23話 別人格
翌日から、元老院議会は大紛糾した。争点はやはり何故帝国皇子が学園に入学していたのか、この一点に絞られた。だがそれは誰が見ても明らかだった。
第一王子、ダニエル フォルテシア、そして共謀者は国王以外に有り得ない。
その理由はランスロットにラフィール第一王女を見初めさせ、体良く帝国に追い払いつつも、帝国を後ろ盾に付ける、それ以外考えられない。
つまり国王と第一王子は、帝国の政変終結を知っていた事になる。俺はこの茶番劇の様な議会に飽き飽きしていた。
地方貴族派閥は兎に角国王とダニエルを追い落とそうと躍起になり、国王とダニエルは知らぬ存ぜぬ状態。だがもう明らかだった。国王や宰相位しか、ランスロットを留学等させられない。それにランスロットに誰に留学の許可を貰ったのか聞けばそれでおしまいだ。てか国王以外ねえだろ?
休憩時間、宮殿内に有る密室となっている国王の間には、国王と第一王子がいた。
「父上、このままでは全てが明るみになるのは時間の問題です」
「うむ‥‥‥わしは隠居後に幽閉、お前は反逆罪により処刑が妥当であろうな」
「そんな!! ‥‥‥そうだ、父上、あの女を殺しましょう。アリスを殺し、帝国が不当に侵略をして来たとボストニアを動かすんです」
「馬鹿な! フォルテシアを火の海にする気か!?」
「暗殺してしまえば誰が犯人かなど解る訳が無い!」
「あのランスロットと言う男を甘くみるな! あやつは帝国内で争っていた実の姉と弟を武力で下し、媚を売ってきた弟を火炙りにした残虐極まりない男だぞ! わからないではすまさないと暗にあの親書に書いてあるであろう!」
「ならばどうすれば良いのですか?」
「お前はアスランを頼れ、あれはアリスと仲が良い。あれとて若い娘だ、情に訴えれば万が一にも許されよう」
「継承権を捨てろと‥‥」
「最早命すら危ういと解っておるだろう! そんな事を言っている場合では無い!!」
「‥‥解りました」
だがダニエルは引き下がらなかった。自身の配下にアリス暗殺を命じてしまったのだ。よりによって国王がアリス嫁入りを了承するまでの親書を送ったその日にだ。
ダニエルはアリスの魔力過多による体調不良を起こしやすい事を掴んでいた。本来これは、放おっておけば成長と共に緩やかに症状は回復するものだ。アリスは女神に与えられた嫌がらせだと思って居たのだが、実はそうでは無く、大量の魔力を持った事と、体が弱く生まれてしまった事で偶然起こった物だった。アリスの成長がそれにより遅れて居ることも原因だった。
だがもしそれを意図的に強くすればどうなるか? 体内の魔力過剰による暴走を引き起こし、やがてそれは体を蝕んで行き、絶命してしまう。
評議会開催二日目、元老院議会に出廷を命じられているアリスは、その日アスラン達が引く馬車に乗っていた。
「姐御、折り入って相談が有るでやんす」
「何だよいきなり?」
「昨日皆で話したでやんす、やっぱ俺達も帝国へ、姉御について行きたでやんすよ」
「そうですよ、姉御を守るのはやっぱオレたちじゃないと!」
何だよ此奴ら‥‥‥実は結構いいやつだったのか? でもな‥‥
「駄目に決まってんだろう?」
「何でですか! 俺達は姐御の邪魔者にはなりませんよ」
「いや、違うって、お前ら自分の立場忘れるなよ。お前等はこの国の貴族だし、跡継ぎだろうが」
「そんなんどうでも良いんすよ、姉御さへ守れれば!」
「あのな?」
その時だ、馬車の前に複数の黒服達が現れ、馬車の行く手を遮った。
「何だてめら!! これは貴族の馬車だぞ!」
だが何も言わずに其奴らはいきなり斬りかかって来た。俺は即座に馬車から飛び降りた。だがそいつらはただの賊ではなかった。完全に訓練されてるプロだ。
「皆気をつけろ! 此奴らプロだ!!」
なんだ此奴ら・・・・明らかに俺だけを狙って来てやがる。
アスラン達も最近では俺が鍛えたので、此奴らプロと一応渡り合っていた。俺は直ぐに無詠唱で神聖魔法を唱えた。
「オラァ!」
セイクリッドフィールド、自身と味方全てのあらゆるステータスを底上げする。
「ありがてえ! 姉御の愛に包まれたぜ!!」
「暖けえ! これが姉御の愛か!」
「力が漲って来やがる! 俺は姉御に愛されてるぞ!!」
「誰がてめえら何ぞ愛するんだよ! このダボハゼが!!」
だが一人の男が俺に何か弾のような物を投げつけて来た。俺はそれを右手で弾いた。だがそこから何か花粉のような物が撒き散らされる、俺はそれを吸い込んでしまった。
ガクン!!
身体から一気に力が抜ける。俺は立って居ることすら出来なくなった。
な、なんた? これは、体が熱い、苦しい、何だよ.これ? どうなってやがる。クソ! 何か仕込んでやがったのか。
一人の黒服が倒れ込んだ俺に、剣を突き刺そうとした。
「姉御!? おい止めろ! それは、俺達の女神何だ!!」
だめだ、来るな! ガロード! だがもう声すら出ない、其奴が思いきり俺に剣を突き刺そうとした。だが俺は何も感じ無い。
おい、何だよ? 何で俺の上にガロードが‥‥‥
「あ、姉御‥‥‥守るのは、俺達だって、言っただろう‥‥‥くそう、姉御の‥‥花嫁姿が、見たかったな‥‥‥綺麗何だろうな‥‥‥」
何だよ・・・いくらでも見せてやるよ、だから死んでんじゃねえぞ‥‥‥おい! ガロード、お前勝手に死ぬとかぜってぇ許さねえぞ!!
俺は強くがロードを助けたいと願う。その時だ、俺の中から何か暖かい柔らかな別の何かが出て来た。そしてそれは言った。
『貴女がもっとしっかりしてればこんな事にならなかった。こんな悲しい結末なんてなかった』
『はあ? 誰だよ、うるせえよ、ぐたぐた説教垂れる位ならガロードを助けろよ!!』
『言われなくてもそうするわ、でも貴女は大っ嫌い』
『嫌いでも何でも良いからガロードを助けろ!!』
その時俺の中で何かが切り替わったのを感じた。さっきの女が俺の体を乗っ取ったのだと俺は直ぐに気が付いた。
『アスラン、貴方は少し時間を稼いで、ガロードを助けます』
「姉御? いや声が違う、でも姉御?」
『説明は後でします、今は時間を稼いで』
「わ、分かりました! もう一人の姉御!!」
『大地の母たる大いなる女神ガイアよ、我が祈りを聞き、我が願いをかなえたまえ。この者の迷える魂を今一度、この身に宿したまえ。祈りは愛、言葉は愛、大いなる女神ガイアの愛にて、この者に再び命の息吹を!! リバイブ!!』
「姉御が詠唱してるでやんす!」
するとアリスが強烈に光りだし、背中から天使の羽根がバサッと生えた。そしてアリスから天使の羽根をはやした幻影だけが飛び出し、両手を胸の前に広げた。そしてその手のひらに光る弾が浮き上がった。その弾をアリスの幻影はガロードの体に入れてしまった。
「あ、姉御が本当に女神になったでやんす‥‥」
「凄え! やっぱり姉御は本物の女神だったのか!」
そして幻影が再びアリスの体に戻った。
『聞きなさいアスラン』
「何でやんすか姉御!」
『この魔法は神聖魔法のリバイブと言って、成功率は50%しか有りません、後はガロードの意思次第。
私はもう一人のアリス、あなた達の知っているアリスは今昏睡状態に有ります。私とてアリスを助ける力はありません』
「あ、姉御はどうなるんですか?」
『彼女と私は一心同体、彼女が死ねば私も死にます』
「な! そんな!」
『良いですかアスラン、ガロードは今必至に生へと垂らされた一本の紐を掴もうとしています。彼の生への執着を阻害するような事を回りでしては駄目。私が死んでも彼が生き返るまではそれを彼に知られるような事はしないで』
「姉御!!」
『出られる時間はもう限界、後は‥‥お願い、します』
「姉御! くそう!!」
「兎に角此奴ら何とかしなきゃよ」
「何事だ!!」
「ち! 引け!!」
程なくして憲兵隊が駆けつけ、刺客達は逃げて行った。そこには青い顔をしながら倒れているアリスと、血塗れで倒れているガロードがいた。




