い、実際僕は君と、フィーネと暮らしてた時は、君に、フィーネに手も足も出なかったんだから。フィーネは本当に強かったよ」
「俺が!? フィーネが、ランスロット様に勝ってたのか」
「当たり前だよ、だってあの時の僕は単なる人間の一騎士だったんだから。生粋のマーメイドだった君に勝てる訳がない。でも僕はそこから成長を止めた、だから身体的にはそこから一歩も成長はして無いんだよ」
「じゃあどうやってそこまでの強さに」
「一万年、戦い続けたからね、そりゃ戦いには慣れてしまうさ」
「一万年・・・・」
「良いかいアリス、君は僕が捕まえたらそこから抜け出せない」
「ああ、どうやっても抜け出せないよ」
「それは僕が力が有るから、君はそう思ってないかい?」
「違うのかよ?」
「確かに純粋に僕は女性である君より力はある。でもそれは人間の域を超えてない」
「え!? ・・・・」
「ただ押さえつけただけなら、女性でも男性の力から多少は抗う事が出来る」
「ならどうして!?」
「僕は人間がどうやって力を体内から外に出すのか、その全てを理解している。だから先回りをして君の力を全て逃がしているんだよ」
「技量!? って事か」
「そう、アリス、君の闘い方は何方かと言うと、純粋な力で相手をねじ伏せる闘い方だ。確かに人間としては技量もある、でもそれは僕達からすれば、まだまだ力に頼った闘い方だ。今の君にその闘い方は合っていない。もっと技に重心を置くべきだと僕は思う」
全く考えていなかった。俺は様々な格闘技を地球で学んだ。技量だって充分有ると思っていた。
「アリス、僕のここを握ってみて」
「あ、うん」
「次に僕の親指を外側に曲げる」
「あ!? 嘘だろう?」
俺は簡単にランスロット様を転ばせた、全く力は入れていない。
「解る? 僕だってどんなに頑張っても、力の出る源を抑えられたら簡単に転んでしまう」
「こ、これをやっていたのか!!」
「そうだよ、僕は君を捕まえたら、必ず力が出せない様にしていたんだよ」
相手の力を封じる、そう言う事だったのか。
「これはどんな闘い方にだって応用出来る。それに身体強化魔法を混ぜたら?」
「剣や槍を使っても、相手の力を封じられるって事か」
「流石に理解が早いね。剣技で君はモルドレッドに全く勝てない。確かに君の剣技は普通の人間よりも遥かに上手だ。でもそれは型に限られた物であって、相手の戦術に対応した物何だよ。だけどモルドレッドは君に剣技其の物を使わせない様に立ち回っている。つまり君は技其の物を全てモルドレッドに封じられてしまっているんだよ」
何て事だ、俺はそれに今まで気がついていなかったのか!!
「ねえアリス、君が強くなろうとしている事に僕は薄々気がついたいた。だけど僕は君に今より強くなって欲しくなかったんだ」
「何で!?」
「そりゃ君に一筋たりとも絶対に傷ついて欲しくないからだよ、今の綺麗なままの君でいて欲しいからさ」
「うぐ! ・・・なら、何で」
「それよりも、今のそんなアリスの顔を見たくないからさ。何時もの明るい君の笑顔が僕にとっては何よりも大切だからね」
この野郎・・・・変な所で心に刺さる事をサラッと言いやがる・・・・
あ〜あ、全く・・・・こんなんでドキドキするとか、俺は本当に女になっちまったな。まあいいや、俺の旦那様らしいしな。
「う、五月蝿え!! 兎に角やり方を教えやがれ!」
「うん、解ったよ、やっとアリスらしくなった」
畜生、調子狂うな・・・
結局俺はそれから俺に合う闘い方をランスロット様に教えて貰う事にした。だがそれと同時に、俺はランスロット様をどんどん好きになって行ってしまった。
実家から帝国につき、帝都に着く頃には、既に俺は完全な女になっていた。だがそれと同時に、俺は自らの身体の変化に少しずつ気がついていた。
力が出る・・・・
ランスロット様を好きになって行くと同時に、俺の力は上がって行った。これは闘い方を変えたからと言う様な物では無い。純粋なパワーが上がっていた。そして胸が・・・・
ああ、確かにフィーネは爆乳だったな・・・・
俺の胸がみるみる内にデカくなって行く。ケツも少しデカくなった。
女としてどんどん成長して行く自分がいた。確か言ってたっけ、リーザベルト様が、聖女の力は愛だとか何とか。ランスロット様を好きになって行く事で、聖女としての力も上がって行くって事か・・・
アリスは自分の心と身体の変化によって、神聖力だけではなく、聖女としての肉体の本当の仕組みを理解し始めていた。
そしてあの時の女神の言葉を再び思い出していた。
『この後に及んでまだその様なことを言って居るのですか・・・貴方には反省を促す必用が有りますね。良いでしょう、次の転生先では思いきり闘いなさい。それができるのであれぱ、ですが。
もう貴方を許すわけには行きません。なので思う存分闘いなさい。そして反省なさい。貴方は今の記憶を持ったまま転生し、過去の自分の愚かさを猛省するのです』
これが本当の答えかよ、糞女神が。人を愛さないと俺の本当の力は出せないって事か。なら今までみたいに戦えねえじゃねえか。心も身体も本当の女になれって事だろう? 誰かを愛さねえと力が出せないってか!? 糞が!! ふざけやがって!!
だが俺が本当に強くなるには、身も心も女になるしかねえ。だけどそうなれば、今までみたいな俺のやりたいバトルが出来ねえ。
本質的な女性になると言う事は、母性を持つと言う事。それは純粋な女性の本質的な優しさから来る物だと、この時アリスは気が付いていた。だがそれは、人を殴る快感が得られなくなる事を意味していた。
そう、これが女神が与えた本当の意味でのアリスへの試練であった。どれだけ戦おうと、アリスが真の持つ力を出すには、人を愛さなければならない。だが女性にとって、本当に誰かを愛すると言う意味は、母性を強く持つと言う事と同義である。しかし・・・
『それができるのであれぱ、ですが』
女神にはそれが出来ない事を解っていた。特に聖女が真の意味での力を出すならば、それは愛、つまり究極の母性を持たなければいけない。全ての物を慈しみ、そしてそれを守ろうとする力こそがが、聖女本来の力なのだ。
人を殴って快感を覚えるなど、聖女の持つ力とは相反する物である。だからこその、それが出来るので有れば、だったのだ。
「はあ・・・・また妙な事で悩んでそうな顔ですわね」
「お姉様・・・・」
「今度は何を悩んでおりますの?」
「・・・・以前、リーザベルト様から、聖女の力が母性だと言われたんです」
「確かにそうかもしれませんわね」
「俺、その意味がようやく解った気がするんです」
「良い事ではありませんか」
「良い事何ですか!?」
「悪魔王を倒すんですわよね?」
「んが! ・・・・・そ、そうですね・・・」
「ならば良い事では有りませんか」
くそ! あまりのショックにそれを忘れていたぜ!! ルシフェル倒すなら、俺が真の意味での聖女にならねえといけねえじゃねえか!!
「それで? 何で悩んでおりますの?」
「く! み、認めたくはありませんが、その・・・」
「ハッキリ仰りなさい!」
「ぬ! ・・・ランスロット様を好きになりました」
「今まではそうじゃありませんでしたの?」
「いや、それとは違う好きになったって事です」
「今まではどう言う好きでしたの?」
「男として、強いから?」
「つまり、愛してしまったと言うことですわね」
「何で今のだけで解るんですか!?」
「今の話の流れで解らない方がおかしいですわよ!!」
「そ、そうなんですか・・・・」
「だからこその貴女の身体の変化なのですわね、急に母性が目覚めた事で」
「そ、それも解るんですか!?」
「それだけ胸が出れば解らない方が変ですわよ!!」
「そ、そうですね・・・・最近ブラのサイズが一つ大きくなったし・・・・」
「本当に貴女の前世が男だと解りますわね。それで? 身体の変化はそれだけですの?」
「嫌な物が来ました・・・」
「生理ですか」
「それだけで」
「解るのは女性ならば当然です!!」
「そ、そうっすか・・・」
「まあ今更と言うのは遅すぎなのですが」
「本来はもっと早く来るんですか?」
「早い方ならば11〜2歳位で来ますわよ」
「俺って相当遅いですね」
「身体が成長してなかったのですから当然ですわ。貴女の場合は神聖力のコントロールがより出来る様になったから、と言うのが正しいのかもしれませんわね。ならば行きますわよ」
「何処に?」
「エリザベートの部屋に決まっているでは有りませんか。同じ聖女の力を持っているのです」
「確かに・・・」
俺はセシリーと共にエリザベートの部屋に行った。そこにはセリーヌも一緒にいた。
「そう、遂にあのアリスが女になったのね」
「今までも女ですよ!!」
「まあそうなのだけど、それとは違うと言うか、兎に角貴女の中で愛が目覚めたって事ね」
「認めたく無いんだからそうハッキリと言わないでくださいよ。それで、この変化はやっぱり」
「そうよ、貴女が本当の愛に目覚めた事で、身体が急激に女性になっていったの」
「聖女ってやっぱりそう言うもんなんですか?」
「そうね、神聖力って身体にも色々と影響するのよ。貴女はその力を強引に押さえつけていたから、魔力過多による影響だけじゃなくて、自ら力を封じてしまってもいたの。これは師匠からも聞かされていたのだけど」
「なら何で早めに教えてくれなかったんですか!?」
「教えて納得出来た? 貴女は愛する事を覚えれば、今よりもっと強くなるから、早くランスロット陛下を心から愛しなさいって」
「うぬ!? ・・・」
出来ねえ・・・・それは無理だ。
ようやく本当の意味で、女性となったアリスであった。




