33話 呪われしアイテム
イトウ男爵領を抜け、いよいよタルタリー帝国へと入った。国境門は優先的に簡単に通れた。そりゃ今から自分達の皇妃となる人間の嫁入りである。出来るだけ愛想を振りまいておくに限る。
「母さん、お祖父様お祖母様、ここからは頻繁に魔物が出るから気おつけてね」
「そうか、この山脈には強い魔物が出るって有名だったな」
「ならばアリス、セリーヌ、貴女達も馬車をおりなさい」
「へ? 何で?」
「それは駄目だエリザベート殿下、母さんにそんな危ない事はさせられない」
「いいえガレス殿、アリスはこれから悪魔王ルシフェルと戦わなければならないのです。今から慣れておくべきですわ」
「い、いやあエリザベート、折角子供達がこういうのだから」
「イトウ男爵」
「何ですか? エリザベート殿下」
「そう言えばアリスの事で伝えて置かねばならない事が」
「だあああああああああああ!! 元気ですかかあああああ!!」
お、思わず猪木を出しちまったぜ! くそう!! エリザベートめ!!
「だだだ大丈夫だガレス、エリザベートの言う通り、私も慣れておかないと」
「母さん、無理はしないでね」
「ももも勿論!」
くそう面倒臭え、しかしあれが親父にバレる訳には行かねえ。
エリザベートの手前、アリスは引き攣った笑顔でやる気を見せるのであった。
魔物討伐程度は聖魔法を使えばどうということは無かった。だが一々エリザベートが俺とセリーヌを監視している。これが非常にウザい。だが更にウザい事がここで起こってしまう。
「寄る場所?」
「はい、まだ帝国領になる前に、この辺り一帯が何と呼ばれていたか、ベディビィアさん達ならご存知ですね?」
「ええ、確か聖女アストライア様の生誕の地、当時はテラン王国だったと記憶してます」
「私達フォルテシアには様々な聖女伝承が残っています。そこにこんな伝承が有ります。聖女アストライア様は自身の纏った装備の一つを故郷の祠に残したと」
「な! 場所は解るのですか?」
「聖女アストライア様の故郷はここから西に少し行った、カルナック村、つまりカルナック山の麓の村です。そこには確か古の昔からダンジョンがある筈、恐らく祠とはその中にあるのではないかと私達は目星を付けています」
俺達はそのダンジョンへと向かう事にした。聖女アストライアの残した物ならば、かなり高く売れ・・・オホン!! 俺達のこれからの旅に相当役立つであろう。
ダンジョン攻略はあっという間に終わった。俺達、と言うよりベディビィア、トリスタン、ガレスの3人は、やはり規格外だったと言うか、最早人間の域を軽く凌駕してしまっている。
問題はその祠に残されていた、聖女アストライアの残した装備にあった。
聖女アストライアの残したティアラ
「な、何て禍々しいの・・・・」
流石にこれは俺でも装備したくねえ、そのティアラは真っ黒で、額部分には大きくて真っ赤な、血走った様な1つ目が施されている。更にまるで悪魔の様な角の様な物があしらわれている。
「え、エリザベート、貴女も確か聖女候補でしたよね?」
「な、何を言ってるのかしら、これは貴女が前世に残した物でしょう」
「いやいや、当代の聖女はエリザベートかもしれないじゃないですか、この場はエリザベートに譲り」
「つべこべ言わないで貴女が被りなさい!!」
いきなりエリザベートは俺にそれを被せて来た。
「ちょ! ん・・・・・ぷごぉぉぉぉぉ!! な、なんだこれは!! 呪われてんじゃねえのか!?」
「ど、どうしたの? アリス」
「せ、セリーヌ、この巫山戯たティアラ引っ張ってください!!」
「ど、どれ、う! ・・」
「いて! いてててて!!」
セリーヌは力いっぱいティアラを引っ張った。だがびくともしない。
「僕がやってみよう」
今度はギルが引っ張る
「いて! いててて! ギル、痛い!!」
「う、嘘だろ!? 本当に呪われたアイテム何じゃないかこれ?」
どれだけ引っ張っても、何とそのティアラは取れないのだ。
「ど、どうしてくれるんですか!! エリザベート!!」
「そ、そうだわ! アリス、そのティアラ、何か力を感じるわよ?」
「え?・・・」
俺はヒールを唱えた、それを感じ取ったからだ。
「うお!? 凄え」
「聖魔法の威力が桁違いに上がったみたいだな」
「ほら! 良かったじゃないアリス!!」
「良くねえ!! こんな禍々しいの、聖魔法の威力が上がったくらいで許容出来ねえ!!」
「さあ、戻りましょうか・・・・」
「こら! エリザベート!! すっとぼけてる場合じゃ」
スタコラとエリザベートは逃げるように戻って行った。
畜生、この恨みはらさでおくべきか!!
結局風呂にはいる時も、寝る時も、そのティアラは俺の頭からはなれない。そしてこんな禍々しいティアラ、ランスロットが用意したドレスには全く合わない。俺は仕方なく、似たような禍々しいドレスを着るしかなくなってしまったのである。完全にその姿は魔界の女王であった。
その後数日かけてようやく帝都に到着したのだが、ランスロットが俺のその姿を見て泣いていた。
「何て事だ!! 僕の可愛いアリスが、アストライアになってしまった!!」
やっぱり知ってたのかよ、この呪われたティアラの事・・・・
だがこの広い帝国領、素晴らしいデザイナーは沢山居る。この禍々しいティアラを付けて居ても、それなりに美しく魅せるドレスを作るデザイナーはしっかりと居た。ランスロットが帝国全域から探し出し、兎に角婚約式には何とか間に合わせたのである。
そして婚約式前日、般若の様な面をしたラフィール、リーザベルト、そして怯えきったライオネットと、疲れ切ったアーサーが何とか間に合った。そしてラフィールがランスロットに詰め寄って来ていたのである。
「解った、ちゃんと叱っておくから、どうにかここは僕の顔に免じて矛を引いてくれないだろうか」
「いいえランスロット殿下、私達がどれだけ大変な思いをして、各方面に謝って来たのか殿下にはお解りですよね!? ここは是が非でも奥方と直接お話しをさせて頂きます!!」
「それは解って居る、本当に申し訳ないと思っているさ。だが今回だけは何とかならないだろうか? 納得行くだけの代償はちゃんと用意させて貰うから」
「殿下、私は見返り等求めておりません! そして殿下は御内儀に甘すぎます!! あの娘がどれだけの悪事を我が国で犯して来たが一から説明致しましょうか!? 絶対にあの娘はこの国でも同じ様な事をやりますよ! ここでキッチリとあの娘に教育しておく事があの娘の為なのです!!」
「わ、解っているよ、だから僕からちゃんと言い聞かせるから」
「無理です! 殿下はあの娘を引っ叩く事ができますか!?」
「で、出来るわけ無いだろう!! そんな事! あの可愛いアリスを叩くなんて、考えただけでも恐ろしい」
「ほら! 無理では有りませんか!! 叩かないから合せてください!」
丁度俺はその時ロビーの上からこっそりとその姿を影から見ていた。
やべぇ、絶対に出れねえ・・・・
「母さん・・・・修羅場だね」
「おいトリスタン、他人事の様に言ってんじゃねえ、何とかお前もランスロット様に加勢してラフィール様を宥めて来てくれ」
「む、無理だよ母さん、僕だってあの時一緒にいたんだから! 絶対に巻き添えになるよ!!」
その時ガレスが忍び足でその場から逃げようとしていた、だが俺はそれを逃さなかった。徐ろにガレスの襟首を掴む。
「う! 母さん」
「ガレス、俺からの頼みを聞いてくれないか?」
「う・・・な、何? 母さん」
「解ってるだろう? 相手は2人だ、ラフィール様とリーザベルト様。ここは父親に加勢しに行く所だよな?」
「そ、そうだね・・・・」
「頑張れ! ガレス!!」
「トリスタン! まるで他人事じゃないか」
「いいから行け! 何とかラフィール様を丸め込め!!」
「う! ・・・・」
ガレスがランスロットへ加勢しに行くが、ガレスは戦闘こそ馬鹿みたいに強いが、口は弱かった。半ベソ状態で下を向いているだけだ。ちっとも役に立たねえ。
どうにかこうにかそこに幼女となっていたモルドレッドが乱入し、仕方なく今回だけはラフィールも矛を納めてくれた。
部屋には全身から力の抜けたランスロットとガレスが、死体の様な顔をしてソファーにもたれかかっていた。
「わ、悪かったな、ランスロット様、ガレス」
「まあ何時もの事だよ、フィーネの時もアストライアの時も、大体何時もこんなもんだったからね」
「そ、そうか・・・なあ? 甘い物でも食うか? 作ってやるよ」
「ほ、本当かい? なら頼むよ」
「母さん、俺も食いたい」
「ガレスも頑張ったからな、ちゃんと作ってやる」
「うん!」
流石に今回は悪かったと俺も反省した。だがフィーネの時もアストライアの時も、ランスロット様は俺のせいで何時もこんな感じだったのか、流石に反省しなければ・・・・
そこで俺はお詫びも兼ねて、ケーキを作る事にした。
先ずは魔物の骨から抽出したゼラチン、これは俺が抽出の仕方を宮殿のコックに命じて既に抽出済であった。
牛乳を鍋で温め、砂糖とふやかしたゼラチンを加えて完全に溶かす。火から下ろし、更に冷たく冷やした牛乳を混ぜ合わせる。ボウルを氷水に当てながら、高速で5〜7分ほどしっかりと泡立てる。これで生クリームのホイップが完成した。
次に卵と砂糖をボウルに入れ、50℃程度の湯煎にかけながら混ぜる。その後湯煎から外し、白っぽくリボン状になるまで10分ほど泡立てる。ふるった薄力粉を数回に分けて加え、へラで底からすくい上げるように手早く切るように混ぜる。溶かしたバターに生地を少し混ぜてからボウルに戻し、さっと混ぜ合わせる。紙を敷いた型に生地を流し、170℃程度に予熱したオーブンで30分程焼く。これでスポンジケーキの出来上がり。
その後ヘラで丁寧に生クリームを塗りつけ、イチゴと生クリームで綺麗に飾り付けをし、ショートケーキを作った。
「ほら、美味いぞ」
「おお! これは美味しそうだ!!」
「うん父さん! おいしそうだね、食べていい? 母さん」
「ああ、どんどん食え」
その様子を影からラフィール、リーザベルト、エリザベート達が見ていた。
「やはり怒りませんね、ランスロット殿下は」
「お姉様、ギルマスに聞いておりますわ。毎回ランスロット殿下はあの様な感じだそうですわね」
「はあ・・・」
「でもお姉様、多分あれは相当反省しています」
「そうなのですか?」
「ええ、どんなに悪さをしても、あの娘は何時もふてぶてしい態度を崩しませんでした。でも今回はランスロット殿下やガレスさんにああして手作りケーキを作っています。あれは反省している証拠ですね」
「そうですか、では今回はその言葉を信じて許してあげましょう」
確かにアリスは珍しく反省していた。それがエリザベートには解った様だ。




