25話 タルタリー帝国
タルタリー帝国、それはこのアルフヘイム最大の人類国家だ。
この帝国は人種問わず、帝国法を遵守し、国家に忠誠を誓えば誰しも国民となれる。それは人種問わずと言う事で、様々な人種が多く国民にいる。
帝国は海辺の小さな漁村から始まった。当時の国家が滅亡した時、その国の貴族達を取り纏め、国を奪い帰した者が初代皇帝ランスロットタルタリーである。
代々帝国の長男となった者は、この名前を引き継ぐ慣わしとなっている。故に現皇帝も、ロマーノ ランスロット タルタリーを名乗っていた。
タルタリー帝国初代皇帝は、不死であると言う噂すら立つ程の武力を示し、次々と周辺国家を制圧し、巨大帝国を作り上げた。
だが帝国には一部の者達の中でだけ、こんな噂もある。実は帝国には影の支配者がいて、それは女性であり、帝国はその女性の為に作られた国だ、と言う噂だ。
最もその影の支配者を誰も見たことは無く、単なる噂話し、都市伝説である。
その頃フォルテシアでは王宮へ帝国軍が動き出したと言う情報が齎された。そこにはボストニアから戻って来た、ラフィール第一王女の姿もあった。
王宮の大会議室には、主だった重臣達が集められていた。そこでは帝国軍にどう対処するかの話し合いが持たれていた。
「徹底抗戦有るのみ!」
「そうだ!如何に帝国軍と言えど、我がフォルテシア魔法軍の敵では無い!」
「王女殿下は確かボストニア女王とは昵懇の中、応援は頼めませんか?」
「無理です」
「ですがこのままでは」
「このままでは、何ですか? 内務卿や軍務卿が言われる通り、犯人を一刻も早く見つけ出し、お父様が許しを請いに出向くのが一番現実的な手です。後はアリスが目覚めてくだされば、あの方は必ずや進行を止めてくださります」
「それよりダニエルはまだ見つからんのか!!」
「何を言っておられるのか! それではまるで属国でないか!」
「申し上げます!!」
「何だ!」
「て、帝国軍、凡そ100万が、アシテ砦の前に集結! アリス姫を迎えに来たと、開門を迫っております!」
「ひ、百万‥‥‥だと?」
「馬鹿な‥‥‥何故平民の小娘一匹にそれまでの」
「どうした? グロース殿、先程の元気は何処に行った? 軍務を束ねる者として言っておくが、フォルテシア軍はどんなに集めても10万、各諸侯軍が合流したとしても20万にしかならんぞ? 像と蟻の戦いだ。それでも勇んで行くと言うなら勝手にいけ。軍務としては、ラフィール王女殿下の方針を指示する以上動く気はない」
「帝国軍を即時迎え入れよ! 百万もの軍勢なら足は遅い! それまでに何としてもダニエルを捕らえ、ここに引きずりだせ!!」
実際第一王子派の諸侯達は舐めていた。帝国軍200万とは言われるが、実際にはそんなに無い。そして政変が起きたばかりで国力も落ちている。集められた所でせいぜいが20万程度だろうと。
更に言えば、確かに帝国軍は精鋭揃いだが、実際にアリス如き小娘一人にそこまで国家の予算を使う事など常識的には有り得ない。この様な見方が大部分だった。
確かにこの見方は正しい。ただそれは普通に、常識的に考えての話だ。
だが帝国に有ってはこれは正しくないのだ。何故ならば、帝国と言う国家はこの日の為に何百何千年と力を蓄えて来た国だからだ。
この事実を知っている者が、このフォルテシアの中に、ただ一人いた。それがフォルテシア王国第一王女、ラフィール フォルテシアだった。実はラフィールは、先日までボストニアに滞在していた。
ボストニアとフォルテシアとの通商条約は、このラフィールのおかげで成立したと言っても過言では無い。何故ならば、不慮の事故により亡くなったラフィールの母が、元ボストニア王族だったからだ。
そしてボストニア王族とは、ヴァンパイアの家系だった。
と言ってもヒューマンベースのヴァンパイアな為、ニンニクが駄目とか、日の光に弱いとか、定期的に血を飲まないと駄目とか言う話しは既に無く、血を飲めば普通の人間より長く生きられると言う程度の話しでしかない。
このヴァンパイアの血が実はラフィールにも流れていた。
ラフィールはここで、ボストニア女王から衝撃の事実を聞いていた。
「帝国皇帝が陛下の弟子!? 意味が解りません。だって陛下はもう三万年以上生きていらっしゃるお方」
「まあ落ち着くが良いラフィール。帝国皇帝と言っても、今の表向きの皇帝とは違う。初代皇帝にして、不死の呪いがかかっている、裏から帝国を今でも支えて居る真の皇帝ランスロット、あの坊やが妾の弟子なのじゃ」
「不死の‥‥では歴代皇帝とは一体」
「全てが傀儡に過ぎん。それは皇帝の戴冠式で教えられる。口伝のみの、皇帝から次期皇帝のみに伝えられる事実じゃ。そして今回のように不届きな者が現れた場合、ランスロットの坊やと同じく、不死の呪いがかけられておる帝国最強の12人がその皇族を抹殺する。それがナイトオブラウンズと言われる12人じゃ」
「ナイトオブラウンズ‥‥‥」
「このナイトオブラウンズは全てが規格外、一万年以上も武を極めたあらゆる意味に置いて最強。とある目的の為ならば、手段を選ばずひたすらその目的を遂行する為だけに存在する者達じゃ」
「その目的とは?」
「ただ一人の娘の復活を待ち、その娘の理想となる国家を造る事」
「復活を? その娘さんはお亡くなりになったのですか?」
「そうじゃ、その悲しみからランスロット坊やは自ら不死の呪いを受けた。そしてその娘こそが帝国の真の女帝、つまりカリキュオンの正統なる主じゃな」
「ランスロット様が皇帝なのでは無いのですか?」
「言ったであろう、その娘の理想となる国家を造るのがナイトオブラウンズ。そしてナイトオブラウンズは12人居るが、その中でも最強と言われる者が3人居る。その一人が、ナイトオブワン、その名もランスロットじゃ」
「え! じゃあランスロット殿下でさへ!?」
「よいか、よく聞けラフィールよ。ナイトオブラウンズを決して動かしてはならん。敵に回せば妾のボストニアでさへ数日で灰燼ときすであろう」
「陛下でさへ!? ‥‥‥ですか」
「そうじゃ、それ程あやつらは規格外の存在なのじゃ」
「でもランスロット殿下は陛下の弟子なのでは?」
「言ったであろう? 奴等はその一人の娘の為だけに存在する。そして帝国でさへその娘の為だけにある国なのじゃ。
確かに妾はランスロットの坊やに魔法を授けた。じゃがそれすらも坊やにとっては娘の為に行った行為にしか過ぎん」
「理想の国家を造る為、ですか・・・陛下、その理想国家とは、どんな国家なのですか?」
「なに、若い娘が願うたわいもない夢物語のような物じゃよ。聞けば呆れて物も言えなくなるような代物じゃ。故に妾も放置しておる」
「へ?」
「種族関係なく、誰もが明るく笑いながら生きられる国。これが奴らの理想であり、ナイトオブラウンズはそれを実現する為だけに存在するのじゃ」
「‥‥‥ナイトオブラウンズがとてもいい人達に思えて来ました」
「そもそもあやつらはな、誰もが素直な元は良い子なのじゃ。じゃがランスロット坊やが狂おしい程愛し、ラウンズ達が母と尊愛するフィーネの死に方が、あやつらを狂気の殺戮者に変えおった」
「死に方!? それはどんな」
「申し上げます!!」
「どうした?」
「陛下の気にされてたフォルテシアの娘が‥‥‥何者かに襲われ、命の危機に瀕しているようです」
「何と!? ええい馬鹿な、フォルテシアは何を考えておる!」
「陛下、どうしたのですか?」
「待てラフィール、それで、その容態は?」
「一命は取り留めて居る様子、ですが魔力暴走を何者かに意図的に引き起こされたようです」
「不味い、ラフィールよ、我が飛行部隊を使って構わん。急ぎ帰り、今から言うことを必ず行え。もし娘が死ぬような事が有れば、フォルテシア王国は滅亡するぞ」
「フォルテシア王国が? 一体なにがどうなっているのか解りません!!」
「先ほど言うたラウンズ達の守るべき娘が復活しているのじゃ!! そしてそれはフォルテシア王国におる。襲われたと言うのはその娘なのじゃ!!」
「そ、そんな!?」
「ラウンズが動くぞ、このままではフォルテシアは滅亡する」
「な、何か方法は無いのですか!?」
「方法はたった一つしかない。それも定かでは無いが、それにかけるしかないじゃろう。よいかよく聞け、先程も言ったが、帝国の真の女帝はその娘、今はアリスと言う名のろくでも無い平民の娘のようじゃ」
「あ! ‥‥‥あの子、ですか‥‥‥」
「まあ言いたい事はよう解る。その娘が帝国の真なる女帝じゃ。その女帝の証となる物がカリキュオンじゃ」
「ですがカリキュオンは代々帝国の皇女が持つ」
「あれは精巧に造られた偽者じゃ、真なる持ち主はアリスただ一人。今はランスロット坊やが持って居る。そして一回のみ持ち主を変えられる。つまりランスロット坊やが真の持ち主を選定するのがカリキュオンと言う杖なのじゃ。そしてその選定は、真の持ち主にしか渡らないようになって居る。
つまりランスロット坊やが今預かっていて、真の持ち主であるアリスに渡ってこそカリキュオンはその真なる力に目覚めるのじゃ。そしてカリキュオンがアリスの手にあれば、どの様な病や如何なる外敵要員からもアリスは守られる。お前は直ぐにでもそれを行い、アリスを目覚めさせ、犯人の首をランスロット坊やへ差し出すのじゃ。本当にアリスがフィーネならば、必ずやラウンズ達の怒りを静めてくれる筈じゃ」
「カリキュオンをアリスさんに持たせれば良いのですね?」
「そうじゃ、カリキュオンは聖女アリスフィーネの手に有ってこそ、その真なる大いなる力を発揮する、兎に角一刻を争う、今は急ぐのじゃ!」
「聖女アリスフィーネ!?」
「今その話しはいい、兎に角急げ、その話し、詳しくはエザリアに聞くがよい」
「エザリア、ギルドマスターですね。わかりました」
だが帝国軍は怒濤の勢いでその進撃を続けていた。先頭を突っ走るのは12人、真っ白なプレートメイルにグリフォンと12の星座を象る模様が掘られている。其れ等が掲げる旗は、グリフォンにマーメイドが乗る物、つまりタルタリー帝国の国旗である。
ナイトオブラウンズの12人が、その殺気をまき散らしながら、只ひたすら怒りの咆哮を上げ、怒濤の進撃を続けていたのだ。
感の鈍い者ですら、その強烈な殺気を感じ取れた。一万年以上只ひたすらに待ち続け、その者の帰る為の場所を造るために、ひたすらに戦い抜いた者達。たった一人のラウンズでさへ、築いた屍の数は億を超える。そんな猛者達が12人も居るのだ。
そして今日、その待ち焦がれた愛する者にようやく逢える。そう思った矢先、愚物にその者の命を奪われようとしている。許せる訳が無いのだ。一万年以上待ち続けた、彼等は皆その少女を気の遠くなる程長い時を待っていた。
だが何処にでも愚か者は居る。そのような殺気をまき散らしながら進撃して来る者達を自らの野心の為に利用しようとする者。
進撃を続けるランスロットの横に、一頭の騎士が並んだ。
「申し上げます!」
「何だ!」
「この先のテムズの関所が開いておりません!」
「開けなければ皆殺しにしてぶち破ると伝えておけ!」
「は!」
このテムズの砦を守っていたのが、ラムール伯爵だった。伯爵は第一王子派だったが、早々に裏切っていた。その為帝国に対して弓を引いたと言う実績を作って起きたかったのだ。どの道第一王子派は負ける。ならば第二王子派が勝つにしろ、フォルテシアが滅ぼされるにしろ、第一王女かボストニアに取り入る口実を作って起きたかったのだ。
「ぶち破ると言うならば、破らせればいい! よいか! 当たるのは一回だけだ! その後は直ぐに撤退するぞ!」
「しかしそれでは何の為に?」
「勇敢にも帝国軍に対し一撃加えた、その武勇だけが残ればいいのよ! 万が一フォルテシアが滅びれば、ボストニアにでも行けばいい。その時こそこの武勇が生きるというものだ!」
「帝国軍先方来ます!!」
そしてその12人の中から、一騎、突出する騎馬が居る。
「モルドレッド! 頼む!!」
「うん!! パパ!!」
モルドレッドと言う、死神の様な巨大な鎌を持ち、漆黒のドレス姿のゴスロリ幼女が馬から飛び降り、遥か前方、門の前に降り立った。その距離何と600メートル以上、普通の人間に出来る芸当では無かった。
「お前ら!! ママの所まで行くの、邪魔するな!!」
モルドレッドの持つ死神の鎌の先端が、まるで血のように真っ赤になった。そしてその鎌を二度振っただけで、門は真っ二つになり、やがて砕け散った。
「馬鹿な!? 石の門だぞ!!」
「帝国軍に突破されました!! 門が突破されました!!」
「何をやって居る!! 矢を射れ!!」
だが100メートルはあろう門の上の砦に易々と飛び乗ったモルドレッド。
「ねえ? 今私に矢を射ったのおじさん?」
「な!? 何で貴様がここに居る?」
「質問してるの私なの、矢を射ったのは叔父さん?」
「このガキを捕らえ」
シュパッ!!
その瞬間モルドレッドの鎌で、伯爵の首が飛んだ。
「か!? ‥‥‥かかれ!! 何をやっている!! こいつを殺せ!!」
だがモルドレッドがその鎌を一周大きく振り回した。すると、周囲に居る者達全員の胴体が真っ二つに切断された。
更にモルドレッドは普通では目で追いかけられないような速さで走りながら、その鎌で周囲の者達を切り裂いていった。
「あ! パパ置いてかないで!!」
未だに門を通り抜けている帝国軍の兵士の頭の上をポンポンと器用に踏みながら前に向かう幼女モルドレッド。だが関所の砦には、数百人の死体の山が築かれていた。




