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39話 悪魔の教会

壺売りはやめましょう。

 惨気(ざんげ)部屋に中年の男が一人現れた。


「アリス、早速カモ・・ゴホン! 懺悔者が来たわよ」


「じゃあ予定通り頼むぜカノン」


「任せて頂戴、最初は真面目に、よね」


「そうだ、先ずは良い印象を作る」



 部屋に男が入った。部屋は狭く、小さな小窓がある。その向こうには嫌らしくニヤついたアリスとカノンが居るが、当然男からは見えないのだ。アリスが切り出した。


「よく来ました、迷える子羊よ、先ずは貴方の名を教えてくさい」


「私は郊外に住むダンテってもんです、聖女様」


 ここからがカノンの出番である。カノンはどう答えるのかを紙に書き、俺にカンニングペーパーを見せる。俺は書かれた通りに答える。


「ダンテ、よく参りました。では貴方の迷いを全て私にお話しなさい。悩む事は良い事です、ですがそれに何時迄も心を引っ張られてはいけません。全て私に話し、これからは自らのため、そして家族の為に生きて行きなさい」


「ハイ! 聖女様、では私の犯してしまった罪の全てをお話しします。私は以前、とんでもない罪を犯しました。去年の夏、自分の畑の作物の出来が悪かったんです。このままでは来年の植え付けに使う種が無い。隣の畑はブロドの畑です。私は事もあろうかブロドの畑から作物を盗み、それを翌年の種に使ったんです。ですが恐ろしくて私は未だにそれをブロドに黙っているんです。勇気が無いんです聖女様! 私はどうすれば良いのでしょうか」


「そうですか、確かにそれは罪でしょう。ですがダンテ、それは貴方の家族の為にしでかしてしまった罪では有りませんか?」


「そうです、作物が二年も続けて不作では一家で首を括る事になってしまいます。ですが、だからといって許される事では有りません」


「そうです、どの様な理由があっても他人の物を盗む事は許される事では有りません。でもダンテ、ブラドは悪い人なのですか?」


「そんな事は有りません、彼奴は気の良い奴です」


「ならば迷う事は有りません、貴方の今年取れた作物を盗んでしまった倍の量を持って、ブラドの所に行って謝ってしまいなさい。誠心誠意謝れば、ブラドは必ず貴方を許すでしょう」


「本当ですか!? 聖女様」


「はい、大丈夫です。人は元来皆正しき心を持っています。そして誠心誠意謝って来た者を追い返す事等本来は出来ないのです。だからこそ貴方は犯してしまった罪を私に打ち明けたのでしょう? 貴方もまた正しき心を持っているのです。だから行きなさい、勇気を持って貴方の正道を」


「わ、解りました! 行ってみます」


「そうですか、では貴方が迷わず正道を歩む事が出来る様に、少しばかり勇気を授けましょう。

 神よ、ダンテに正しき道を歩む為の勇気を授けたまえ」


 俺は祝福をダンテに施した、単なる力を上げる付与魔法たが・・・


「聖女様! 力が漲って来ました!! ありがとう御座います」


「また迷いが生じた時には何時でも来なさい」



 プラシーボ効果ってやつか、思い込みは病気すら治すからな。まあよくこれだけ適当な出鱈目を次から次へと並べられるもんだぜ。詐欺師ってのは本当にすげえ。


 その翌日から、懺悔部屋の噂が人から人へと話しが伝わり、そしてダンテもまたお祈りにやってきた。


「聖女様、ありがとう御座います。聖女様の言う通りにしたら、ブラドの奴今度そういう時は言えばいい、その時は好きなだけ持って行けって」


「言ったでしょう、人とは本来皆正しき心を持っているのです」


「ハイ! 聖女様の言う通りでした」


 それから懺悔部屋は大盛況となった。屋台の売り上げもインチキおみくじも、御守りもよく効くとこれもプラシーボ効果なのか、よく売れた。それだけでもここ最近かなりの利益なのだが、本命はまだ出さない。どうせエリザベート辺りが聞きつけて、怒鳴り込んで来るのだ。今は着実な稼ぎをやっておく。本命を出すのはエリザベートが来てから後だ。


 案の定アリスの想像通り、エリザベートはギルバートから、教会の話しを聞きつけていた。


「止めさせます!! 皆を集めてください!!」


「いや、それは止めたほうが良い」


「何故ですかコレン」


「いやあ、そのアリスがさあ、何か本当に心を入れ替えたみたい何だよ」


「有り得ないわ、あのアリスが本当に人々の為に何て」


「それがそうでも無いらしいのだ。何でも懺悔をした者達が、アリスの言葉を聞いて、心が洗われたと皆が喜んでいると言うし、無償で祝福を与えてもくれていると」


「んな!? ・・・・・嘘でしょう? あのアリスが」


「俺も最初はそう思ったさ、だけど実際に俺の使用人に行かせてみたんだけど、実際にアリスは本当に清らかな言葉で懺悔した罪の解決策を話し、そして祝福を受けたと涙ながらに感動していたんだよ」


「・・・・アリスが、ですか」


「ああ、そのアリスがだ」


 エリザベートはそれはもう驚いた、だがそれでもエリザベートは信じられなかった。あれだけの悪事を繰り返し行って来たアリスが、ここで本当に心を入れ替えたと言うのだろうか? あり得ない。エリザベートはこの話しをギルマスであるエザリアの所に持って行った。


「あはははは!! 無い無い、絶対に無いわよ!! アリスは、と言うかアストライアは本当の極悪人よ? その魂を持ったアリスが人々の為に説法何て、絶対に何か企んでるわよ。詐欺何てあの娘の常套手段何だから」


「やはりそうですよね」


「ええ、全財産掛けても良いわよ。あの娘が他人の為に説法何て絶対に無いと断言出来るわ」



 危なくエリザベートも騙される所だった。もしかしてと一瞬思ってしまったのである。だが念の為にエリザベートはアリスの教会に出向いた。一応釘を刺す為だ。


「な、何をしにきたの? エリザベート」


「貴女がまたろくでもない事をたくらんでるんじゃないかと思って」


「な、何を仰っているのか意味がわかりませんね。見てください、この方たちの真剣な祈る姿をです。この方達がろくでもない事をされた顔ですか? 皆真剣にお祈りをなさっていますよ」


「まあ良いわ、今度何か仕出かしたら、今度こそ地獄を見せて上げるわよ。このインチキ臭い御守りもどうせその辺で売ってるバッタモンでしょう」


「失礼な! ちゃんと私が破邪の魔法をかけて有ります!! 凄い効き目だって評判何ですから」


 勿論嘘である、だが評判になっているのは事実である。プラシーボ効果だが・・・・


 アリスは思った。


 これで本命に移れるぜ。エリザベートは確認の為に来ただけだ。そして俺にはこれだけの信者がいる。最近は豪商や貴族達も俺の信者になっている。カモは沢山いるぜ。



 そしてある懺悔の時


「そうですか、ですが恐らくそれは悪魔の仕業です」


「何と!? 私に悪魔が」


「貴方自身に罪は有りません。私には見えます、貴方に悪魔が取り憑いてしまっている」


「そうか、どおりで私にしては大人げなさすぎると、悪魔の仕業だったのか!! 聖女様、私はどうすればいいのでしょうか、これでは商売に関わります」


「貴方に取り憑いている悪魔はとても強力な悪魔です、この場で行う簡単な悪魔祓いではとてもでは有りませんが祓いきれません。ですが一つ方法が有ります」


「教えてください聖女様!! お布施はこれまで以上にさせて頂きます」


「では、私が何年にも渡って神聖力を注いだ壺が有ります」


「壺、ですか・・・」


「私が強力なポーションを冒険者ギルドに降ろしているのはご存知ですね?」


「勿論です、聖女様の作られるポーションは段違いに効き目が良いと有名ですから」


「その理由はその壺でポーションを作っているから何です、何年も前から壺に神聖力を注ぎ、それは一切の不浄な物を寄せ付けない。また不浄な者が入ればまたたく間に浄化してしまいます」


「成る程! ではその壺が有れば」


「その壺に私が作ったポーションを入れておき、それを何日か続けて飲めば、悪魔はたちどころに浄化されるでしょう」


「是非その壺を私にお譲りください!! 謝礼には糸目をつけません」


「謝礼は結構です、ただその壺はとても高額な物です、それに何年にも渡って私が神聖力を注いだ物、値段は正直高いです」


「構いません!! 悪魔が払えるなら」


 凄まじい値段で売れた、正直最初に提示した値段で即決とは思いもしなかった。カノンの言う通りに説明していたら、押し売りする必要も無く、勝手に向こうが買って行った。

 まあ悪魔なんて彼奴にはついてないんだが、彼奴が犯した詐欺紛いの商売をお前のせいじゃ無い、それは悪魔の仕業だと言ったら、彼奴それを信じやがった。

 カノン恐るべし、流石元祖インチキシスター。年期が違うぜ。


 だがプラシーボ効果はここでも発揮された。俺の神聖力なんざこもっていない安壺に、ただのポーションが入っているだけの壺。そのポーションを毎日少しずつ飲んだだけで、真っ当な商売をする様になったと喜んでいやがった。詐欺まがいの商売をする気にもならなくなったと言うのだ。やはり悪魔か払われたんだと喜んでいやがった。


 その後も貴族達や豪商達に壺を売りまくったのだが、何故か皆喜んでその後礼に来る。不思議である。俺は何の力も出していない。カノンの出鱈目を皆心から信じているのだ。


「ね、ねえアリス」


「何だ?」


「あのポーション本当に神聖力が有るんじゃないの?」


「んな訳ねえだろ、神聖魔法って凄え魔力消費するんだよ。あれだけの大量のポーションに神聖力なんざ入れたら、俺は魔力切れでとっくに死んでるわ」


「だけどさあ?」


「だよな・・・」




 しかし、その法外な値段の壺、やはりエリザベートは聞きつけていた。


「尻尾を現したわね、アリス」


「あはははは!! あの壺にその値段はあり得ないわ。やっぱりアリスはアリスだったな!! 腹痛え」


「笑い事じゃないわ! ギル!!」


「ご、ごめん、でも、アリスらしくて笑っちゃうんだよね」


「見てなさい、今度と言う今度は絶対に許さない!!」


 アリス、年貢の収め時が来たようである。






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