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8.意志のままに

「───!」


ヴァリディギウスの咆哮が世界に響いた瞬間、影が再構築され失った半身が元に戻る。


「まあそうなるよな」


これを想定していたノアは白雪を持つ右手ではなく、左手を天高く挙げていた。


「何故……お前に、何が起こったッ!?」


グリアノスが未だに理解できないと言わんばかりに叫ぶ。


先程までの余裕は完全に消え去ったようだ。


「───はぁ」


何故こうなったのかを知ろうとするグリアノスに対し、ノアは冷たく言葉を返す。


「───お前には、何も教えない。ただ殺す。それだけだ」


真上へと挙げた左手に漆黒の力が集まっていく。


それは魔力でもなく、理力ですらなかった。


【ノア……その力は……?】


アスティリアの不安そうな声がノアの頭に響く。


この力はアスティリアにとっても初見だ。理解できないものを恐れるのは彼女とて同じ。


【これは……そうだな、名付けるなら、『意力』だ】

【意力……?】


聞いたことのない単語にアスティリアは疑問符を浮かべる。


それにノアは名付けるならと言った。


そう、ノアとてこの力を知らなかったのだ。


【俺は殺意の権能の類する『意志の権能』という新たな力の形態を創り出した。つまりは俺がこの力の開拓者というわけだ。簡単に言えば、教科書がない。何をするにしても手探りになってしまう……だからこそ色々と考えていたわけだ。それで、今まではこの殺意を魔力で運用していたんだが、狂気に侵食されて初めて気づいた……俺の意志を現界に顕現させるには、魔力では力が足りない、と】


魔力でも運用はできる。


だが力にも向き不向きはあるのだ。


【世界内の力を扱うのが魔力、世界外の力を扱うのが理力……そしてそれらとは一切関与しない、意志を力として練り上げたもの……それが意力だ】


魔力と理力は実質的には上下関係にあり、理力が魔力の上位の力として成り立っている。


だがそこに突如として現れた意力というイレギュラー。


これはバランスを保っていた二つの力関係に介入することはなく、あくまでも独立した、他二つとは一切異なる力として確立されてある。


そうなるように、ノアがたった今創ったのだ。


意志を、第三種の力に変換する方法を。


【意力を使えば、意志の権能からなる魔法は数段上のステージへと至る……これまでとはレベルの違う魔法が使えるんだ】


漆黒の殺意が指先の大きさすらもない小さな球体として構築される。


意力により、殺意を魔法として出力しているのだ。


「くっ……!?」

「───!」


そこに込められた力にグリアノスは慄き、攻撃に備える為後方へと下がる。


それと同時にヴァリディギウスが前に出て、グリアノスを守るように立ち塞がった。


「───ふっ」


ノアは、その行動をまるで嘲るように鼻で笑い、挙げていた手を前へと突き出した。


「───『死天球(ネイヴィス)』」


その球体はノアの強大な殺意を内包しており、触れた全ての存在を()()()()()()()()()()()


殺意の権能の真髄は『存在の拒絶』。


そう、あらゆる次元がその存在があることを許さないのだ。


全ての次元、全ての時間から追放された存在に訪れるもの。


───それは、滅びですら生温い程の『死』。


本来、死とは肉体が絶命することを指す。


そして滅びはその魂までもが消滅することだ。


死してなお蘇ることができるのは未だに魂が健在であるから。


だが、ノアの殺意によって殺された存在に与えられる死は普通の死ではない。


滅びとはその存在が完全に、きっぱりと終わった状態。


その先には何も残らない。


そう、完全に終わるのは滅びることであり、()()()()()()()()()


ノアは魂そのものを殺し、死に至らせる。


そして当然の如く蘇生なども不可能だ。


もう蘇ることなどできないのに、滅び去ることもできずに永劫に殺され続ける状態……


それこそが、ノアの殺意に殺された存在の末路なのだ。


「ッ!?」


それを直感的に感じ取ったのか、グリアノスは何がなんでもその黒球を回避しようとする。


ヴァリディギウスもそれを異常だと感じたようで、自身の全てを影で覆い尽くすという防御方法を取った。


キィン───


撃ち出された黒球は周囲の空間を飲み込みながらゆっくりとヴァリディギウスの展開した影に近づいていく。


数秒もしないうちにその黒球と影が───衝突した。


「───!?」


叫び声にすらならない悲鳴が空間に轟くが、殺意の黒球はそれすらも殺していく。


本体を覆っていた影が無理やり引き剥がされて黒球に吸い込まれる様は、さながらブラックホールのようだった。


「よくもエルナを喰ってくれたな───もう、死ねよ」


ノアは永劫なる死の淵を彷徨う地獄へと、ヴァリディギウスを叩き落とす。


やがて、ヴァリディギウスの影が完全に黒球に吸い込まれてその魔法は役目を終えた。


「───これで、あとはお前だけだ」

「ッ───!?」


ノアが逃げ延びていたグリアノスの方を向く。


その瞳は無機質な殺意を宿しており、最早怨みすらもなかった。


お前は、ただ意味もなく死ね───


その瞳は、そう言っているのだ。


「ッ!!」


ヴァリディギウスを消滅させられ、このままでは自分まで滅ぼされると確信したグリアノスはここで初めて恐怖という感情を知る。


(これが、恐怖……!何ということだッ!)


グリアノスは状況分析に加え、その事実をも完全に認める。


……この自己判断能力を他のものに活かせれば、彼はきっと優秀な人間となったのであろう。


だが、そんなことは起こりえない。


何故ならグリアノスは、生まれたその瞬間から魂が狂気で満ちていたから。


特に理由があったわけでもない。


突然変異の如くその魂は狂気を初めから持ち、それを操る術を知っていた。


そこに善性など欠片もない。


グリアノスは理由もなく他者を貶め、自身の狂気的な飢えを満たす悪なのだ。


(だから、こいつは殺す。ここで殺さなければならない)


ノアの紫色をした無機質な瞳がグリアノスを捉える。


翳された左手には、再度意力が集っていた。


「───『死天球(ネイヴィス)』」


先程の再現のように集う意力。


内包する力こそ大差はないが、その大きさは段違いだった。


指先程の大きさしかなかった黒球……だが、今回のそれは次元がまるで違う。


【ノア、その大きさは……!】


究極の死を与えるこの魔法に、最早威力という概念など存在していない。


触れれば例外なく殺されるのだから、どれだけ込める意力が弱かろうと等しく死ぬ。


故に、黒球の大きさは威力とは何の関係もない。


つまり、『死天球(ネイヴィス)』において大きさとは攻撃範囲だ。


グリアノスを確実に仕留める為ではあるのだろうが、その大きさは優に十メートルを超えていた。


【駄目です、ノアッ!それ以上は、グラエムそのものを殺してしまう!】


アスティリアの叫びがノアの魂に響く。


「……」


ノアはそれに対して何も反応しない。


ただ冷静に、目の前の醜い存在を確実に殺すことだけに集中している。


冷静でありながら、冷静さを欠いている状態なのだ。


「お前の生にも死にも、意味など与えない───これまでの痕跡も、これからの道も、全て殺し尽くす。ただ意味もなく───死ね」


巨大な黒球が鈍重な速度でグリアノスへと放たれる。


それは先程の『死天球(ネイヴィス)』よりも遅く、グリアノスであれば簡単に逃げ切れるであろう程度の速度しかない。


だが問題なのは攻撃範囲。


この『死天球(ネイヴィス)』が何かと衝突して爆ぜた瞬間、グラエムはその殺意によって完全に殺される。


結界門などまるで意味のないレベルだ。


放つ場所が場所だったなら、穿界の魔手すらも完全に消し去っていたかもしれない。


グリアノスの速度では、黒球からは逃れられてもその範囲から脱出することは到底不可能であった。


「ここまで……なのかッ!?」


グリアノスも、アレ(死天球)はどうすることもできないものだということを理解した。


諦めたわけではないが、もう終わるのかという考えが脳裏を過ぎる。


そんな時だった。


【───え】


アスティリアが驚いたような声を出す。


信じられないことが起こったような、そんな声だ。


少しして、ノアもそれに気づいた。


あるはずのない場所に───()があったのだ。


「───あ?」


ノアは一瞬考える。


日の位置から見て、その位置に影があるということは空中に浮いているはずだ。


影がぼんやりとはしていないことから考えても、地上からはそう離れてもいないはず。


それなのに、ノアの視界に影の元となる存在は確認されなかった。


その瞬間、ノアは思い出す。


影を媒介して破壊と終焉を撒き散らす、幻獣を───


「ま、さか───」


次の瞬間、その影からは黒い何かが現れる。


「『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!』」


そう、現れたのは他でもない───異界幻獣ヴァリディギウスであった。


「……何故ッ!」


確実に殺したはずだ、とノアが更に激昂する。


先程とは打って変わって、ノアは冷静さを完全に失って怒りのままに意力を込めた。


死天球(ネイヴィス)』の速度は速くなりつつ、攻撃対象をグリアノスからヴァリディギウスへと変更する。


意力を更に込めたことで魔法としての力は爆発的に底上げされたが、効果範囲に関しては弄っていない。


つまり、あれがヴァリディギウスに当たったとしてもグラエムは滅びる。


【ッ……ノアッ!止まってぇッ!?】


アスティリアの悲鳴が響くが、それは怒りに支配されたノアには届くことはない。


「『ガア゛ア゛ッ!!』」


先程のヴァリディギウスとは全く異なる咆哮が世界に響き渡る。


その瞬間、影がまるで世界を覆い尽くすように広がり、『死天球(ネイヴィス)』すらも飲み込んだ。


「何をッ!?」


今までとは違うヴァリディギウスの行動に、ノアは警戒する。


が、一瞬の間すらなくヴァリディギウスはその影の中から姿を現した。


「何故だ……何故お前がぁッ!」

【止まりなさい!ノアッ!】

「ッ……!」


そこでようやくノアはアスティリアの声を認識する。


「……アスティリア」

【何をしようとしているのですか!ヴァリディギウスがあの魔法を飲み飲まなければ、まだ生き残っている数百万人を貴方が殺すことになったのですよ!?】


それは……ノアも知っていた。


ノアも、この魔法を放てばこの世界に生き残っている全ての生命が死に絶えるということなど解っていたのだ。


それでも、ノアは己の意志を優先させた。


【貴方も人間です。その殺意を抑えるなとは言いません。自身の意志に任せ、相手を殺すのもまた自由です……でも、貴方の意志は殺意だけで構成されているわけではないはずです!】


そうだ……ノアの本質は確実に善性寄りだ。


グリアノスとは違い、人を救いたいという心を持っている。


それを殺意で塗り替えようと、変わらないものはあるはずだ。


「ああ……悪かった」


ノアは己の行動を振り返り、反省する。


「……次だ」


瞬時に思考を切り替え、ノアはヴァリディギウスを見る。


(何故奴は『死天球(ネイヴィス)』が直撃してまだ健在なんだ……?取り込んだにせよ、殺意の黒球の威力は減衰しないはずだ……)


ヴァリディギウスに生物としての機能が備わっているのかは不明だが、『死天球(ネイヴィス)』に直接触れて無事でいるというのは不可能に近い。


そもそも、どうやって復活したかも謎なのだ。


(『死天球(ネイヴィス)』は魂諸共殺す。いくら破壊と終焉の力を持っていようとも、それから逃れることはできない)


ノアは最初の一撃で確実にヴァリディギウスを殺した。


跡形も残らないよう、その影を全て。


では何故、ヴァリディギウスは再び姿を表したのか───


(……奴は影から出てきた。まさか、それが……?)


ヴァリディギウスは破壊と終焉の力を持っているが、それを操るのは全て影を介してだった。


影が鍵となるのなら───


「───そうか。お前はあの時、確かに滅んだんだ。あの時のお前はもういない。だから、お前は───」


ノアは真実に辿り着き、冷静にそれを告げた。


「───お前は、ヴァリディギウスの残した影から新たに生じた二代目のヴァリディギウス……ということなんだろう?」


ヴァリディギウスはあの時、自身が殺されると感知して自身の影を世界に残していたのだ。


空中に何もないのに影があることを不審に思っていたが、あれはきっと最初のヴァリディギウスが次の為に残していたものだったのだろう。


「それだけじゃない……お前、魔法を使ってただろう」


ノアは復活してからのヴァリディギウスの咆哮に違和感を感じていた。


「さっきとはどこか違うと思っていた……だが、『死天球(ネイヴィス)』を上回るのだとすれば、それ以外に方法はない。お前は咆哮を起源に魔法を発動させている……人間が魔法名を唱えるのと同じように」


これまでヴァリディギウスは権能を爪に集中させて攻撃しているだけだった。


だが、魔法を使うようになればその応用や権能の真価にまで辿り着くようになるだろう。


故に、ノアに求められるのは短期決戦。


ヴァリディギウスが破壊と終焉の真価に気がつく前に、存在を殺し尽くさなければならない。


【……ノア、破壊の真価は『事象の消失』です。概念そのものを壊すことで、その事象を初めから()()()()()()にできます。終焉の真価は『終わりの始まり』……終わらせた存在から、連鎖的に全てが崩壊していきます】


アスティリアがノアにそれぞれの真価を説明する。


そう考えると、リオエスタもヴェレイドも権能の真価を使わずに戦っていたということになる。


(まあ知ってはいたが、あいつらも本気ではなかったということだな)


ヴァリディギウスの持つ破壊と終焉は本来はデネスのものだ。


つまり、この世界とは関係がない。


だが世界が違うとはいえ、属性が同じならその真価も同一か、少なくとも似たものにはなる。


アスティリアの説明も、的はずれなものではないはずだ。


(『事象の消失』に『終わりの始まり』……破壊の真価については虚無で対抗する方がいいか。すでにないものをなかったことにしても変わりはない。終焉については……ほぼ対策のしようがないな)


やはり終焉はあらゆる権能の中でも上位に位置する力のようだ。


「……」


ノアは発動させていた『混沌災禍(ラグナヴィア)』を加速させ、虚無を渦巻かせる。


「『ガア゛ア゛ッ!』」


その途端ヴァリディギウスの咆哮によって魔法が発動され、ノアのいる周辺に強大な圧力がかかった。


「ッ!?」


終華燈車輪(シュヴェルランデ)のそれとは比べ物にならない程の衝撃によってノアは光速で地に叩き落とされる。


そして、それを見逃さない存在が一つ。


「───やはり、私は恵まれているッ!」


グリアノスだった。


「狂黎槍術───『狂月白蓮』ッ!」


狂槍(エルガンダ)から紫の狂気が放たれ、ノアが落ちた地点を覆う。


「───」


ノアはそれを認識していた。


(『狂月白蓮』……さっき受けて何となく解った。『白蓮』とは清浄や慈悲を象徴する言葉だ。だが、奴自身にはそんな思想はないだろう。つまり、『狂月』の方に意味がある)


グリアノスが清浄や慈悲などを持ち合わせているとは到底思えない。


であるならば、『狂月』こそが……


「───月のように丸く覆った空間内に狂気を満たし、白蓮……慈悲すらも消失させる……といったところか?」

「なッ!?」


突きつけられた槍の穂先を左手で掴み、ノアは周囲の狂気をまるで爆ぜさせるように払う。


狂槍(エルガンダ)の刃部分を直接掴んだことによってノアの手から血が滴る。


同時に狂槍(エルガンダ)の能力により、ノアの魂を狂気が汚染した。


【ノア!これは……!】

【大丈夫だ。世界のことに注力しろ】


そのことにアスティリアがノアが狂わないかと危惧するが、ノアはそれでも冷静に指示する。


「……なあグリアノス。まさかとは思うが、俺がこの程度で狂うとでも考えていたのか?」

「っ……!」


確かに常人なら……否、エルナやアルテマであろうとも『狂月白蓮』を使用した状態の狂槍(エルガンダ)ならやりに触れただけで自我を失う程狂気に侵食されていただろう。


だが、相手はノアだ。


ノアは狂槍(エルガンダ)を引っ張りながらグリアノスへと一歩近づく。


まるでグリアノスの耳元で囁くように、言葉を吐いた。


「───ただで死ねると思うなよ?」

「ッ……!」


悍ましさを感じたグリアノスは咄嗟に槍を手放してノアから距離を取る。


あのまま近くにいれば滅びすらも生ぬるい死が訪れると直感したから。


ノアはそれを確認した瞬間、狂槍(エルガンダ)の穂先を握り潰して粉々にした。


「『ガア゛ッ!』」


その瞬間、再度響くヴァリディギウスの咆哮。


影の触手がヴァリディギウスの影体から伸び、ノアの身体を絡め取るように拘束する。


「───一つ、気づいたことがあるんだ」


それなのに、ノアはまるで何事もないように話し始める。


「俺の外見は前世のものに戻った。でも、力は戻らなかった……本当に、それだけなのか、と」


ノアを拘束する触手はノアの身体を末端から破壊し、滅ぼしていく。


そして、左腕が無惨にも引きちぎられ、影に飲み込まれていった。


「───ははっ」


それを目にしたノアが、不敵に笑う。


「──()()()()?」


その瞬間、ヴァリディギウスの影体が───弾けるように滅んだ。


「ガア゛ア゛ッ!?」


発せられた悲鳴には魔法が込められていない。


有り得ない状況に困惑しているのだろう。


「外見だけじゃない……俺の身体は、完全に前世のものと同一となった」


それが意味することはたった一つ。


ヴァリディギウスに引きちぎられた左腕が殺意によって逆再生のように元に戻る。


「俺の身体は圧倒的な虚無を内包している……それを取り込んだんだ。無事で済むはずがないだろう?」


ノアはヴァリディギウスを見つめ、内包していた殺意を空間に解放する。


【ぐ、ぁ───】


世界に解き放たれたその殺意を受け止めるのはアスティリアの魂だ。


彼女はノアの殺意の余波によって着実に魂を削られていた。


【悪い、アスティリア……耐えてくれ】


この状態ではアスティリアとの意思疎通はほぼ不可能と言ってもいい。


だが、これさえ耐えられたのなら全てを終わらせることができる。


だからこそ、それだけを願ってノアは空間に解放した殺意を球状にした。


その内部にはノアとヴァリディギウスだけ。


「お前、何を……」

「黙れ、お前はそこにいろ」


グリアノスの声がノアの耳にも届くが、ノアは煩わしいと言わんばかりに一蹴する。


黒い殺意が完全に球として確立し、外から内側を確認することが不可能となる。


これは、ノアが狂気の縁から舞い戻った時に考えついた、ノアの殺意を最大限に引き出す方法。


そして何よりも、影がある限り何度でも再誕するヴァリディギウスへの対策でもある。


(これが、俺の殺意の具現化───)


ノア達を覆った黒球は結界のような機能を持ち、内側で起こった全てを外界に通さないようになっていた。


【……ノア、これは……?】


その殺意が全て黒球内の内側に向いた影響か、世界への余波が殆ど消え、アスティリアの負担が大幅に軽減されている。


故に苦しむこともなく、意思疎通が可能になっていた。


「この空間内で起こった出来事は、殺意の結界によって全て殺される……つまり、外界への影響は限りなくないに等しい」


この結界、そしてその内部空間は全てヴァリディギウスを完全に葬り去る為のもの。


ノアは想定通りのものができていることを確信し、小さく呟いた。


「天殺領域───」


それは、領域だ。


あくまでも神域ではなく、領域。


殺意の権能は意志の権能の中でも最も自己や他を傷つけることに特化している。


そう、意志なのだ。


これは神の持つはずの概念の権能ではない。


神の力ではないが故に、神域ですらない。


そう、これはノアが、新たに開発したもの。


その、領域の名は───


「───『裂殺侵空(ざさつしんくう)』」


その瞬間、結界内の何もかもが……死亡した。


全てを殺す殺意の領域───

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