20話 国王の企み
物語は中盤へと入ります
現在のフォルテシア王国には、派閥があった。王国貴族も其々の派閥のどれかに大体属している。
二つの大きな派閥と、その二つには及ばないが、無視出来ない程大きな後ろ盾がある第三の派閥。現在この第三の派閥がある事により、大きな二つの派閥は思う様に動けないでいる。そう言う意味では、この第三の派閥がある事により、フォルテシア王国は醜い権力争いが起きていなかった。
1つ目の派閥は、時期国王へ第一王子ダニエルを押す、国王と第一王子ダニエルを頂点とした、王家派閥である。この派閥には中央貴族達が所属している。
2つ目は第二王子ライオネットを押す地方貴族派閥である。この派閥が出来たのには理由があった。前国王迄は地方財政にも潤沢な予算が組まれ、治水工事や過疎化を防ぐ事が出来て居たのだが、現在の国王となってからは、地方に回される予算がどんどんと減り、中央は益々発展し、地方はみるみる内に過疎化し、治水もままならず、洪水被害は彼方此方で続出し、それにより凶作続きとなり、更に地方市民は飢え、中央市民は肥える。中央と地方の格差は開く一方となった。
これに異を唱えたのが第二王子ライオネットだった。ライオネット王子は持ち前の正義感から、地方への予算配分を見直す様国王へ何度も進言した。それにより要約多少地方への予算が改善された。
当然地方貴族達は、時期国王にはライオネットを押す事となり、此等はどんどん大きくなり、王家派閥へ匹敵するまで大きくなってしまったのだ。
そして王家派閥には最近不味い流れとなったある出来事が起こっていた。それは第三の派閥である、第一王女ラフィールを押す教会を中心とした聖女派閥が、ライオネット王子と歩調をあわせ初めたのだ。
聖女派閥と言うのは、聖女こそがフォルテシアの本当の女王であるとする、教会勢力が中心となっている派閥である。数こそ少ない物の、聖女を崇める教会派貴族には、四大公と言う、王族大公爵家の内2つもの公爵家が存在する。セシリーの実家であるフランソワ大公家、ギルバートの実家であるオーラル公爵家がこの教会派閥であった。
そこに最近エリザベート第三王女が聖女候補、つまり聖魔法の適正がある事が判明した。第一王女ラフィールは、この聖女派閥の筆頭である。ライオネットとエリザベートの仲が極めて良い事から、ラフィールは聖女を大切に扱うライオネットこそが、時期国王に相応しいかもしれないと公言してしまったのだ。そこにはダニエルの無能さに我慢の限界が極まったラフィールの怒りもあった様だ。
ダニエルはライオネットの意向を汲んだ、地方財政の見直しに異を唱えた。地方に財政を回すくらいなら、中央軍閥をもっと強化すべきだと言い放った。これはつまり、自身の派閥の強化を行う事を意味していた。これにラフィールが激怒した形である。
何故フォルテシア国内で小規模なこの聖女派閥が力を持っているのか、それはラフィールのバッグの存在が有るからだ。
如何に四大公の内の二家がこの派閥に居るからとはいへ、圧倒的に数の少ないこの派閥が、他の2派閥を凌ぐ力があるとは思えない。
だがラフィールのバックには、不慮の事故で亡くなった元フォルテシア王妃で、ラフィールの実母の存在が関係していた。そのラフィールの母は、大陸でタルタリー帝国に匹敵する大国、ボストニア王国出身であったからだ。つまりラフィールのバックとは、ボストニア王国そのものだった。
このラフィールがライオネットへ付いた事で、完全に派閥の力関係が塗り替わったのだ。これに焦った国王とダニエルは、絶対にやってはいけない事に手を伸ばしてしまったのである。それは、最早売国と言っても過言ではない行為だった。
話しはアリスが入学して間もない頃まで遡る。その日第一王女ラフィールは、自らの思いを国王との謁見の間で口にした。
「お父様、何故地方へ振り分けた予算をまた再び削るのですか。今年も地方の幾つもの田畑が川の氾濫により、不作続きとなっております。これでは地方の農民が税も払えず、貧困は更に拡大してしまいます」
「姉上、農民共が税を払えなければ、妻子を奴隷として売れば良いだけ。それよりも我が王家を守護する中央軍閥の強化の方が、優先事項なのですよ。タルタリー帝国は今家督争いの真っ最中。だがそれが治まればいつこのフォルテシアに牙を向けて来るかもしれないのです」
「それはボストニアとの通商条約があるでしょう! お祖母様は通商条約と言えど、不当にタルタリーが我が国ね攻め込むので有れば、軍を出してくれると御約束くださっているのです」
「何時迄もボストニアが守ってくれると考える、姉上のお花畑な考えには賛同出来ませんな、我が国はそろそろ自立するべきなのです」
「それは国民を貧困にしてまでやる事なのですか! 国民が安心して働ける環境を作ることが、先ず王家が成すべき事でしょう」
「だからこその中央軍閥の強化なのですよ。タルタリー帝国の侵攻から国を守る絶対的な力あってこそ、国民は安心して働ける」
「貴方とでは会話になりません。お父様、お父様はどの様にお考えなのですか? お考えをお聞かせください」
「ラフィールよ、そなたの言い分も解る。だがワシも概ねダニエルの考えに賛同している。だからこその今回の予算配分なのだ。解ってくれ」
「ふっ・・・」
ラフィールは、自分を見て密かに笑ったダニエルへ、まるで生ゴミでも見るかの様に一瞥して、国王へと向き直った。
「・・・そうですか、判りました。ならば私は今この場で宣言致します。私はライオネットを応援する事に致しますわ」
「な! 姉上!!」
「ラフィール、お前は自分で今言った言葉の意味を理解しておるのか!」
「勿論解っておりますわ。フォルテシアは恐らく長い政変に突入する事になるでしょう」
「それが解っていながら何故お前はその道を選ぶのか!」
「勿論、腐った王家の膿を出さなければ、国民が更に苦しむ事になるからです」
「傲慢がすぎるぞ! 姉上」
「その言葉はそのまま貴方にお返し致しますわ、ダニエル。お父様、そしてダニエル、私は前にも言いましたわよね? 私はフォルテシア王家を継ぐつもりは有りません。私は正しい治世を行ってくれる方に付くと。お忘れですか?」
「忘れてはおらん、だからこそ今は中央軍閥の強化が必要だとワシは判断したのだ」
「そのお父様の判断は多くの無垢な国民を殺します。故に私はライオネットの考えに同意するのです」
「姉上、ならばこのまま姉上を帰す訳にはいきませんが」
その言葉をダニエルが言った瞬間、ラフィールの周りに黒服の者達が姿を現した。
「ぬ! 皆の者、下がれ!! 鴉・・・そうか、ラフィール、お前は既に」
ダニエルの言葉に反応した近衛騎士達が、国王の言葉で下がった。それはボストニア王国の諜報部、鴉がラフィールの周りに現れたからだ。
このボストニア王国の諜報部隊鴉は、ボストニア王国に何百年も君臨する女王エスメロードを守護する者達であり、その者達は不死の身体を持つとされている。
何故この者達が不死なのか、それは完全なる不死ではないが、限りなくそれに近い者、つまりヴァンパイアだからだ。そして女王エスメロードがそのヴァンパイアの女王であった。フォルテシア国王は知っていたのだ。この者達が何百年もエスメロードを守って来た者達であり、フォルテシア王国近衛騎士団が何人でかかろうが、この者達を倒す事が出来ない事を。
「父上! だがこのまま姉上を行かせるのは」
「黙れ! この者達は鴉だ」
「お父様、お父様が今お考えになった通り、私は既にこうなる事を予期しておりました。ですが、出来ればこうなってほしく有りませんでしたわ。お父様が解ってくださるのを私は願っておりました。ですが、欲にまみれて独裁者になろうとしているお父様とダニエルをこのままにしておく事は出来ません。
それではお父様、ダニエル、ご機嫌よう。それと、ライオネットの周囲にも既に鴉を付けております。よろしいですかお父様、そしてダニエル。ライオネットに何か有れば、それはボストニア王国を敵に回すことだとご判断ください」
こうしてフォルテシア王国は真っ二つに割れたのだ。そして力の天秤は、大きく第二王子ライオネットへと傾いたのだった。
この後、国王とダニエルへ起死回生となる出来事が舞い込んで来たのだ。それはタルタリー帝国から、第一皇子を偽名で王立学院へ入学させたいとの知らせがあった。それは今起きている相続争いから皇子の身を守る為だとの事だった。なのであくまでも偽名での留学とし、タルタリー帝国下級貴族の身分を用意するとの事だった。
この知らせに国王とダニエルは飛びついた。国王とダニエルは、このタルタリー帝国皇子に、先ずはラフィール、それかエリザベートの何方かを婚約させる事にしたのだ。
ラフィールがタルタリー帝国へ嫁げば万々歳。それが出来なくとも、聖女候補であるエリザベートが帝国へ嫁ぐ事で、教会派閥全体をラフィールが纏め上げる事が出来なくなるだろうと考えたのだ。
だがこれは、明確な売国行為であった。




