30話 オレオレ
アリス街道、それはこの王国の王都から、タルタリー帝国帝都迄を結ぶ新設された街道である。その街道が双方の国で急ピッチに整備されていた。
王国では元第一王子派の貴族達にその街道の整備が言い渡されていた。恩赦を受ける為の条件とされた訳だ。そして元第一王子派の力を削ぐ目的もあった。街道整備にかかる費用その全てをその貴族達が出す事となっていた。
またアリスの父も無事男爵位に叙任され、男爵としては異例の領地を得た。アリス街道沿の領地であり、帝国との国境沿いとなる。
ファミリーネームはアリスの前世から取り伊藤、アリスはアリスイトウ男爵令嬢となった。家紋はそのまま下がり藤の家紋を使った。
また家格誓いなので、アリスは男爵家からフランソワ大公家へ養子に出され、セシリーの妹となり、そこからタルタリー皇家へ嫁入りする。
翌日にはランスロットを含む、タルタリー軍はベディビィアとトリスタンを残し、帝国へと戻った。ランスロットはアリスを迎え入れる準備をする様だ。トリスタンとベディビィアはアリスの護衛として残された。
そしてアリスは一先ず学園の寮へと戻った。学園は国王の退位と第二王子の王太子赴任、そしてアリスの帝国皇太子嫁入りの噂で持ちきりだった。
そしてアリスはと言うと、其れ等を知ると、儲けていた。
「おぉぉっほっほっほ! よろしいですわ!! 貴女のお父様の事、ランスロット殿下へとりなしておきますわよ!」
慣れない言葉でアリスはお茶会に参加していた。そりゃ誘われるならば行かねばならぬだろう、皇太子妃としては。そう、アリスは誘われたのである。そこにたまたま皆が賄賂を持って来ただけである。
「アスラン、次のお茶会は」
「姉御、ミランダ侯爵令嬢主催のお茶会でやんす」
「ほう、侯爵令嬢か、よし、ならセリーヌと同伴で行こう。次はオリバーとガロードを連れて行くぞ」
「ヘイ、セリーヌの姉御にも声をかけておきます」
アリスはセリーヌを言葉巧みに丸め込み、このお茶会賄賂作戦へ引き込んでいた。セリーヌはただお茶会に参加するだけならと、軽く引き受けてしまったのだ。それがどう言う意図で行われているかなど、考えなかったのである。またよくお土産を渡されるが、そういうものだと勝手に思い込んでいた。
この世界には電話は無い。だが魔法通信はある。使い方は電話と大差ない。電話との違いは、番号でかけるのではなく、相手の記号化された魔力周波数で繋ぐのだ。つまりかける側が受ける側の魔力周波数を知らないとかけられない。
アリスはお茶会でこんな話しを良くする。
ランスロット様やラフィール様から何か貴方のご実家に御用がある時は、魔法通信で私からご連絡しますわ!!
そう、セリーヌが渡される物は、お土産と、その家の魔力周波数帯に繋がる魔法石だった。これが有れば、その家と魔力周波数で繋がり、何時でも魔法通信が出来る訳だ。
「大分集まったな」
「ヘイ、姉御」
「そろそろ行動に移す時だな」
「ですが本当に大丈夫何ですか?」
「問題ねえ、如何に自分の子供とは言え、魔法通信での声なんてそうそう判別できゃしねえ。それに旅には金がいるしな!」
「姉御に付いてく為だ!! 俺達も腹を括る時だ!!」
「そのいきだぜオリバー!!」
「で、でも、それは詐欺なのでは・・・」
「セリーヌ、セリーヌだってもう旅に出るメンバーなんだ、金がなきゃ旅に出られないでしょう?」
「そ、それはそうなのだけど・・・」
「俺達はルシフェルを倒すと言う崇高な目的が有るんだから、貴族達が金を工面するのは当たり前何だよ」
「そ、そうよね、解ったわ!!」
こうしてアリスの悪巧みに参加してしまうセリーヌであった。
アリスはこうランスロットと約束した。タルタリー帝国へは嫁に行く、だがそれは学園を卒業してから。そして嫁に行った後でも直ぐにルシフェルを倒す為に旅に出る。
ランスロットはその条件を呑んだ。正しタルタリー帝国にて先ず婚約発表をする。なのでタルタリー帝国で用意が出来次第、先ずアリスはタルタリー帝国に向かう。そしてルシフェル討伐もそこで宣言する事になった。
まだ聖女候補の一員としての宣言だが、そこに2人の聖女候補が居るのだから、充分宣言出来るだろうとの事。そう、アリスのルシフェル討伐メンバーには、アリス、セシリー、エリザベート、セリーヌ、ギルバート、コレンがいた。
タルタリー帝国は皇太子妃であるアリスに全面協力する事をそこで宣言し、ランスロットとナイトオブラウンズ達がその旅に加わる事をそこで周知させる。
アスラン達はアリスの従者となった。これはアスラン達の意思でもあるが、王国としては聖女伝説の発祥の地でもあるし、その中心に居るべきである為、これは渡りに船でもあった。王国は国を上げてルシフェル討伐をするとアピール出来る訳だ。
聖女候補2人にそのメンバーも揃え、更に従者として貴族の嫡子が旅に同行する、これは充分過ぎるアピールが出来る。
こうした事から、アリスは考えた。王国王家からタルタリー帝国へ嫁入りする。王国貴族なら、誰でももう王国は実質ラフィールが支配するであろう事は誰が見ても明らかだ。
ラフィールはボストニアとも通じており、そして第二王子ライオネットとも仲は良好だ。確かにまだ王座には国王が付いているが、もう国王には何の力も無い。
そして人種族最強のタルタリー帝国へ嫁入りするのは第二王子やラフィールとも仲の良いアリスである。つまり王国で今一番力のある者はラフィール、そして貴族では、イトウ男爵家となるだろう。
今貴族達が取り入る相手はラフィールか、アリス以外ない。だが王家と繋がりの浅い貴族、また元国王派閥の者はどうすれば良いのか、それは自分達の子息を使って学園でアリスと繋がりを作るのが一番手っ取り早いだろう。アリスはここを利用する事にしたのである。
その日、とある伯爵家へ一本の魔法通信が鳴った。
「はい、もしもし、此方はオラクル伯爵家で御座います」
『あ、オレオレ』
「え? ど、何方ですか」
『オレだよ、オレ』
「あ、ライル坊ちゃまですか?」
『そうそう、実はさ、ちょっと学園で揉め事があってさ、どうしても金貨300枚が必要何だよ』
「き、金貨300枚!? そ、それはちょっと、奥様に聞かないと」
『なら早く聞いてくれ』
その後奥様に変わり、金貨300枚は用意され、受け子であるガロードは無事金貨300枚を手にしたのである。
「ま、まさかこんなに上手く行くとは思って無かったでやんす」
「俺もだぜ! オレオレで勝手に向こうが名前教えてくれるんだもんな」
「当たり前だ、例えばだな、アスラン」
「ヘイ」
「お前自分が魔法通信で誰が家の人間と話す時、自分の名前言うか?」
「言われてみれば、言わねえでやんす、確かにオレだ! で直ぐに理解してくれますな」
「そうだ、向こうはこんな感じで理解してるんだよ。若い男の声だ、ならアスランかオリバーだろう。声が低い、アスランだな 声が高い、ならオリバーだ。って程度だ。だから別の者がなりすましてかけても、必ず何方かの名前を言ってしまう」
「流石姉御!! 悪の頭脳の持ち主だぜ!」
「うるせー! 悪のは余計何だよ!! ん? どうしたトリスタン、お前もやってみたいのか?」
「いや、ただ、これってもしかして不味いんじゃないかな?」
「ビビってんじゃねえ!! バレやしねえって! バレた処でトンズラすりゃ良いんだよ」
「そ、そうなの?」
「そうですよトリスタン、お母様がやる事は何時もこんなもんです。何時も私達にお金の稼ぎ方を教えてくださっていたでしょう?」
「た、確かにあの頃は母さんから金の稼ぎ方を教わって、稼いでたけど、あれ後から解ったのは大体悪事だったけど・・・」
も、もしかして俺って一万年前からこいつら使って詐欺やら働いてたのか・・・・
「問題有りません!」
「そ、そうなの? ベディビィア」
「そうです、お母様は何時も言ってました、どうせ貴族なんて平民から搾取してるだけ何だから、そう言うお金を私達が有効に使うのです。そのお金を平民の店で使う事により、彼等に返してあげるのです」
「な、成る程、確かに、貴族達から金を掠めて、平民のお店で使って返してあげれば良いんだね? 母さん」
「う・・・そ、その通りだ!!」
「わかったよ母さん!」
も、物凄い罪悪感が・・・・
だがその程度で怯むアリスでは無かった。お茶会で知った、女性の子息がいる場合はアリスとセリーヌが通信し、それ以外はアスラン達が通信する。
トリスタンはまんまと言いくるめられ、それをキラキラとした目で見ていた。
凄まじい金をアリス達が手にした処で、遂にアリスが婚約発表する為に、タルタリー帝国へ向かう日がやってきたのである。
「いいか、ベディビィア、トリスタン、あの稼ぎをしていたのは絶対誰にも内緒だぞ、もちろんランスロットにもだ」
「父さんにも?」
「そうだ、あ、彼奴は忙しいからな、無駄に気を回す事はない」
「お母様はお父様に気を使っているのよ、トリスタン」
「うん、解ったよ」
そして翌日、ガレスが二万の部隊を率いてアリスを迎えに来たのだった。




