9話 決闘
雨が止んだ後はかなり涼しくなりますね、今日は楽だった。
魔法無しのあくまで正々堂々の決闘。貴族同士が名誉をかけて行う物であり、本来なら貴族では無い俺にこのルールは適応されないが、学園内では話は別だ。
学園内では下手な喧嘩を防ぐ目的で、侮辱を受けた者は侮辱した者へ決闘を申し込む事が出来る。
そしてそれが正当な物と判断されると、学園の教師立ち合いの元、決闘による勝負が行われる。これは身分差関係なく、均しく学生に対して与えられた権利だった。
また決闘を申し込まれた方も、正当な理由と認められれば、それを断る事も出来る。だが貴族でこれを断る者は居ない。それはあるまじき行為だからだ。だが俺は貴族では無い為に普通に断る事が出来る。
更に決闘する者どうしが異性なら、女性側は男性の代役を立てる事が可能となる。
一つ問題だったのが、オリバーが侮辱を受けたと俺に訴え、俺がその通り、侮辱したんだとオリバーを肯定した部分に有った。
勿論だが俺はわざとそうしたのだ、決闘に持ち込む為に。そりゃそうだ、こんな美味しい話は無い。正式に誰にも咎められず、人を殴りまくれるのだ。が・・・
「断りなさい、セシリーと私で何とかします」
「いえ、やります」
「解っているの!? 魔法は禁止なのよ!! 確かに魔法が使えるのなら止めはしません。ですが今回は魔法が使えないんです!!」
「解ってますよ」
「ならどうやって闘うつもりなんですか!」
「ぶん殴る?」
「巫山戯てるの!?」
「いえ! 真面目です!!」
「アリス、やめておいた方が良いぞ。あいつかなり剣術強いらしい。代役なら俺が立ってやる」
「アリス、本当に良いのです、私の事で怒ってくれた気持ちだけで、私はとても嬉しいです。でもそれによって貴女が傷つくのを私は耐えられません」
「信用無いな、大丈夫だって。伊達に冒険者やってる訳じゃ無いんだから」
「勝てる・・何か策が有るんですの?」
「だからぶん殴る?」
「駄目だわこの子・・・ギルバート、代役頼めるかしら?」
「ああ、問題ないよ」
「そうですわね、私達で何とか致しましょう」
「だから大丈夫だって言っ」
「「煩い!!」」
だが結局俺が肯定したことの重みは大きく、決闘は行われる事になった。そして俺が何としても自分が出ると押し切り、俺はようやく決闘に立つ事が出来た。こればかりは絶対に譲れない。何と言っても合法的におもい切り人をぶん殴れるのだ。こんな美味しいシュチュエーションを見逃す手は無い。
学園内に有る闘技場、そこには全ての一学年生徒達と、上級生達の姿もチラホラ見られた。
発育の悪い小さな女子生徒と、体格の良い男子生徒。誰もが勿論だが、俺が勝つとは思って居ない。裏で当然賭けも行われており、俺はしっかりと、勿論自分に大いに賭けた。そして俺に賭ける者は殆ど居ない、大儲けである。ポーションの瓶代は幾らあっても足りないのだ。そして学園の喫茶ルームの食い物やスイーツは最高である。金は幾らあっても足りない。
「これより一学年C組、オリバーコーナーと、一学年A組、アリスの決闘を執り行う。両者は先に口上を述べよ! 先ずはオリバーから!」
「おう! この女は俺とセリーヌの婚約問題を横からしゃしゃり出て、俺を侮辱した言葉を連発した! それはこの女自信認めている事だ。だからこそ、俺は名誉を守るため決闘を申し込んだ! 以上だ!」
「女子生徒相手に決闘か!」
「情け無いとは思わないの!?」
「貴族の恥さらし!!」
観客が一斉に騒ぎ出す。これは決闘の時に場を盛り上げる為に行われる、言わば余興の様な物だ。実は何を言っても大体野次が入る。だがそれは俺の口上で止まることになった。
「次にアリス、口上を述べよ!!」
「必用ありません、この世間知らずの大間抜けを私がここで叩きのめせば私の正義が示されます。以上です」
「な・・・マジかよ、凄えなあの子」
「お、おう、凄えな・・・」
「農民でしょう? 特待生だからってちょっと図に乗ってるんじゃない?」
「どうせ勝てねえよ、あの体格差見ろよ」
「魔法で特待生になったんだろうけど、決闘で魔法は使えないもんな」
この様な感じで、皆ドン引きしていた。
「では決闘を執り行う。互いに剣を合わせ!」
カシャン!
「初め!!」
先ずは3回ほどつばぜり合い、合わせてやったが、直ぐに解った。激弱だこいつ、話にならねえ。
「おい、お前まさかそれが本気じゃ無いよな?」
「何!?」
「本気出すなら早く出せ、でないと速攻で終わるぞ?」
「巫山戯やがって! なら俺の本気を見ろ!」
激しく打ち付けて来るが、全く話にならない。俺は剣を絡めて弾き飛ばした。
「なあ、拾いに行くまで待ってやるぞ?」
「な! くそが!」
オリバーは剣を急いで拾いに行き、また振りかぶってきた。だが俺はまた弾き飛ばした。そして観客がまたどよめきだした。
「お、おい、あの子めちゃくちゃ強くない?」
「冒険者やってるって私聞いたわよ?」
「・・・凄えな」
さて、そろそろ良いな。サービスタイムは終わりだ。
「早く取りに行けよ、てかお前めちゃくちゃ弱いな? 運動にもならねえよ」
「こ、こんな筈は、魔法が使えればこんな奴!」
「使えよ? 身体強化だろう? バレやしねえって」
「く、くそが!」
そしてオリバーは身体強化魔法を小声で詠唱し、バレないように使った。
「エリザベート、あれはもしや」
「身体強化魔法だわ、気づかれないように小声で詠唱してた」
「ですが・・・アリスは・・・」
「詠唱終わるの待ってたね・・・」
「まさかあそこまで強いとは思いませんでしたわ」
「だからと言って、わざわざ身体強化魔法を使わせると言うのは」
「あの子、見た目を偽って実は」
「ええ・・・頭おかしい程のバトルジャンキーなのかもしれないわ」
オリバーが打ち込んで来る、数回鍔迫り合い、オリバーに合わせてやり、頃合いを見て俺はオリバーの剣を叩き折った。その後俺は直ぐに自信の剣を捨てた。
そしてファイティングポーズを取った。
「剣での勝負なんて辞めて、こっちで相手してやっても良いんだぜ?」
「舐めやがってこの野郎!!」
来たぁぁぁぁ!! この瞬間を待っていたぜ!!
殴りかかって来たオリバーの横っ面を思いきりぶん殴り、クリーンヒットさせる。オリバーは目を白黒させながら、ヨダレを吹き上げよろめいた。
これだ! 俺はこの瞬間を待ち続けていた! 最高の瞬間だ。クリーンヒットさせたときに迸る相手のヨダレ、目をうつろにさせながらよろめくその光景は、そのまま俺の強さの証でもある。この瞬間俺は、生きている喜びを最大限実感出来るのだ。
そして俺は追い討ちをかけるように、右前回し蹴りをオリバーの後頭部にぶち込んだ。決闘は体操着で行う為、ブルマなのでパンツが見えるのを気にしないですむ。てかブルマで決闘は正直・・・まあいい。
オリバーはそのまま崩れ落ちそうになるが、俺は逆足で更に廻し蹴りを叩き込み、倒れるのを防ぐ。こんな程度で倒れられては困る。折角決闘にまで持ち込んだのだ。俺は高速で右、左、前、後廻し蹴りを叩き込み、オリバーが倒れるのを強制的に防いだ。はたから見るとさながらサンドバッグである。
「オ、オリバーの奴、あんな状態でも倒れない様に頑張ってるのか!」
「凄え根性だな、俺少し見直したよ!」
まあ俺が倒れない様にしているんだが・・・さてそろそろフィニッシュ決めるか。
オリバーが遂に仰向けに倒れる。俺は直ぐさまオリバーにマウントポジションを取り、高速で強打を顔面に何発もぶち込んだ。
堪んねえ、俺はこの瞬間を10年も待ったんだ。
気持ちいい、この曲がった鼻に思いきり拳を捻じ込む瞬間、ああ、俺は生きているんだ! と実感が湧く。清清しい晴れやかな気分だ。そして鼻血とよだれ、キレた口から血をした垂らせ、ビチャッ! ビチャッ! ッと殴る度にするこの音、まるでチャイコフスキーでも聞いているかのような美しいメロディーである。心が澄み渡って来るぜ。
ああ、遂に前歯が折れたな、いい〜顔だ。男たる者、前歯が2・3本折れていて、無い方が泊がついて良いだろう。地球では危険な薬物を吸っている事を疑われるが、この世界にそれは無いからな。
「お、おい、あれやばくないか?」
「な、あの女頭いかれてるだろう!?」
「笑ってるぞ! あの特待生顔に似合わず実はヤバイ奴だったんじゃないか?」
「鼻がひん曲がってる! 顔面ももうボコボコだぞ!」
「血塗れだぜ!」
「ちょっと審判、もう止めなさいよ! あれでは死んでしまうわ!」
そんな幸せな瞬間を俺が味わって居るとき、周囲は静まり返り、どんびきしていた。何と立ち合いの教師でさへ、その有り得ない光景を呆然と眺めていた。
動かなくなったオリバーの上に馬乗りになり、薄笑いを浮かべながら、幼い幼女が高速で顔面を殴りまくって居る、傍から見ればとてもシュールな光景だろう。
「せ! 先生! あれでは死んでしまいますわ!! もう止めてください!!」
「は!? そ、そこまで!! 勝者アリス! ほらアリス、もうやめろ!! ゲエッ!!」
オリバーの顔面は、既に誰なのか解らない程にグチャグチャになっていた。その後俺は王女殿下達に呼び出された。
「アリス・・・」
「は、はい!」
「貴女この決闘、本当にセリーヌの為に受けたんですの?」
「ももももちろんですう!!」
「ただ殴りたくて受けたのでは無いの?」
「そそ、そんな事! あ、有るわけ無いじゃないですか、嫌だな~。勿論セリーヌの名誉の為ですよ」
「それにしては、随分と嬉しそうな顔でオリバーを殴っていましたわね?」
「そ、それはですね、き、貴族に剣での勝負に勝てたと言う喜びの表れですよ!」
「嘘仰い、私とて多少剣の心得は有ります。オリバーの模擬剣は綺麗に真っ二つに折れていたわ。殆ど使われてない剣ですが、学園の備品は常に点検されています。そんな物が簡単に折れる訳が無い。考えられるのは、同じ個所に強い負荷を何度も与えられ、その上で一気に叩き折られた。
アリス、貴女はわざとオリバーと打ちあっているフリをしながら、同じ個所に何度も自信の剣をぶつけて居たんです。そして頃合いを見計らってオリバーの剣を叩き折った。そんな高等技術、達人の領域に達しているものでなければ出来ません。つまり貴女は最初からオリバーと剣で勝負する気が無かったんです」
「でもさ殿下、何でそんな回りくどい事をする必要が有るんだ? 叩きのめしたいなら別に模擬剣だって良い訳だろう?」
「そ! そうですよエリザベート、オリバーの剣が折れたのはたまたま」
「その疑問への回答は決闘前にこの子自身が答えていたわ」
「え?」
「ぶん殴ると・・まさか本当に居るとは思いませんでした。私武術の先生に聞いた事が有るの。この剣や魔法の世界で、頭の壊れた者は最後に必ず素手による格闘術に行き着くと」
「そ、それは何故ですの?」
「頭の壊れた者はね、剣や魔法、それ以外にも槍や弓などで相手を殺すことよりも、自らの拳で相手を殴り殺す事にある種の快楽を覚えるらしいわ。貴女馬乗りになってオリバーを殴って居たとき、随分と良い顔をしていましたわね?」
「つ、つまり、オリバーを殴り殺す為に、わざと剣を?」
「そう、そして其れ等頭の壊れた者達を先生はこう呼んでいましたわ、バトルジャンキー。
さて・・・第三王女エリザベートの名においてアリス、貴女に命じます。今後私に相談無しに、決闘を申し込む事も受けることも許しません」
「そ! そんな!? だ、だ、だって、決闘は全ての学生に均しく与えられた」
「貴女は駄目です特待生。王家に恩を感じているなら聞けますわよね?」
「ぬ!! わ・・・解りました」
最悪だ、決闘が出来ないのに俺は何のためにここまで苦労して来たんだ。この学園に入るのは決闘が有ったからなんだ。くそうエリザベート、あのクソ女神の化身なんじゃねえか!?
翌日、遂に学園での俺の二つ名が俺の知らない所で決まっていた。ブラッディドール、これが俺に付いた二つ名である。
オリバーの顔面はエリザベートのヒールで治してやったそうだ。物凄く気持ち悪い顔だったとぼやいていた。折角男前の顔にしてやったんだ、そのままにしておいてもべつに問題無いだろうと言ったら頭を叩かれた。
「マジかよ・・・・・しかし参ったな、決闘が出来ないとなると、後は誰かに喧嘩を売って貰って、成り行きでなっちゃった的な」
「エリザベートに言いつけますよ?」
「のわぁぁぁ!? セリーヌ、何時からそこに」
「マジかよ、あたりからです」
最初からじゃねえか。
「そんなに闘いが好きなの?」
「そ、そんな訳無いじゃないですか、嫌だな~」
「嘘が下手ですね」
ギク!
「でも、例え理由は不純でも、私の事で怒ってくださったのは事実です。本当に嬉しかったですよ、アリス」
こう感謝されると、ちょっと気が引けてしまう。
「ま、まあ実を言うと・・・結局は自分で喧嘩したかったからで、そんな格好いもんじゃありません」
「それでもです、切っ掛けはやはり私の事ですから」
「まあ、そうだね、確かに闘いは好きです。でも、こんな私でも、実は殴って良い奴と、そうじゃない奴の線引きは一応有るんですよ。奴がたまたま殴って良い奴だったんで、ついノリノリでやっちゃったんですよね」
「その線引きはどう言った線引きなの?」
「私に取って不快なやつか、そうじゃないやつか。実は凄く曖昧何だけど、つまり自分の感性が全て何です。たまにありませんか? こいつ本当に嫌な奴だな、と思うときが」
「確かに有ります。近くによられるだけで嫌だと思う人」
「普通の奴ならそれでもそこで我慢するんだと思うけど、私はそれが出来ないんですよね~」
「羨ましいですね・・・」
「羨ましいですか!?」
「はい、とても。私は何でも我慢してしまうの。そう教えられてきたから、自分らしさ何てこれっぽっちも持っていません」
う〜む、セリーヌはもうダチだからな・・・よし。
「じゃあ、ちょっとやってみます?」
「え!? 何を」
「自分らしさってやつです」
どうせ女になったんだし、こうなったらとことん女であることを楽しんでやろうと俺は思った。




