17話 ガサ入れ
ようやく物語序盤が終わります。次から中盤へと差し掛かります。
アリス達は何時もの通り、溜まり場にしている談話室で注文の物を作成していた。
勿論アリスは寝っ転がって本を読んでいるだけだが、アスラン達はメッセージカードを入れたりして、忙しくしている。
「うわっはっはははは、堪らねえでヤンスね! 姉御!!」
「おう! 笑いが止まらねえな!!」
「皆姉御が貧乏してて大変だから、少しでも足しになるならって買ってるぜ」
「馬鹿、そんなもん買うための方便だよ、どうせ姉御の匂いを嗅ぎたいだけだ」
「実は俺達の匂い何だけどな!」
「だははははは! 幾らでも嗅がせてやるでやんす」
だかそこに突如として飛び込んで来た者達がいた。
「全員そこを動かないでくださいな!!」
「な!?」
それはエリザベート達や、裏生徒会の面々だった。
「やべえ! ガサ入れか!?」
「証拠品を押収しなさい!」
「おい! 令状はあんのか!?」
「何を言っておりますの? 貴方は私達と一緒に来なさい!!」
「いて! いてててて!! セシリー! 暴力反対!!」
俺はセシリーに耳を引っ張られながら、連行された。そして裏生徒会によって、アスラン達も拘束され、連行されたのだった。
そして今腹を押さえて窒息寸前で大爆笑している者がいた。この国の第二王子にして、裏生徒会の会長でもあるライオネット王子とギルバートである。
「わははははは!! ひぃ!! 腹が痛い! 死ぬぞこれは!! つ、つまりアスラン達の穿いたパンツをアリスが穿いたように見せかけ、う、売っていたのか!! あはははははは!!」
「第二のパンツ詐欺、ヒィィ! 腹が痛い、もう駄目だ!!」
「ほ、本当に次から次へと、もう駄目だ。腹が! 腹が! ケヒョ! ケヒョ! む、咽る」
ダン!!
「笑い事では有りませんお兄様!! 仮にもこの学園で詐欺でパンツを売っていた事も然る事ながら、それを伯爵家や子爵家等の貴族の子息が共謀して詐欺を働いていたのです!!」
「まあまあ、と、兎に角事はあまり大袈裟には出来ないな」
「購入履歴の名簿も押収致しましたわ」
「ん? ‥‥‥‥お、親達も買っていたのか‥‥‥そ、それにこの、ピー! は、な、何だ‥‥‥」
「その名の通り、ピー! ですわ」
「な、何に使ったのだ?」
「私が知るわけ在りません!!」
結局事が事だけに、当然公に出来る訳が無く、この件は極秘裏に処理され、俺達は一週間の謹慎処分にされた。そしてその間飯時以外は寮から一歩も出れない、売り上げも全て没収、地獄である。
更に俺にはエリザベートから、三ヶ月の保護観察処分が言い渡された。毎日日記を付け、日記を持参しながら、週2階のエリザベートかリーザベルトとの面談である。ごねたら今回の事を親父に言って、どう処分するかを相談すると言われ、仕方なく服役する事にした。
謹慎が開けたあと、俺達は次の稼ぎ方を考えるべく、放課後学内のレストランでだべっていた。
「くそ、まさかバレるとはな‥‥冒険者だけじゃ稼ぎもたかがしれてるし、エリザベートに資産は抑えられてるし」
「次はどうします? 姉御」
「暫くパンツは封印だしなぁ、何かいい手を考えねえとな」
そこに上級生の男子学生が来た。かなりのイケメンだ。てか元男の俺から見てもカッコいい。
「君がアリスさんかい?」
「そうですけど、あなたは?」
「間近で見ると本当に美しい、よし、君を我が妻に迎えよう」
「熱でもあるんですか? いい医者紹介しますよ」
「熱も無いし医者も要らないよ」
「あ!? 思い出しました姉御、この人俺の上客で、一番初めにピー! を買ってくれたお客さんですよ」
「いや! その節は世話になったね!」
「それで? そのピー! はどう使ったんですか?」
「勿論美味しく頂いたさ! こんな美しい女の子のそれは正に黄金! そして聖水だ!!」
「ああそうですか。なら良いことを教えますね、どうせもう商売は出来ないし、あれってこいつが出したやつですよ」
「え!? ‥‥‥‥今何と」
「だから、此奴が出したやつだって言ったんです。パンツも此奴がはいたやつですよ」
「で、では・・・もしかして、天使の涙も全て・・・・」
「テへ!」
ガロードが可愛くテヘペロをやった。かなり気持ち悪い。
だがまさにその男子は、アニメのワンシーンのように、顔が下から上へと急激に真っ青になった。
そしてやはり‥‥‥こうなった。
「オボエエエエエエエエ!! オロロロロロ!! ボッファァァァ! オボェェェェ!!」
そしてトイレに走って行ったが、ここまでその盛大なゲロ音声は響いて来た。やはり相当気持ち悪かったのだろう。俺なら自殺もんである。
「あそこまで吐く事ぁねえと思うんですけどね? ちょっと傷つきますよ」
「いや、気持ちは充分に解る」
待つこと20分、ようやくその男子は真っ青な顔をして戻って来た。
「この僕とした事が、完全に騙されたよ。まさかこんな手に引っかかるとは。
だがこれで僕も本気になれたと言う物だ。君をわが物にして、今度は正真正銘君の物を頂くとしよう!!」
「ガロード、お前のを食って頭までおかしくなったようだ」
「酷くねえっすか? 姉御」
「僕は本気だよ? 君をどんな手を使ってでも僕の物にする。ああ、言い忘れていた、あまりにも美しいレディだった物で、名乗る事すら忘れていたようだ。僕の名は、ランスロット タルタリー、以後お見知りおきください、アリスお嬢様」
さっと俺の前に片膝をついて、頭を下げた。
「ちょっ! タルタリーって‥‥‥‥帝国の第一皇子‥‥‥な、何故あなたが学園の制服を?」
「ちょっとした秘密留学だよ、色々有ったけど、僕は君に決めた。いや、君が現れるのを待ち続けたと言った方がいい」
「‥‥‥そうですか、熱烈なプロポーズですが、お断りします」
「その権利を君は行使できないと思うよ? 言っただろう? どんな手を使ってでもと。例えば片田舎の農民二人と娘一人など、僕にとっては造作も無く消す事だって出来るんだ」
俺はその答えに深い殺意で応えた。
「それをするなら俺は地獄の果てにだってお前を追いかけて行って必ずぶっ殺してやるぞ」
「やはり君はそっちの方が合っているよ」
「舐めてんじゃねえ!!」
俺は小さく小声で口ずさんで、祝福を自らにかけた。そして立ち上がり正拳を顔面に向かって思い切り入れたが、何とランスロットは軽くそれを掴んだ。
「な!? 嘘だろ、テメェ!」
更にテーブル席から一気に飛び出し、右足で前蹴りを入れたが、それも難なく止められた。頭に来た俺は何度も突きや蹴りを出したが、それを悉く全て交わされたり止められたりする。
「うわ! 嘘だろ? 姉御が手も足も出ねえ!」
「巫山戯んな! 見てねえで手伝えこの野郎!」
「て、手伝えって言われても、早過ぎてもう俺等の目じゃ負えませんよ!!」
「異次元の攻防でやんす」
やがて俺はくるっと回されランスロットの膝の上に座らされた。
「て、てめぇ、何の真似だこれは」
「可愛い君を僕の物にしたってことさ」
「テメエ巫山戯んな!!」
蹴りを頭の後ろに入れたが、それも交わされた。確実に強い、悔しいが俺では手も足も出ない。しかも完全に遊ばれていた。
「そんなに暴れたらスカートの中も見えちゃうよ?」
「くそ!! 解ったよ! 話し位聞いてやるからはなしやがれ!!」
「このままでいいよ、柔らかくて気持ち良いし」
「俺がよくねえんだよ!!」
しかしここまで俺の全力を防ぐ奴が居るなんて、信じらんねえ。こんなに見事に負けたのは前世も含めて初めてだ。
「そんで? 俺を嫁にするってアホな話し、してみろよ」
「アホな話し? さっきも言ったが僕は本気だよ」
「あのな? お前一応タルタリー帝国の第一王子なんだろう? 俺は聖女候補だが農民だ。そんな身分違いが許されるわけねえだろ」
「この国ではそうだろうね。でもタルタリー帝国では許される」
「んなわけあるか、この国よりも遥かに領土を持ち、総人口も遥かに多い、大帝国じゃねえか」
「姉御、実はタルタリー帝国ってのは全てが実力主義なんすよ」
「は?」
「タルタリー帝国ってのは、例えば姉御が帝国皇帝を倒せばその日から姉御が皇帝になる事も出来るんす」
「なんだそりゃ!?」
「アスラン君だったか、君の言う通りだ。皇帝は最も強い者がなる。そして官僚は最も功績のある者から順次上から役職が定められる。全てが実力主義、常に下剋上のある国なんだ。だから后の出自等関係ない。僕が君を后とすれば、それが全てなんだ」
「確かに俺が気に入る世界だな。だけど俺はこの国に恩もあるし、そしてこの国の聖女候補なんだ。この国が安々と俺を手放す事は無い。悪いこたぁ言わねえから諦めな」
「言っただろう? 絶対に僕は君を諦めない。必ず僕のものにしてみせる」
「家族に手を出してみろ、俺は玉砕覚悟でもお前をぶっ殺すぞ」
「そんな事はしないさ、それに本当にそんな事をしたら君は僕を嫌うだろう? 他に手は幾らでもあるよ」
人類国家最大の国、それがタルタリー帝国だ。その軍事力を背景に、タルタリー帝国は領土を拡大してきた。
現在この帝国は、第二皇子派と、第一皇女派とに分裂していた。
タルタリー帝国皇帝は、代々強き者にその皇位が渡っている。それは常に戦争や内部分裂での勝者がその帝位を継ぐからだ。
何故そんな無謀な帝位争いをさせるのか、その理由を知る者はいない。
「それで? 何が目的何だよ、ぶっちゃけ俺を人質にしたくらいで第一皇女派は一歩も引かねえと思うぜ」
「ああ、それね、君がどこからその情報を得たのか知らないが、その情報はもう古いよ。帝国内部の争いはもう決着が付いている。第一皇子である僕がここにいる事で察しは付くだろう?」
な!? そうだ、帝国は確か第二皇子派と第一皇女派で争っていたはず。確か国王は第二皇子と繋がりがあると・・・考えられることは、この第一皇子が第二皇子と加担して姉を倒した。それが妥当だ。
「自らの姉を殺したのか」
「姉さんは生きているよ。死んだのは間抜けな弟の方だよ」
「な!? ・・・嘘だ!? だって第一皇子であるお前が本当にここに居るなら」
「ちょっと待ってくれ、僕が本物かどうか疑って居るような言い方だね?」
「当たり前ですよ! 俺は帝国の第一皇子の顔を知らない!」
一瞬何故か凄く寂しそうな顔をしてきたが、直ぐに俺に向き直り、何処からかいきなり豪華な装飾の付いている杖を出した。
「これは?」
「君にあげるよ」
「俺に、これを? ほう、売れば高く売れそうだな?」
「あぁぁぁぁ!! 駄目だよ売らないでくれ!」
「何で? 俺にくれるなら売ってもいいんじゃね?」
「コホン、言い方を変えよう、君が僕の妻として帝国に来たら、君にそれをあげよう」
「ち!」
「‥‥‥凄い ち! だね。と言うか、それを売らないなら君に今あげても良い物何だよ。その杖の名はカリキュオン」
「え!? ‥‥‥‥嘘!?」
「やはり知っているようだね」
「だ、だって!? もしこれがカリキュオンなら、ここに有るはずがねえ! これは帝国皇妃のみが持つことを許される筈の物だ」
「本物だよ、それは皇帝が持ち主を選定して、その持ち主のみが持てると言うアーティファクトだ。僕は君にその持ち主を今選定した。アスラン君だったか、それを持ってみな」
俺はアスランにそれを渡した。
カラン!!
「え!? あれ?」
カラン!!
「持てねえでやんす!」
「嘘だろう? ほら、もう一回持ってみろよ!」
俺は持ち上げてそれを再びアスランにわたした。
カラン!!
「てか何で姐御はこれを持てるんでやんすか?」
「言ったよね? 僕が今それの持ち主を君に選定したんだ。だから君以外には、例え僕でさへもうそれを持つことが出来ない。僕は君を妻に迎えると決めたんだ。予言しよう、君は僕の所に必ず来る。だから僕はそれを今君にあげてしまっても問題無いんだ」
「‥‥‥で、でも、何で? だって今の皇帝は‥‥‥は!?」
「そう、既に僕に皇位を渡している。今の皇帝は既に僕何だよ。ただ対外的にまだ僕は皇子と名乗って居るに過ぎない。待っているよ、アリス、僕は君に世界一贅沢をさせてあげよう。そして君が僕の妻となった暁には、未来永劫君の家族とその家は繁栄することになるだろう。では今日はここで引き下がるとしよう。追って正式にフォルテシア王へ親書を送る。君を僕の妻として迎えるとね」
何が一体どうなってやがる、何故ど平民である俺を帝国皇子が、と言うか、彼奴は本当に皇子なのか? それに帝国の帝位を既に継いでるとか。マジで何が何だか意味がわからねえ。
その頃、王子王女の3人は、ギルドへ行き、エザリアに自分達が抱えている、様々な疑問をぶつけてみることにした。
「つまり、あなたたちは、アリスの成長度合いがあの子の説明だけではおかしいと言うのね?」
「はい、ポーション作りにしてもそうですわ。何故あれ程正確にそれこそ狙ったステータスを上げられるのか。それにルーン文字が読めたり、更には古代文字が読めたり。明らかにあの子は異常ですわ」
「貴族でも無いのにあれ程の魔力を持っているのもおかし過ぎます。確かに幼い頃から魔力を使う事で、魔力量や魔力強度が上がると言う説明には納得しましたわ。だけどあの子の魔力はそれだけでは説明が付きませんわ」
「それに、細かい事を言えばイーパン料理もそうですね。彼女、実際にはイーパンに行った事が無いのは本人からの話でも理解出来ます。でも出し汁からなにから全て完璧で、まるで食した事があり、元から作り方を知ってたかのような出来栄えです」
「実際にイーパンに去年迄いた宮廷のメイドに、あの娘が作った料理を味見させましたの。確かにイーパンで使われている出汁の味はするけど、料理そのものは見たことが無いらしいですわ。ですが料理研究会の会長である私が断言いたします。あの料理は完璧ですわ」
「・・・・はあ、解ったわ。ただ彼女の事を話す前に、あなたたちは私にとある証拠を示して貰わなければ、この話しを話すことは出来ないわ」
「つまり、エザリア様はアリスについて、私達の疑問に答えられる、と言う事ですわね?」
「確証は無いわよ? ただし、恐らくは間違い無いでしょうね。状況証拠が揃いすぎてるわ」
「何を示せば良いんですか?」
「あなたたちが、アリスの味方だと言う証明をしなさい。それを示さなければ、私は彼女に付いて何も話せないわ」
「つまり、アリスこそが真の聖女だと?」
「それは私にも解らないわ。ただし・・・これ以上の事を聞きたいのならば、それを示しなさい」
「証拠等簡単です、我々は王族、そしてアリスは聖女候補です。我ライオネットフォルテシアは、聖女アストライア様にこの剣を捧げることを誓います」
「なる程、我リーザベルトフォルテシアは、聖女アストライア様にこの剣を捧げることを誓います」
「我エリサベートフォルテシアは、聖女アストライア様にこの剣を捧げることを誓います」
「騎士の誓い、確かに聞いたわ、上出来よ。さて、ならばアストライアのことから話さなければならないわね。貴方達はアストライアの事をどの様に認識しているのか、先ずは聞かせてくれるかしら」
「世界を大悪魔ルシフェルから救った聖女で、膨大な魔力を持ち、桁外れの聖魔法力を有した慈愛の美しき乙女、ですね」
「私も同じ認識ですわ」
「はい、私もです」
「世界を大悪魔ルシフェルから救い、膨大な魔力を有し、桁外れの聖魔法力を有した。迄は間違いないわ。美しきと言う部分も合って居るわね。間違いはその後よ」
「え!?」
「慈愛の乙女・・・では無いのですか?」
「私の記憶の中にあるアストライアは、強欲で金に意地汚く、何でも暴力で解決しようとし、兎に角ケンカっ早くて人を殴ることに快楽を覚えるような変態極悪女よ」
「な!! ・・・」
「それではまるでアリスでは無いですか!」
「そもそも何で慈愛の乙女等と!」
「世界を救った聖女が、人をぶん殴ってパンチをクリーンヒットさせ、相手が気絶寸前のときに吹き出すヨダレを見ることで、生きている実感を得るようなイカレタ暴力女だとでも言えって言うの?」
「む・・・無理ですね」
「ええ、無理ね」
「あの子がやった悪事が酷すぎて、完全に伝承を塗り替えるのに300年以上かかったわよ」
「何をやったんですか!?」
「世界中で暴行傷害、恐喝に詐欺ね。何回牢獄に身柄を引き取りに行った事か」
「そ、そんな人が何故大悪魔を討伐しようと・・・」
「大悪魔の持つ財宝を掻っ払うって理由よ」
「はあ!?」
「んな!?」
「そもそも当初は討伐するつもりは無かったのよ」
「え!?・・・じゃ、じゃあ純水に盗みが目的だったんですの!」
「そうよ」
「そ、それじゃ盗賊と変わらないじゃないですか!!」
「仕方ないでしょう? あの子が有り金全部使っちゃったんだから」
「でもそれが何で討伐する事に?」
「侵入がバレたのよ。それでアストライアがどうせ悪魔何だからぶっ殺した方が早いって言い出したの。あの子体力が元から無かった上に、煙草ばかり吸って肺活力も足らなくて、走って逃げるのがしんどいからもうぶっ殺すって」
「それって強盗じゃないですか・・・・」
聖女伝説、そう、それは捻じ曲げられた伝説であった。




