21話 売国
現フォルテシア王国は、議会制を取っている。つまり立憲君主制を取っている国だ。だが現代の日本やイギリス等とは違い、王家にもそれなりに力はあった。だが立憲君主制を取っている以上、次期国王は元老評議会と貴族の多数決で決まり、国王と言えどそれに従うしか無い。
ここで最大派閥であった王家派閥が、第一王女ラフィールによって、聖女派閥が地方貴族派閥へ移る事により、完全に負けてしまう事が確定してしまったのである。これにより、次期国王が第二王子ライオネットになってしまう事がほぼ確定してしまったと言っても過言では無い状態となった。
国王とダニエルは焦った。そんな2人の元へ、タルタリー帝国からこの局面を覆す話が齎される。
だがこれは、明確な売国行為だと言っても過言では無い内容だった。
エルメア大陸東側、つまり人族の住む大陸には、2つの巨大国家が北と南に存在している。その中間に、フォルテシア王国等の小国が幾つか存在している。北には巨大軍事国家、タルタリー帝国があり、南にはボストニア王国が存在している。
現存しているフォルテシア王国や他の小国は、タルタリー帝国からの侵攻に備え、其々ボストニア王国と一定の条約を結んでいた。
タルタリー帝国は南侵政策を実施し、次々と様々な小国家を侵略し、その尽くを属国化していた。そんな中、小国家群の各国は、ボストニア王国へ助けを求めた。それが所謂軍事通商条約だった。
この条約はあくまでもタルタリー帝国を刺激しない為、形式上は通商条約を結んでは居るが、何方かの国がタルタリー帝国から不当な侵略を受けた場合、 それに軍を派遣する事が条約内容に記されている。つまり内容は軍事条約だった。
だがそれでも安心出来なかったフォルテシア先代国王は、何とかボストニア王族との婚姻関係を結びたかった。やがて国王は自身の長男へ、ボストニア王族から姫を貰い受ける事に成功したのだ。この姫こそが、第一王女ラフィールの母だった。
しかしラフィールを生んだ2年後、この姫は亡くなった。だが忘れ形見であるこのラフィールをボストニア女王エスメロードは大変可愛がっていた。これにより、ボストニアとフォルテシアの同盟は強く維持されていたのだ。
この様な現状を完全にぶち壊してしまう事を国王とダニエルはしでかそうとしていた。2人は自らの保身の為に、タルタリー帝国皇子の留学を受け入れてしまったのである。
これは元老評議会議員達も知らなければ、当然ダニエル以外王子王女達も全く知らされてはいなかったのだ。知っているのは王家派閥の中心にいる数名だけだった。
「しかし父上、どうやって姉上かエリザベートを皇子に嫁がせるのですか?」
「皇子はエリザベートとはどのみち学園で合う。だが本命はラフィールだ。皇子にラフィールを気に入ったと言わせれば良いだけだ」
「言わせるだけ? 父上、それはどう言う意味が」
「よいか、タルタリー帝国は強大な軍事国家。あの国と争いたい国は無い。無論ボストニアとて同じ事。我がフォルテシアも当然タルタリーと争いたくは無い」
「あ、ああ! そう言う事ですか」
「そうだ、タルタリー帝国へ我が王家の者を嫁がせれば、彼の国は我が国に攻め込んで来る事は無くなる。これはあくまでも国の安定を図るための尊い犠牲なのだよ。だが留学の事は絶対に隠さなければならん。あくまでも相互の国の安定の為、タルタリー側から持ちかけられた話しだとしなければならん」
「ではどうやって皇子をラフィールにあわせますか?」
「何、そう簡単にタルタリーの政変は終わらん。急がんでも機会は何れ訪れる。兎に角皇子受け入れの話を先ず煮詰めるのだ」
こうしてタルタリー帝国第一皇子、ランスロットタルタリーは偽名を使い、フォルテシア王国王立学院へ留学した。
だがこの留学は、とある目的の為に仕組まれた、タルタリー帝国側の偽装だった。タルタリー帝国での政変による内戦は、とっくに片付いていたのだ。
それはこの時から始まった。ランスロットの元へ女神から神託が降りたのだ。
『ランスロットよ、ランスロット』
「あ、もしかして、ファム様ですか・・・」
『よく聞きなさい、ランスロットよ、お前の待ち望んだ者が、ようやくアルフヘイムへ訪れる』
「え! ・・・ファム様」
『久しぶりですね、ランスロット。ようやくお前との約束が果たせそうです』
「それは、それは本当ですか!!」
『前の様な中途半端な形ではありません。今度はお前が待ち望んだ、真の形での転生です。これでお前との約束をようやく果たせます』
「本当ですか! 待った、本当に、どれだけの月日待ち望んだ事か。フィーネ、ようやく君をこの手に抱きしめる事が出来る」
『お行きなさい、ランスロット。あの子はフォルテシアに現れます。10年後、フォルテシアの王立学院で出会う事が出来るでしょう』
「ファム様、はい! 有難う御座います。今度こそ必ず、もう絶対放さない。絶対にだ!! アーサー!!」
「父上、お呼びですか」
「ラウンズ全員を呼び戻せ、国を元に戻す」
「父上! それでは母上が!?」
「そうだ、フィーネが帰って来る!」
タルタリー帝国はフィーネと言う少女の為に造られた国だ。そしてそれを作った者は初代タルタリー帝国皇帝である。そしてこの初代タルタリー帝国皇帝は、なんとまだ生きていた。この世界の女神ファムは、初代皇帝ランスロットととある約束をした。
どれだけの年月がかかるか解らない、だがそれでも待ち続けるのか? とファムはランスロットに問うた。そしてランスロットは答えた。
待ち続ける、フィーネをその手に取り戻す為なら、何時までも待つと。
そしてファムは約束した、必ずフィーネをランスロットの元に戻すと。
ランスロットは待ち続けた、もうどれだけの月日が流れたのか、それはもうランスロットにも解らない。何百年なのか、何千年なのかも、もう解らない。だがランスロットはそれでも待ち続けた。
ランスロットはその間、フィーネがかつて作った小さな小さな国を再び作った。そしてそれは巨大な帝国となった。ランスロットはフィーネが再び戻って来るまでに、その国を作る事を誓った。
その国造りにはランスロットとフィーネの愛する子供達も一緒に加わった。ランスロットとこの子供達は母であるフィーネが付けた名を名乗った。
ナイト・オブ・ラウンズ。帝国最強の伝説となった者達だ。
そう、第一皇子こそが、その初代皇帝であった。そしてナイトオブラウンズこそが、フィーネの子供達だった。
そこからの第一皇子の動きは正に電光石火だった。ナイト・オブ・ラウンズと呼ばれる最強の部隊は散らばっていた各地から集結し、長兄アーサーペンドラゴンの指揮の元、次々と敵対派閥の者達を粛清していった。
皇女派閥は早々に降伏、何と僅か一週間で、第二皇子派閥の者達は皆殺しに、皇女派閥は降伏。ここに第一皇子が皇太子となり、更に戴冠式迄が行われ、タルタリー帝国皇太子は、正式にタルタリー帝国皇帝となった。
そしてタルタリー帝国皇帝は、偽名を使い、フォルテシア王国王立学院へ留学したのだった。
その頃フォルテシア王国第一王女ラフィールは、自らがフォルテシア王国にいるといらぬ争いが起きるかもと懸念し、ボストニア王国へとその身をよせていた。そこで数百年生きているヴァンパイアの女王である、エスメロードから、ラフィールはとんでもない事実を聞かされたのであった。
ラフィールは驚愕した。そのタルタリー帝国の真実を聞かされ、フォルテシア王国が滅びるかもしれない事実を彼女は突きつけられるのであった。




