表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

20、蝙蝠?

orz  活動報告では目算で20話くらいで完結するかも?と予告したのですが、終わりませんでした~っ!

この分だと多分後…15話くらいは余分に伸びそうです。ごめんなさい。最後までお付き合いいただけると嬉しいです…

マーキュリー《僕の出番と活躍ももっとあるはずなのに~》


 ◆蝙蝠病の謎



 ── 屋台の兄妹を手伝うおかげで食材が買えるようになったセレン。ある日謎の商人の男に助けられる。男は皇妃殿下への贈り物が盗まれたり売られているのを調査しているようだった。おかげで側妃クローリンたちの横領が発覚し断罪された。一方、側妃の実家の公爵家が携わっている孤児院は劣悪な環境で子供扱いも酷く、変な植物迄栽培させていた ──






 横領事件の発覚をきっかけに、他の不正も次々と明るみに出始めた。


 一方、セレンとアーサニクは、食糧庫を出入りするネズミや猫からの情報を元に、側妃クローリンが料理人を買収し、食材費を着服していた事実を突き止めた。腐った食材や異物だけでなく、毒迄混入された料理が、実際にセレンたちに提供されていたからだ。


 それとアーサニクが、セレンの現状に我慢ができなくなったことだ。


 ただ、陛下や宰相たちが贈り物の横領の調査をしていることで、彼らが決してセレンを無視して冷遇していたわけではなかったのだと。


 側妃達の嫉妬や、貴族派閥から自分の娘たちも側妃に上げろと言う攻撃から、守るためだったのだと気付いたからだ。


 それで彼らが信頼できると踏んで、とうとう宰相リードに直訴してみたのだ。ついでにアーサニクは、セレンが聞いたネズミや猫から得た情報をもとに、厨房での不正も告発した。


 宰相はすぐに調査を開始してくれた。


 厨房を調べた結果、確かにセレンとアーサニクに届けられる食材は、他の者たちとは明らかに質が異なっていたことが発覚したのである。


 腐りかけの野菜、古い肉、時には毒草に似た植物さえ混じっていた。さらに、分配していた使用人たちの中に、とうとう死者まで出たため、大騒ぎに発展したおかげでもある。


「側妃殿下であらせられるローレンシュム嬢が、食費を横領し、安価で質の悪い食材を使うよう料理人に指示しておりました」


「さらに、皇妃殿下に配膳される料理には、時折異物が混入していたとの情報もございます」


 料理人たちは芋づる式に逮捕された。


 特に悪質だった料理人の風上にも置けない行為をした料理長を含む彼らは、毒や痛んだ食材を平気で使っていたことが判明し、帝国内で2度と働けなくなった。


 側妃クローリンも関与を認め、処罰を受けることになった。


 彼女の実家であるローレンシュム公爵家は面目を失い、皇帝への影響力を大きく減らすことになった。


 横領した金を返し終わるまで、クローリンと女官、そして共犯者たちは借金を重ね、身を持ち崩すしかなくなった。使用人たちも紹介状なしに解雇され、再就職は困難となった。






 *****






 しかし、最も重要な事実はまだ誰にも気づかれていなかった。


 皇妃セレンが本来与えられるはずだった「月影の館」の離宮には、誰も住んでいないという事実に。


 皇帝も宰相も、皇妃が離宮ではなく、粗末な掘っ立て小屋に住み、屋台で働き、孤児院の闇を調査していることなど、夢にも思っていなかった。彼女が街に出て平民のリンとして生活していることも。


 しかし、リンとなったセレンが街で出会った商人風の男が、実は皇帝自身だったのにも関わらずだ。


 《気づけ、この鈍感な人間め!  セレンはあんな小屋にいるんだぞ!》


 宮殿に出入りする黒豹マーキュリーは、イライラしながら皇帝の周りをうろうろと歩き回った。


 何で気づかないんやねん! とマーキュリーなりに抗議しているつもりなのだから。


 《空色はなぜ気づいてやれないのだ?  あの少女は毎日懸命に生きているのに》


 しかし、皇帝にはその言葉は届かない。


 《ネズミも小鳥も知っていることを、なぜ人間には見えないのか? 見ようともしていないのか!》


 マーキュリーが近づくと、皇帝は


「お前も私を責めているのか」


 と苦笑いし、不思議そうな目を向けるだけなのだ。






 *****






 セレンは小屋に戻ると、ビスマスに水を与えながら、今日の出来事を考えた。


 皇帝が変装して街を歩いていること、贈り物の行方を気にしていること ── 彼は単純な悪人や、冷酷な人間ではなさそうだ。


 セレンは小屋で、アーサニクと今後の計画を話し合った。


「横領も発覚したし。贈り物も、本来私に渡されるはずの物を盗まれただなんて訴えてた癖に、逆に奪われてたなんてね。おかげで窃盗の冤罪も晴れたし。それに黄金の腕輪も、宰相様から手元に戻されてきたけど、まだ離宮には戻れそうにないわね」


 セレンはさらに続ける。


「皇帝陛下が本当に私を受け入れてくれるかも、わからないし……」


「そういえば、社交などに関してはどうなさるのかと宰相様におうかがいしてみたのですが、どうやらテルル側妃殿下が引き続き行うようですからね。


 ですが、少なくとも食糧の問題は解決するようですよ」


 アーサニクが微笑んだ。


「宰相閣下が直接、食材の配給を管理すると約束してくれましたから」


「そう……でも、未だ会話するには早いかな」


 セレンは小さく笑った。


「まずは、孤児院の子供たちを助けないとね。考えると、孤児院のことが心配になってきたわね」


 セレンは眉をひそめた。


「あの危険な植物、何のために育てさせているのかも調べないと」


 彼女は鳥たちに命じ、孤児院の庭で育てられている植物のサンプルを持ってくるように頼んだ。1度目に孤児院を訪問した時は、院長の目が光っていたために、遠目にしか確認できなかったからだ。それにいつか、何かの証拠として役に立つかもしれないからと。


 窓の外では、公爵家の陰謀が静かに進行していた。危険な植物はすでに収穫期を迎える ──






 夜、セレンは小屋の窓から星空を眺めた。


 ビスマスは近くの木に繋がれ、静かに草を食んでいる。マーキュリーは彼女の足元で丸くなっていた。


「やっぱり……何だか大きなことが起きそうな気がする」


 アーサニクが近づいてきた。


「それほど、公爵家の孤児院のことが気になるのですか?」


「ええ。あそこには何か秘密がある。ただの横領や虐待以上の何かが」


 セレンは胸のざわめきを感じた。集まってきた動物たちも危険を警告してきた。


「明日、もう1度孤児院を訪ねてみようかな」


 セレンは決意を固めた。


「それに、今度こそビスマスを預けたいと言う口実で」


 アーサニクは心配そうな顔をした。


「危険かもしれませんよ」


「でも、あの子供たちを放っておくわけにはいかないでしょう。ニッケルとクロムも、あそこに泊まっているんだから」


 その時、遠くで不気味な鳥の鳴き声が聞こえた。蝙蝠の群れが月を横切っていくのが見える。


 セレンは思わずぶるりと身震いした。何か冷たいものが背筋を伝った。






 *****






 小屋の中では、セレンとアーサニクが明日の計画を練っていたが、彼らが知らないところで、孤児院を経営する公爵家では、ある陰謀が進行していた。


 庭で育てられている謎の植物は、セレンたちの推測通り、ただの毒草ではなかったのだから。


 セレンが孤児院を訪れることは、この陰謀に巻き込まれることを意味していた。


 皇帝シルバーは、ようやく自分が街で出会った「リン」が、実は皇妃セレンであることに気づき始めていた。質屋での会話、アイアン兄妹商店での態度、何かが引っかかった。


 すべての糸が絡み合い、事件へと向かっていく。






 *****






 数日後。


 カラスの群れが、不吉な知らせを運んできたからだ。


 セレンは、掘っ立て小屋の窓辺に立ち、黒いベールの隙間から外の暗い空を見つめていた。


 カラスたちの心の声が、彼女の胸に重く響く。


 《あいつら、本当に酷い悪党だぜ》


 《女の子は娼館に、男の子は労働力で使い潰す》


 元側妃クローリンの実家であるローレンシュム公爵家が、孤児院の子供たちに毒草を育てさせ、十歳になると闇商人に売り払っているという。さらに、貧困街から人々を誘拐し、女性や少女は娼館へ、抵抗する者は採掘場の奴隷として使い潰しているというのだ。


「そんな……」


 彼女の赤い瞳が震えた。


 前世の日本での平穏な記憶と、この世での冷たい現実が交錯する。自分自身が忌み嫌われ、ベールに隠されて生きてきた苦しみ。それでも、彼女には守りたいものがあった。街で出会ったニッケルとクロムの兄妹、そして無数の孤児たちの未来だ。


 そして、さらに悪い知らせが飛び込んできた。


 《てえへんだ~てえへんだ~っ!》


 《変なやばい病がやってくるぞ~っ!》


 《採掘場の方には近づくなよ~っ! 危険だぞ~っ!》


 カラスたちのさえずりは、いつもより緊迫していた。


 彼らが運んでくる情報に、セレンは眉をひそめた。ベールを外した素顔のまま、掘っ立て小屋の小さな窓辺に立ち、彼女は黒い鳥たちの言葉に耳を傾ける。


 奴隷たちが送り込まれた採掘場から、奇怪な疫病が発生し、帝国領内に広がり始めているという。


 さらにネズミやコウモリからの情報も加わった。それらを総合すると、原因は採掘場の洞窟に棲む蝙蝠と、その血を吸った蚊らしい。


「蝙蝠の棲む洞窟……血を吸った蚊……」


 彼女の赤い瞳が細くなった。前世の薬剤師としての記憶が、静かに呼び覚まされる。異世界の病気とはいえ、感染経路の特定は可能だ。問題は、誰がこの情報を信じてくれるか。


「蝙蝠由来の感染症……」


 しかしこの世界には、前世では知られていない病原体も存在するのだろう。後から入ってくる情報では、町の医者も、皇宮の御典医さえ原因を特定できない中、彼女だけが真実を知った。


「町の医者でさえ知らない病気なんて……」


 彼女はため息をついた。皇妃セレンとして発言すれば、たちまち「我がままな嘘つき」のレッテルを貼られるだろう。元側妃クローリンたちの派閥が広めた悪評 ―― 傲慢、浪費癖、盗み、男漁り――それらが彼女の言葉すべてを無価値なものにしていたのだから。


「でも、ただの町娘『リン』のままでは何もできないわ……」


 それでも、放ってはおけない。


 数日悩んだ末、彼女は老教師ジンクを訪ねる決心をした。宰相から教師の一人として彼を紹介される際に、引退した元医者だと説明された。それに彼自身も、セレンがハーブや薬草について熱心に勉強をする時に、医者の視点の経験と知識から色々教えてくれた。彼なら、偏見なく話を聞いてくれるかもしれない。






 *****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ