12話 料理対決本番
評価だけでも是非お願いします。励みになります。(汗
遂に料理対決が開始された。予選の課題に俺が選んだのは天ぷらだ。あのカリッとした食感と、塩やつけダレで食べる天ぷらは絶品である。そこで先にギル達に味見を俺はさせていた。
勿論料理研究会の部屋は使わない。敵に手の内を見せる訳には行かないからだ。
「美味い、こんな料理は初めて食べた」
「本当だね、でもこれってイーパンの料理なんたろう?」
「祖母とは別に住んでいるからな、この天ぷらと言うのは食べた事が無い」
「まだまだありますよ、今回は野菜ですけど、魚や海老の天ぷらも凄く美味しいです」
「これはイーパン料理を選んで正解だよアリス!」
「だが我々が仕入れた素材を使って居ないと言うことは」
「はい、それは決勝で使います!」
「……アリス、一つ頼みがあるんだけど?」
「何ですか?」
「仕入れた分の金もいらないから、僕に決勝で出す料理を作ってくれないかな?」
「なら俺もだ、是非そうして貰いたい」
「解りました、それくらいお安い御用です。ただし、仕入れ代は支払ったと口裏を合わせてくれるのが条件です」
セコいが仕方ない。金欠の俺にはそれくらいする必要がある。
「交渉成立だね」
「合わせよう」
ギルやコレンに決勝で出す予定の料理を作って食わせたら、感動していた。まああれは日本でも高級料理の部類に入る物だ。
予選当日、会場で早速俺は天ぷらを作った。予選会場は多目的ホールだ。料理研究会の部屋で料理を作り、そこまで運ぶ。遠いので、料理が途中で冷めてしまう。天ぷらは冷めると味が著しく落ちる。これは盲点だった。
選手は審査員達に料理を提出したら、直ぐにその場を立ち去らねばならない。時間も無いし、もうこのまま行くしかない。
だが予選で思わぬ波乱を生んでいたことをこの時アリスは知る由も無かった。
予選審査会場
予選では公平をきすために、審査は学園の教師達が行う事になっていた。
「これは何だ!? 美味い。このカリッとした食感は素晴らしい」
「アリス選手が持ち込んだイーパン料理の天ぷらと言う食事です」
「確かに美味い、冷めてなければもっと美味いだろう」
「この白い物をつけダレに入れた物も辛みが絶妙に絡み合っていますね。これはこのままでも美味しいでしょう」
「大根と言う根物野菜らしいです」
「塩の方も最高だな、確かに暖かければ最高だ」
校長は天ぷらをゆっくりと味わいながら、考え事をしていた。
「どうなされたのですか、校長先生」
「リーザベルト会長、少し話が有ります、よろしいですか」
「あ、はい、校長先生」
校長は、自室にリーザベルトを連れて行った。
「この天ぷらと言うのを学食に加えたいのです」
「え!? ・・・はい、そんなに美味しいのですか」
「言葉で表すのは少し難しいでしょう。実際に食べてみて欲しいと言うしか有りません。今回は審査員の分しか有りませんが、後程アリス君に作って貰うと良いでしょう。
そして学食で生徒達の反応を見てから、これを国王陛下に献上しようと思います」
「そうですか、畏まりました、しかし・・・」
「何か問題でも?」
「アリスは少々問題行動が多くて」
「決闘の話しは聞いております。色々とはしたない面は有りますが、彼女なりに友人を思っての行動、私はそれなりに評価しています。平民と言う身分で有りながら、友人を守るために貴族にすら刃向かう、中々出来ることでは有りません」
「はあ・・・」
リーザベルトは思った。単に殴りたかっただけなのでは? と。 正確に物事を見抜いていたのは、この時ばかりはリーザベルトの方だった。
予選が終わったあと、校長命令なのでリーザベルトは直ぐに動いた。料理研究会の部家にアリスを呼んだのだ。
「何ですか?」
「アリス、実はここで天ぷらを作って欲しいのです。貴女の予選は通過しましたわ」
「おお! でもそれとここで天ぷらを作るのがどう結びつくんですか?」
「審査員達がいたくあれを気に入ったのです。それで学食のメニューに加えることになりました」
「私にメリットがあるとは思えません、料理だって生きていくための武器です。そしてそれを美味しく創るために人は努力します。何の見返りも無しにレシピを教えるなど、料理を侮辱する行為です」
金の為に思ってもいない事を平然と言うのがアリスである。だがこの言葉は料理をこよなく愛すリーザベルトには変に刺さった。
「全くもって貴女の言うとおりですわ。貴女の事を少し見直しました。ただ、貴女実技は素晴らしいけど、筆記試験随分とギリギリのようですわね? 単位足りるのかしら? このままだと、もしかしたら実家に帰る事になるかもしれませんわね? 少し調べたのだけど、ご両親、貴女を学園に送るために随分とご苦労を今でもしているようね」
そう、リーザベルトは妹から、アリスの扱い方を勉強していたのである。
「・・・・」
その時アリスの目が光った。
「研究会の様々な出し物って、その後の評価に繋がるのご存じ? ましてや予選の審査員て、先生方何ですの」
最早迷っている暇はねえ。今の俺には単位は何より大事だ。
「さあ作りましょう!! 材料は何処ですか!」
「皆さん、アリスさんに食材の場所を教えてあげてください」
早速俺は天ぷら作りに入った。先生方の為である。最高の物を作らねえとならねえ。
この時のアリスの頭の中は、最早単位の事しか頭にないのである。
「盲点でしたわ、油の温度が出来栄えを決めるなんて」
「油の温度は大事ですよ、例えばパンケーキなんかを作るときの温度はこの天ぷらを揚げる時より少し低い温度です。その温度を覚えておくと、焦がさずにパンケーキが作れます。
温度の見方で使えるのが、このイーパンで使われる菜箸です。これを油の中にいれた時の泡の状態で見ます。天ぷらを揚げる時は、油の中にこの菜箸を入れ、勢いよくこんな風に泡が出たくらいであげるのが、衣がサクッとした状態で揚げられます」
「ではこれより泡の出方が少ない状態が?」
「そうです、パンケーキを焼くときのフライパンの温度です。その温度を覚えるのに役に立つと思います」
「確かに何度か焦がしながら温度を覚えていたわ」
「こんな方法が有るのですね」
「さて、このままこの油を捨てるのは勿体ないので、普段は漉して取っておきますが、今日は丁度そこにオーク肉があるので面白い物をもう一つ教えてあげます。その肉を取ってください」
「これで良いですか?」
学食に出すと言っていたな。ここには貴族の姉弟達が数多くいる。つまり先生方は学食の評判等も気にかけて居るのだろう。ならばそれを手伝えば…
最早アリスの頭には、先生方への点数稼ぎしか無い。
「このオーク肉をこの位の大きさに切ります。先ずは肉の下地を作ります。下地は作れますか?」
「ワインに着けるんですよね?」
「なる程、ではこのやり方を覚えてくださいね。先ずはこの筋を細かく切ります。そして塩コショウをふって、この様に包丁の腹で叩きます。その後にワインに着けます」
「筋を取るのは何となく解るのですが、叩くのは何故?」
「直ぐに解りますよ。さて肉を漬けてる間にキャベツをこの様に千切りに。終わったら肉をこの溶き卵に」
「もう出してしまうんですか?」
「本来はもう少し漬けたいですけど、今のやり方をすれば、充分に下味が付きますよ」
そして腹ペコ学生の味方、豚カツを作った。
「最後にこの下味を付けたワインの残りで、ソース、ケチャップ、砂糖、塩を少々、更にこのイーパン特性ソース、醤油を加えます」
旨そうなソースの匂いが辺りに漂う。
「良い匂い、凄く美味しそうな匂いですわ」
「本当に、食欲をそそられますわね」
そして、天ぷらと豚カツを作り終えた。
「・・・・何れも今まで味わった事が無い味ですわ」
「学食に出すならこのオークカツがお勧めですね。イーパンではこの天ぷらは会席等で出される高級食材扱いですが、このオークカツは庶民の料理で、特に若い沢山食べる人向けらしいです。決勝に出すのにまだ教えませんが、とあるイーパンで食べられている主食にこのオークカツが非常に相性が良いんです」
「何ですのこのソース、キャベツをこのソースで食べるだけでも美味しいわ!!」
「本当に、これは食が進みますわね」
「つまり、貴女はこのオークカツを決勝には出さないと言う事ですね?」
「はい、もっと美味しい物を出す予定です」
「これ私達勝てるのかしら?」
「オークカツですらこの美味しさですものね」
「オーク肉がこんなにやわらかい物だとは思いませんでしたわ」
「先程の下地造りで変わって来るのですわね?」
「これで肉を叩く意味が解りましたよね?」
「平たくするだけではなかったのですね」
「叩く事によって、肉が柔らかくもなるんですよ。下味も染み込みますし」
そしていよいよ決勝の時が来た。出場枠は8人。その中で料理研究会からの出場は6人、やはり先日会った猛者達が出場していた。
あの時の包丁の使い方で実力が解った、かなりの強者達だ。
そして俺の他にもう一人、4学年からの出場で、帝国料理を予選では出してきたらしい。
タルタリー帝国は調べたが、フランス料理に近い感じの料理だった。これまた強敵である。
だが負ける気がしねえ。なんと言っても現在地球ではフランス人すらあの料理の魅力にどっぷりはまっているしな。
そして何と、この料理対決の審査員は、王妃殿下や第一王子殿下、宰相等、国のトップクラスの者達だった。
流石は王立高等魔法学園と言っておこう。
その後審査員達の挨拶が終わり、遂に闘いのゴングが鳴らされた。
助手に男二人を付けているのは俺だけだった。他は皆女性だ。この世界では、男はあまり料理に興味無いのだろう。
勿論俺の助手は、ギルとコレンの二人だ。豚カツで買収したのだ。
先ずはすかさずコレンが米を磨ぐ。持ち時間は90分の為、先ずはこれをやっておかなければならない。
そしてギルがオーク肉の下処理に入る。俺は魚を捌くところからだ。第一王子が俺をガン見しているのが解った。王妃も俺をチラチラと見ている。
今回の俺の決勝メニューは寿司、豚汁、抹茶である。当然ガリも付けた。
「では一番手、料理研究会会長、リーザベルトフォルテシア選手の料理です! 料理はミノタウロス肉の香草ステーキです。では説明をお願いします」
「このミノタウロス肉の香草ステーキの一番の特長は、肉の下処理に有りますの」
あいつ、俺の教えた下処理パクリやがった!!
「肉の下処理の段階で、先ず筋など硬い部分を細かく切り、その後塩コショウをふり叩く事で、ワインを染み込ませます。その時に臭みを消すハーブを加えることで、柔らかく、香りもとても良い物に仕上がっておりますわ。この高級ワインととても合う逸品です」
「確かにとても柔らかい、初めてこの様な柔らかいお肉を食しました」
「本当ですわ、とても柔らかい」
何得意気な顔してやがる、パクリだろう!
その後料理研究会の者達が皆終わり、全員俺の何らかの方法をパクっていた。
そして4学年からの出場選手である、ローズマリーラクシュアと言う、物凄い美人がやはりフランス料理にかなり近いモノを出してきた。
鶏肉の赤ワイン煮に、スープ・ド・ポワソンか。かなり本格的だ。
スープ・ド・ポワソンは白身魚とイワシ等をトマトスープで煮込む。鶏肉の赤ワイン煮にはかなり相性が良い。
だが、この世界には既にある味だ。魚を使う所に新鮮味はあるが、トマトスープは既にこの世界では当たり前の味だ。
いよいよ俺の番となった。まずギルとコレンにより、審査員の前に寿司下駄が並べられ、小皿や箸などが並べられた。
「これは・・・イーパン料理ですか?」
「王妃殿下、よくご存じですね」
「実家に一度イーパンの商人がやって来た事が有ります。その時にこのお箸と言う物を見せられましたの」
「使い方はご存じですか?」
「いいえ、知りません」
「ではギル、お願いします」
「では先にイーパン料理で使うこの箸の使い方をご披露します」
少し練習させ、直ぐにお茶が入れられた。そしてコレンがメニューを皆の前に置いた。
「イーパンのこの料理は、まずガリと言うその白い物を手掴みで食べる事から始まります」
「手掴みで? 箸では無いのですか」
「箸はそのスープを飲むときにお使いください。そのガリは薬草から出来ています。手に付着した悪い菌等をそれが死滅させます」
「菌?」
「お腹を壊したりするのはその菌という物が原因です。イーパンでは既にその悪い菌の存在が確認されており、その様にショウガと言う薬草で消毒する事が一般的に行われています。そのショウガは非常に強い抗菌効果と体を温めてくれる効果があり、私はポーションにそれを混ぜています」
「なる程」
「では一番初めは私がお勧めの物を握ります、その後はメニューを見てからご自身で食べたい物を言ってください」
この世界では、多少だが魚を生で食べる習慣が既にあった。だが寿司の様に、完全な生魚を主食で食べる文化は未だない。だから最初に俺は薬草でも使われるガリ、言わば生姜の話をしておいた。
先ずは中トロ、真鯛を握った。
先に手を出したのは、やはりイーパン料理を食べたことがあると言う王妃様だ。
「ん!? 何ですかこれは! とても美味しい。そしてとても上品な味わい」
「何!?、では私も」
次に国王が手を出した。
「本当だ、これがイーパン料理か。」
「国王陛下、この料理はまだイーパンには有りません。これはイーパン料理の中から私が自前であみだした物です」
「なんと!?」
この世界の日本とよく似たイーパンと言う国では、まだ寿司はない。ほおっておけばそのうち江戸前寿司が出来そうな国では有るが、コレンに聞くと、無いとの話だ。
現在イーパンにあるのは所謂押し寿司。だからこそその内江戸前が出てくるだろうと俺は予測している。
その後は審査員達の爆食いが始まった。王妃も立場を忘れ、鬼のように食っていた。勝利の女神の微笑み、優勝は作戦勝ちの俺の手元に舞い降りてきた。
「負けましたわ、まさかあの様な隠し球が有ったとは」
「闘いにおいて情報は必須ですよ。何れだけ情報を得ているかで勝敗は決定します。
元々この国の料理では私に勝ち目は無いと思ってましたからね、直ぐにイーパン料理を使うことに決めました」
「貴女は何処でイーパン料理を覚えましたの?」
「私の知識は幼い時に読んでいた書物です。私は生まれつき体が弱く、ご覧の通り成長も遅い。外で近所の子供と遊ぶような事は出来なかったんです。だから体を強くしようとあらゆる事をしました。それこそ成長が早くなるような薬や食べ物等を調べまくったんです」
「それでイーパン料理を知ったのですね。そして薬の知識も」
「はい、ありとあらゆる薬草を試しました。その中にはイーパン等で食品として使われる物等も沢山有ったんです。私はそこで確信したんです」
「何をですか?」
「食とは体の根本を作るための元となる物です」
「食事が体の根本を?」
「はい、だから魔力にしても何にしても、幼い時から食す物がその後の全てに影響してくると思っています。産まれてきた子供に何を食べさせるかで、その子が優秀な者になるか、無能になるかが決まって来ると言っても決して言い過ぎでは有りません。その位食とは大切な物です」
「美味しいだけでは駄目だと言うのですか?」
「そうです、例えばさっきガリの話しをしましたよね? あれはこの国では薬草の一つですが、イーパンでは薬草の他に食事の薬味として使われています。つまり、幼い頃からイーパンでは常に薬草を食しているんです。
そこで考えてみてください、私は例外として、何故貴族に殆ど魔力がある子供が産まれて来ますか?」
「それは、親が使えるからでは無くて?」
「ではたまに産まれる私のような平民で魔力のある子は?」
「突然変異、では?」
「そんな不確かな物より、もっと現実的な部分に目を向けましょう。つまり食です」
「食?」
「貴族は良い物を普段から食しています、逆に平民は明日食べる物すら怪しい状態で暮らしています。母体にいるときの子供の栄養は何処から取られますか?」
「それは、母親が食べた栄養から・・・・」
「そうです、もし、仮にです。この世界に取り返しの付かない程の最悪が降り注いだ時、果たして貴族達だけでこの世界を守れますか?」
「え!? ・・・それは、解りませんわ」
「ならば国力を上げるべきです。まあ平民の私が言った所でどうにかなる物でもありませんけどね」
「お待ちなさい、何か貴女は知っているのですか? 何故そこまでの考えに至ったのです」
「冒険者ギルドのギルマスの話しを良く聞いてください。私のような聖女候補が何故この時代に5人も現れたのか、そんなことを深く考えてみるのも良いかもしれませんね。それに魔物の異常発生、なんかおかしくありませんか?」
まあ俺はそう言う世界の方が好み何だが、ここは少し王族との繋がりを強化しておいた方が良いと俺は考えた。




